758回目 2021/4/11
手直ししたい衝動に駆られますが、どちらも完結できたのはめでたいことです。
一回目
お題『団地妻の何か』
必須要素(無茶ぶり)『北海道』
文字数『1070文字』 完結
タイトル『姉の知らない弟の部屋』
「……呆れた。こういうの、今時パッケージで買うやついたんだ」
本棚にずらっと並んだアダルトなブルーレイの数々に、掃除をしていた私は言葉通りため息をついた。
最初に目についたパッケージには『団地妻の秘密なティータイム』、の主題の横にめちゃくちゃ長くて寒い副題がついていた。
実家を出て一人暮らしを始めた弟の部屋に入るのは、この日が初めて。当然、部屋の掃除をするのも初めてだ。
まぁ、人並みにそっちの興味が強かったと、健全な男子だった弟に安心こそすれ、見下げ果てるのはよくない。
「って思いたいのに、なんであいつは人妻やら痴漢やら寝取りやら、犯罪めいたものばっかり集めてんだっての」
棚を埋め尽くすラインナップが不穏すぎて、全然私を安心させてくれなかった。
腹が立ったので、これらは問答無用で処分してやることに。丁寧に扱うのも馬鹿らしいから、ゴミ袋にざっと放り込んでやる。
「……はぁ、こんなもんかな」
一日かけて掃除したおかげで、ごちゃごちゃしていた部屋は随分ときれいになった。
日頃の掃除をサボったツケを、なんで私が払わされなきゃならないのかと、それこそ一日使って説教したい程の有り様だった。
が、この私の腕にかかればどんな汚部屋も新築並みよ。油汚れはかなりキツかったけど。
「ふぅ、ちょっと休憩」
ゴミ袋の山を背もたれに、あらためて弟の部屋を見渡した。
家具も家電も、何もかも撤去した部屋は、もうすぐ誰か別の人が住むことになるのだろう。
いや、一度不動産の人が短期間住むんだっけか?
そうしないと、なんだっけ? 精神的瑕疵? のせいで価値がなくなるんだった、ような?
「……まぁ、どうでもいいか」
天井を見上げる。
あぁ、あそこで弟は首を吊ったのか。
警察から電話が来たのは、一ヶ月くらい前。
弟がバイトを無断欠勤するようになったため、部屋を訪ねた店長が発見したと聞いた。
遺書はなかった。が、もう半年も前から光熱費は当然、水道代も払えないほど切迫していたらしい。
むしろ、真冬の北海道でよく半年近く生きれたものだと思う。我が弟ながら、しぶといやつだったんだな。
「でも、家族にくらい何か言ってけ……バーカ」
私は怖い姉だったと思う。
弟の世話を焼くなんて、多分最初で最後だ。
もう少し、優しくしてやるべきだったかな?
エロビデオが好きだったらしい弟は、もう答えてはくれない。
肉親のはずなのに、他人の死に遭ったような気分だった。
二回目
お題『空前絶後の微笑み』
必須要素(無茶ぶり)『山田』
文字数『943文字』 完結
タイトル『いつか矛盾する出会い』
ありえない。
ありえないありえないありえない。
「……あれ? 生き残りがいたんだ。びっくり」
そいつは笑っていた。
薄く、小さく、自然に、微笑んで。
「でも、大丈夫? これから大変じゃない? まぁ、私には関係ないけど」
そいつの足元には、死体が五人分。
うち二人は、俺の両親だったもの。
残り三人は……俺の両親を殺した、強盗の一味。
この時点で、俺は家族と家族の仇を、両方失ったことになる。
「えっと……表札は山田って書いてあったっけ? 山田くん、とりあえず、病院行く?」
そいつは変わらない。
三人を殺しても、返り血を浴びても、俺が漏らしていても、変わらない。
表情が、微笑から一切変わらない。
それが怖い。わからない。気持ち悪い。
見た目は美人って言えるが、だからこそ不気味さと合わさると異様な迫力がある。
こいつは人間じゃない。
そう、声に出して叫びたいような、非現実さしかなかった。
「お、れは……父さんは、母さんは?」
「え? ダメじゃない? 動いてないし、心臓も脳も止まってるよ。治療器具と時間の無駄だね」
無意識に出た両親への心配も、バッサリとかって捨てられる。
同情も憐憫もないのがいっそ清々しいが、やはり人間味の薄い態度に恐怖が湧き上がる。
「あ、んたは、いったいなんなんだ?」
「私? んー、そうだねぇ……」
そいつは首を小さく傾けると、今まで見たことがないほど寒々しい微笑みを浮かべて、言った。
「未来人、ってやつ。そう言って、山田くんは信じるかな?」
人差し指を頬に添え、可愛らしい仕草をして微笑む女は、本気か嘘かわからないことを口走った。
己を指す指先は、先程強盗たちの心臓を抉り出したがために、血液がべったりと張り付いている。
ともかく、自分の理解の範疇を超えた出来事が三つ重なったことだけは、残念ながら事実らしかった。
「……映画みたいに、未来から俺を助けに来た、とか?」
「ううん。たまたま落ちた時代でたまたま時間があったから、ちょっとタイムパラドックスしてみただけ」
……追記。
どうやら強盗のせいで、だいぶ未来が改変されてしまったらしい。
手を入れたいのは二つ目ですが、ここで修正するのも往生際が悪いので完成したまま投稿しております。反省点が浮き彫りになって、むしろいいんじゃないですかね?(知らないですけど)




