433回目 2020/5/21
たぶん方々から怒られることを言います。
『作品は一度公開した時点で、作者の物ではなく読者の物となる』……その言葉を見たとき、私はすんなり『なるほど!』と受け入れられた。
もちろん、作者が自己満足で書いており、手元に残しているだけの作品であればそれは作者の物だろう。自分で楽しむだけの地産地消に、他人からとやかく言われる筋合いはない。
ただその作品が、故意か事故かはさておいて、一般の目にも触れる場所で他人の目にさらされて評価を受けた瞬間から、もはや作者の手から離れたものと扱われるのが道理でもある。
公開された作品は、おしなべて『誰かに見せるための物』である。でなければ『作者の物』のまま非公開で楽しめばいいだけなのだから。
『誰かに見せるための物』にした作品の価値は、すでに作者だけが下していいものではなくなっている。最低の評価を下すも、最高の評価を掲げるも、それぞれの読者にゆだねられて、全員の読者からの総評が『価値』となる。
いわば、全世界の人間を相手にした『品評会』に応募したようなものだ。インターネットという、本当に世界の人とつながれるツールを利用した場を活用していれば、過言とはいえまい。
そうした納得の上で、私は『公開された作品は読者の物』という考えを支持している。
しかし……ふと、私の中に眠る怠惰の悪魔がささやくのだ。
『公開された長編が読者の物なら、もう続きなんて書かなくてよくね?』、と。
いやいや、それは違う問題だろう。私が書いた作品のネタは、私の頭の中にしかない。私が書かなければ、誰が私の作品を完成させられるというのだ?
『それこそが作者の傲慢だとは思わないのか? お前が言ったんだろう、『作品の価値を決めるのは読者』だと。それはつまり、お前の考えたストーリーが『読者の価値』につながらない可能性もあるし、転じて『作者の決めた価値』が無意味であるという考えにも等しくなる』
それは……! たしかに。
『『作者の価値』を詰め込んだ作品でも、少しでも他人の目に触れれば『読者の価値』があてがわれ、それぞれのフィルターを通した世界を通して作品が楽しまれている。
ならば――ある程度のストーリーを開示してしまえば、残るラストまでの道筋は『読者の想像力に任せる』、ということもできるだろう?』
さすがにそれは暴論だ。私の作品は私にしか完結させられない。いくら私の作品を好意的に見てくれた人がいたとして、未だ書けていない内容までトレースできるとは限らない。
『未だ書けていない部分を読者が補完した結果、『作者のストーリー』を越えない保証もないだろう? 公開された作品が読者一人一人の物ならば、読者一人一人に『最善のストーリーやラスト』があるのもまた自明だ』
それは…………否定できない。
『お前は作者として、『価値のある作品の可能性』は示せた。『公開された作品』が『読者の物』というのであれば、もはや『公開した事実』でもって作者の仕事は『終わっている』。そうは考えられないか?』
しかし! 世の中の評価では『未完作品』は『無価値』なんだ! それはどの世界でも変わらない常識だろう!? いくら『公開した作品』であったとはいえ、『未完成』であれば意味がないんだ!
『それは『作者』であるお前の『価値観』だろう?』
っ!!
『『作者が見込んだ価値』は、『公開された作品』にどこにも存在しない。それこそ、世間に出回る『未完作品』と同じくらい『無意味』なものだ。
小説とは人が求める『空想の娯楽』であり、小説家とは人々の『想像力を手助けする人』でしかない。与えられた物語でも自ら発掘した物語でも、最後は『それぞれの人々が描く空想』でしか完成しないのは変わらないんだ』
でも……、でも……っ!!
『ほら、楽になっちまえよ。適当なところで『主人公たちの戦いは、これからも続く!』って打ち切っちまえば、『完結』したことにはなる。あとの展開は、『公開された作品』の『価値』を信じた『読者』の想像力に任せちまえばいいんだ。簡単なことだろう?
だって、『お前の作品じゃない』んだから』
う、うわあああああぁぁぁぁぁ……っ!?!?
……こうして、私は自分の中に潜む悪魔とのレスバに負けた。
いや~、マジでやったら下手すると殺害予告がきそうな世迷い言でしたね。
でも実際、ブクマ数が三桁こえたあたりから、『これは本当に自分の作品か?』って違和感がむくむく膨らんできているんですよね。だから、次のエピソードに手を着ける時、重さと怖さがのしかかるんです。
『自分の作品』とは思えなくなった作品を、私の手で追加してもいいのか? と、はまっちゃダメなネガティブに腰までつっこんでいるのは否定しません。今もちょっと怖いです。
何とか完結まではいきたいですけど……なんでこんなに指が重くなってしまったんですかね。本当、ランキングとかガツガツねらっていける作者様のメンタルがうらやましいです。




