312回目 2020/1/21
相変わらずネタがないので、どうでもいいことをちょろっと描写してみました。
――私はこの日、『壁』を越えた。
いつかくるとは思っていた。でも、まだその時ではないとも思っていた。
現実はいつだって突然ひっくり返るんだ。それを、まざまざと思い知らされた。
正直なところ、私はまだ『壁の手前』にいたかった。自分から動こうとしたわけでもないし、現状で満足していたのだから。
……いや、見栄を張るのはよそう。本当は『壁』の方から近づいてきていることに、気づいていたんだ。
なのに、気づこうとしなかった。気づきたくなかった。
自分で認めてしまったら、もう元の場所には引き返せないことを、知ってしまっていたから。
そのくせ、私は眼前に『壁』が迫ってもまだ、後退する選択をしなかった。
ただ呆然と、日毎に肉薄してくる『壁』の迫力に圧倒されて、立ちすくんだままだった。
おそらく――いや確実に、私は自分がよしとする居場所への執着が足りなかったのだ。
結果、私は望まない場所に……『壁の向こう側』に広がる世界へ足を踏み入れた。
一見すると、何も変わっていないように見える平凡な景色は、しかし決定的なまでに変化してしまっている。
自然と瞳に膜が張られ、知覚した世界がゆがみ出す。
室内にいても侵入してくる風は、冷たく動じず鼓膜を揺らす。
妙な苦しさを覚えて鼻から息を大きく吸っても、奥へ届くは逆流した涙のヘドロ。
とっさに口から酸素をかき集め、悔しさにかみしめた拍子に鋭い痛みと血の味がにじむ。
夢の中にいるような非現実感におぼれそうだったが、脱力した手のひらを固く握りしめて弱った意識に覚醒の楔を打ち込んだ。
……そうだ。
過去も真実も変わりはしない。
現実をあがき、未来をねじ曲げるしか、『壁』を再び越えることはできないんだ。
顔を上げろ、前へ踏み出せ、覚悟を決めろ。
無自覚に降り立った新たな戦場で、己の意地を貫いていくしかないんだから。
この日、私は――体重百キロを、超えた……。
正月太り……って、やつでしょうかね……(遠い目)。




