10回目 2019/3/25
どっかにモチーフ落ちてないかなー?
小さいけれど固くとがった体が自慢だ。
色んな物に気づかれないから踏まれたり蹴っ飛ばされたりするけど、頑丈さのおかげで傷を負うことはほとんどない。
もしかしたら密度も他の物とは違うのかもしれない。
小さくても強い。
ちょっとした優越感だ。
まあ、手や足がないから自分で動き回ることはできな――いてっ!?
くそっ、また蹴っ飛ばされた。ちゃんと足下を見て動けよな、まったく。
それで何の話をしていたっけ? ……ああそうか、体のことだったかな。
さっきも見ていたかもしれないが、よく他の物にぶつかることが多くて、どんどん体が丸くなるのは正直どうかと思う。
最初は角が立ってて、他の物は触っただけで逃げていたものだ。
でも、最近は角がどんどん削れていった。
踏まれて、転がって、移動する度に角の方からすり減ってしまうからだと、このごろ気づいた。
これもあれだ、密度が関係しているのだろう。
体の中心はいっぱい詰まっているけど、角はとがってて強い分、先っぽの密度が薄くなる。
だからもろいんだ。
弱くはないけど、もろくなる。
強くて頑丈ってのは、実は両立できないものなのかもしれない。
あっちが立てばこっちが立たない。
固い体を持っている代わりに、自分から動くことができないように――いだぁっ!?
オイコラ! どこ見て歩いてんだこんちくしょー!!
踏むだけならまだしも、そのまま滑るように地面とこすりあげたな!?
いくら頑丈だっつっても、痛いもんは痛いんだぞ!
聞いてんのかクソが!
そもそも聞こえてんのか、あぁ!?
おい! どっか行くんじゃねぇよ!
聞けよ! そこら辺に落ちてる小石だからってなめてんじゃねぇぞ!!
待ちやがれ! 待てよ! 待って! 待ってくれよ! 立ち止まってくださいお願いします。
……へっ! どうやらおそれを成して逃げたらしいな。
図体だけがでかい臆病者だったんだ。
ふふん、それならしょうがないな。
この固くて強くて密度がいっぱいの完璧ボディを見て、ビビらない方がおかしい。
それとも、小さいとバカにした相手から威嚇されるなんて思いもしなくてビビったのかもしれない。
肝っ玉の小さい物だ。
その点、こっちは体が小さくても器は大きいからな、過去のことは水に流してやらんこともない。
……いや、やっぱりやめた。
水は嫌いだ。
時々、上から粒になった水が落ちてくるが、たまに大きな流れになって見ず知らずの場所まで流されるからな。
水に流すって、単なる災害だろ。
そんな災害クラスの物で処理しなきゃいけないほど、過去ってのは重くて大きい存在なんだ。
それなのに、許すって言葉になるとかおかしくない?
普通許せんだろ?
このパーフェクトボディが真っ二つに割れちまっても、その瞬間から時間が少しでも経てばそれは『過去の出来事』だから、笑って許してやれってか?
そんなの、どうかしてる。
拾えたら苦労しないか……。




