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8 冒険の日2


 冒険都市ナルガンズの中心部にある冒険者組合本部の扉を潜った僕は、複数の冒険者グループに取り囲まれていた。

 と言っても僕の見た目を侮った不良冒険者に絡まれてる……ってありがちな話では無い。

 寧ろ周りに居る冒険者達の目的は真逆で、

「ラビック君、今日こそ私達『ヴァルキュリア』と一緒のダンジョンに行きましょう!」

「馬鹿言うなよ。お前等の実力じゃ宝の持ち腐れだろうが。なぁ坊主、俺等『ガイアの戦士団』と一緒に行こうぜ?」

 僕を自分のグループに勧誘する為に取り囲んでいるのだ。

 そう、モテ期ってやつである。

 ……まぁ彼等の目的は僕と言うより、僕の使える魔術の一つが目的なのだが。


 実の所、迷宮に潜る魔術師は結構貴重な存在だった。

 何故なら、以前も言った気がするが、魔術師は咄嗟の事態に弱い。

 魔術は何でも出来る可能性を秘める分、術式の構築は複雑で組み上げるのに時間を要する。

 更に何でも出来ると言う事は、その分だけ選択肢が多く、選ぶのに迷いが生じ易いのだ。


 だからこそ、冒険者達は駆け出しの魔術師と一緒にダンジョンに潜りたがらない。

 ダンジョンはそれこそ、予測不可能な咄嗟の事態が頻発する場所と言えるだろう。

 駆け出しの魔術師が呪文の選択にまごつき、更に術式の構築に手間取れば、他の冒険者の足手纏いにしかならかった。

 だがもっと酷いのは、足手纏いである状態に焦り、術式の構築を失敗して呪文を発動させた場合、そう、魔術の暴発が起きた場合だ。

 攻撃魔術を暴発させ、魔術師自身が火達磨になるならまだ良い方で、或いは仲間の冒険者達を全滅させる可能性すらあるのだから。


 全滅のリスクすらあっては、駆け出しの魔術師が他の冒険者に避けられるのは仕方がない事なのだろう。

 けれども、ある一定のレベルを越えると、その立場は全く逆転する。

 具体的には、移動距離は短くても構わないので、転移魔術が使えるようになると、途端に魔術師はダンジョンに潜る冒険者達から求められるようになるのだ。

 だって転移魔術があれば潜ったダンジョンの奥から脱出したり、再びその地点から探索を再開出来るのだから、当然と言えば当然である。

 それに転移魔術が使える程に熟達した魔術師ならば、ある程度の事態には対処出来るだけの経験を積んでいるし、魔術を暴発させる事もない。

 故にある程度以上に達した冒険者達は、自分のグループへの魔術師の加入を熱望するのだ。


 しかし世の中はそう上手く行かない物で、転移魔術が使えるランクの魔術師には、わざわざダンジョンに潜らなくても金を稼ぐ方法は山ほどあった。

 或いは魔術の研究に魔物の素材が必要となってダンジョンに潜りたい場合でも、そのランクの魔術師ならば、使い魔であるサーバントや召喚獣を用意して護衛とすれば、わざわざ成果を山分けしなければならない他の冒険者に頼らずとも単独でダンジョンに潜れてしまう。

 何らかの義理があればそれも許容するかも知れないが、相手は駆け出しの時は魔術師を嫌って弾き出した連中である。

 当然、ダンジョンに潜る冒険者に協力する魔術師は数少ない。

 まあダンジョン以外の場所では、冒険者をしてる魔術師も皆無って訳じゃないから、そう言った魔術師がダンジョンに流れて来る事も稀にはあるが。



 ……と、そんな訳でこの町、冒険都市ナルガンズに通って一年程になる僕は、他の冒険者達にモテモテなのだ。

 でも残念ながら、僕が組む相手は、今周囲に居る彼等じゃない。

 勿論先約と都合が合わなければ彼等と潜るのもやぶさかではないが、

「ラドゥ達の都合が悪かったら他の誰かと潜るけど、まずは確認してからね」

 取り敢えず何時も通りの言葉を口にし、周囲の冒険者達を置いて奥へと進む。


 冒険者組合にある待合室の一番奥のテーブル、何時もの待ち合わせ場所に、今週も彼等は無事にいた。

「よぉ、ラビ。相変わらずモテモテだなぁ。オレなら絶対『ヴァルキュリア』と行くぜ」

 そんな風に軽口を言うのは、迷宮屋とか穴鼠とも言われる、ダンジョン探索者としてのシーフ、カーイルだ。

 町中の空き巣や強盗、或いは町の外の山賊や野盗の総称である盗賊と、ダンジョン探索者としてのシーフは全く意味が違うので間違えてはならない。

 カーイルの言う『ヴァルキュリア』は、先程声を掛けて来ていた冒険者グループの一つで、女性ばかりで構成されている事が特徴である。

 なのに何故、僕を誘うのかは全く以って不明であった。


「そんな事言って、ラビックがアッチ行っちゃったら寂しい癖に~」

 そう言ってカーイルを揶揄うのは、森の民、別名エルフの弓手にして精霊魔法の使い手であるシーラ・シーラ。

 彼女は変りばえのしない森での生活に飽きて飛び出した若いエルフで、弓の実力もさることながら、陽気なその性格でグループのムードメイカーとなっている。

 まあ時にトラブルメイカーにもなるけれども。


「皆さんには申し訳ありませんが、今週も私はラビックさんと御一緒出来て嬉しいです」

 いがみ合いそうになったカーイルとシーラを仲裁しながら、僕に向かって優しい微笑みを向けるのは、癒し手でありながらも前に立って槌矛を振るう、神官戦士のディシェーン。

 因みに優しい仲裁でいがみ合いを止めない場合、躊躇わずに実力行使して争いを止める辺りがディシェーンの怖い所だ。

 前衛も務めるディシェーンの膂力には、カーイルとシーラじゃ太刀打ち出来ない。 

 尤も仲間内でいがみ合ったり、周囲に迷惑をかける様な真似さえしなければ、ディシェーンは見た目通りに優しい癒し手である。


 そしてそんな彼等を纏めるのが、

「よし、時間も惜しいし行くとしようか。ラビは今日も夜までだろう?」

 このグループのリーダーである、戦士のラドゥ・ウェーニッシャ。

 浅黒い肌に、この辺りの人々とは少し変わった風貌を持つ彼は、ずっと東に行った場所にある草原の民、ウェーニッシャ族の族長の息子だった。

 何でも一族に伝わる戦士の試練に挑む為、遠く離れた地にたった一人でやって来たらしい。



 シーラに関してはエルフな為に見た目と年齢が一致しないのでアテにならないが、カーイル、ディシェーン、ラドゥの三人は、僕より四、五歳年上だ。

 では何故僕が、先程誘って来た冒険者達よりも彼等を優先するのか。

 それは一年前、僕が初めてこの町に来た時に、最初にまともに話を聞いて組んでくれた人達だからである。


 この冒険都市ナルガンズでは、駆け出しの魔術師の扱いは非常に悪い。

 勿論それは仕方の無い事なのだけれど、一年前のあの日、僕は年齢と見た目で駆け出しの魔術師だと判断されて、誰もまともに話を聞いてはくれなかった。

 実際は当時から転移魔術は扱えたのだが、その頃はその辺りの事情を知らなかったから、僕は自分が転移魔術を扱える事を特にアピールしなかったのだ。

 まあアピールも何も、ハナから相手にされないのだから、実際に使って見せる位しかなかっただろうけれども。


 僕がちょっと困ってしまったその時、偶然出会ったラドゥだけは、見た目で判断せずに話を最後まで聞いてくれた。

 と言っても使える魔術に関しては流石に半信半疑だった様だが、それでも頭から否定せずに、少し考えた後に幾つかの質問をして来て、僕の言葉を信じてくれたのである。

 だから僕はそれなりに名前が売れた後も、この町に来た時は先ずラドゥ達が空いてるかどうかを確認するのだ。


 他の冒険者達に見た目で判断された事、話を聞いてくれなかった事は、あの時はちょっと不愉快だったけれど、事情を知った今では別に根に持ってる訳じゃない。

 なのでラドゥ達が別の日の探索で疲労していたり、町の外で依頼をこなしている時は、別の冒険者と組んでダンジョンに潜ってる。

 でも、それでもやっぱり、あの時、困ってる僕の話を聞いてくれたラドゥとその仲間達は、僕にとってこの町で一番優先させるべき特別だった。


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