表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/63

61 僕の戦い4




 より多くの魔族を館内へと送り込む為、突破口を開き維持する役割に選ばれたのは、死霊魔法の使い手であるローブ姿の魔族だった。

 それは敵を食い止める役割に最も適した能力を持つと判断されたからであると同時に、死霊魔法に対する嫌悪感がそうさせたのかも知れない。

 死ぬ覚悟はあったとしても、死後に自分の肉体が誰かの好き勝手にされる覚悟があるかどうかは、全くの別物だから。

 何れにせよ選ばれたローブ姿の魔族は役割を果たし、彼の操る骸達はゴーレムの攻撃を身体で受け止め、道を開いて押し留めた。


 そうやって一斉に館に突入を図る魔族達。

 ザックイハや剣士、ガーネロットが率いる主力は玄関口である門を破り、その他の魔族達は館の窓を突き破って突入する。

 二階だろうが三階だろうが、魔族達の身体能力を以ってすれば、飛び上がって窓を突き破る程度は容易いらしい。

 ただ残念な事に、窓から飛び込んだ所でそこが館の中に繋がっているとは決して限らないのだが。


 或いはザックイハならそこに罠の気配を感じたかも知れないし、ガーネロットなら魔術の仕掛けを見抜いたかもしれない。

 しかし彼等は自らの突入に意識を取られ、仕掛けられたソレには気付かなかった。

 扉から入って来るなら歓迎もするが、窓から侵入しようする失礼な無法者は、発動した転移の魔術によって森の各地に巣食う凶悪な魔物の縄張りへと飛ばされるのだ。


 僕にとっては窓から侵入なんて真似をする不心得者がそうなるのは、ごくごく当たり前の結果である。

 だが魔族達にとっては決してそうではなく、大規模な罠の発動、大幅に減ってしまった仲間に、彼等は驚きで一瞬固まってしまう。

 だから僕は、あまりにも容易く一仕事をこなせた。

 館の前で骸を従えてゴーレムから突破口を守るローブ姿の魔族の背中に、僕は転移の魔術で現れる。

 そしてずぶりと、突き出した短剣が、背中の骨の隙間から彼の心臓へと届く。


 脆い術者は不意打ちに弱い。

 それは魔族でも、死霊魔法の使い手でも同じだった様で、僕の短剣は実にあっさりと彼の命を奪う。

 死に際に、消えゆく命と引き換えの呪術を飛ばして来たけれど、その呪術は準備していた護符が身代わりとなって吸い取ってくれた。

 使って来ると知っているなら、呪術であっても対策は出来る。


 それから僕は死んだローブ姿の魔族を盾にして、突っ込んで来たガーネロットの斬撃を逃れ、ゴーレムの群れへと紛れ込む。

 ガーネロットと長い曲刀の剣士、あの二人に関しては、僕は真っ当に相手をする心算がない。

 戦う場にもよるけれど近接戦闘の達人である二人は、僕にとってリスクがとても高い相手だ。

 館の防衛機能を握る今、僕が死ねばこの館は陥落して魔王の欠片は奪われる。

 極まった剣技に挑んでみたい気持ちがない訳じゃないけれど、そんな気持ちでリスクを冒すには、背負った物が大き過ぎた。


 では何故ローブ姿の魔族を討ち取る為とは言え、態々彼等の前に姿を見せたのか。

 それは勿論、彼等の視野を狭める為だ。

 重要な戦力の一人を殺され、仇であり、この館の関係者である僕を見て、真っ先に切り掛かって来たガーネロットの判断を間違いだとは言い切れない。

 何故なら僕を殺せばこの戦いは終わりで、ガーネロットは実際に僕を殺せるだけの実力を持っているから。


 でも他の魔族よりも実力が高いが故に真っ先に動き、他の魔族はその動きに付いて来れず、その結果として彼女は突出した。

 行く手を塞いだローブ姿の魔族の遺体も、立ちはだかるゴーレムも、容赦なく切り捨てて、ガーネロットは詠唱する僕へと肉薄して来る。

 決して逃がさず、一撃で僕を切り殺さんとして。

 故に、彼女は気付かない。

 それが誘いである事に。

 僕が本気で逃げようとしていたなら、そんなに簡単に追い付ける筈が無い事に。

 魔族の中でも強者として認められ、その通りに振る舞っていた英雄の彼女は自分に絶対の自信を持っているから。



 迫り来るガーネロットに僕が投げた小袋を、彼女は器用にも斬り飛ばさず、中身を撒き散らさないようにそっと剣で払い除ける。

 恐らく中身が毒である事を警戒して撒き散らさない様にしたのだろうけれど、実はそれでは意味がない。

 地に落ちた小袋から中身がほんの少し漏れた瞬間、地を突き破った触手がガーネロットの足に絡み付く。


 僕が投げた袋の中身は、魔力を増強させる効果のある粉だった。

 館ではもっぱら調味料として使用しているそれは、石塔の地下の主であり、異界からやって来た理解の及ばぬ存在、虹が生んだ物質だ。

 自らの匂いが地上にある事に気付いた虹は、予てからのお願い通りに行動し、あっと言う間にガーネロットを地中へと、自らが住まう地下へと引き摺り込む。

 異界の存在である虹は、この世界に生まれた者にはきっと正しく理解する事は出来ないだろう。

 でもそんな虹でも、爺ちゃんの命令と、毎日の世話をしている僕のお願いなら、多少は聞いてくれるのだ。


 爺ちゃんの居ないこの館では、恐らく虹が最強だった。

 であるならば、攻め手の魔族の中で最強であるガーネロットに対しては、虹をぶつけるのが最も被害が少なくて済む。

 地下に落ちた彼女がどうなるのかなんて僕には想像も及ばないけれど、唯一つだけ言えるのは、ガーネロットが無事に元の彼女のままで地上に出て来る事はもうありえない。

 例えガーネロットが魔の森の主すら傷付けられる実力者だとしてもだ。


 これで最も厄介な相手は片付いた。

 残る主要な魔族は後二人。

 僕はザックイハや魔族の剣士がゴーレムに足止めされている間に、詠唱を完成させて館の中へと転移する。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ