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47 師を求めて1


 グランザースから魔王の欠片を持ち帰った後、僕は三日ほど眠り続けた。

 なんでも体力も魔力も限界以上を無理矢理絞り出して移動し続けたせいで、身体が長い休息を欲したらしい。

 しかし目覚めてから暫くすると、寧ろ以前よりも調子が良い位になったので、多分良い訓練になったのだろう。

 爺ちゃんは僕を叱らずに、ただあまり心配させるなとだけ言ってくれた。

 

 魔王の欠片は僕が持ち帰ったのだから、好きにして構わないと言われたが、でもやっぱり爺ちゃんに預けて封印して貰う事にする。

 取り込めば力が手に入るらしいが、漠然とし過ぎていてピンと来ないし。

 別に僕は、腕力もこれ以上は必要ないし、魔力は虹の御蔭で人並み外れて多い。

 欲しい物と言えば知識と技量だが、これも自分で身に付けた物なら兎も角、勝手に覚えた知識や技なんて、気持ち悪くて使えやしないだろう。

 敢えて言うならもう少し身長は欲しいが、僕の背はまだまだこれから伸びる筈。


 つまり僕には、魔王の欠片なんて無用であった。

 そう伝えれば爺ちゃんはカラカラと、其れはとても嬉しそうに笑い、欠片の封印を了承してくれる。

 もしかしたら僕を試したのかも知れないが、全く以って無意味な事だ。


 例えアレを使えば爺ちゃんと同じ様な存在になれたとしても、それは僕が自分で成さなければ、爺ちゃんに追い付いた事にはならないのだから。




 とまあそんな風にアレからは平穏な日々を送り、僕は大分と久しぶりに冒険の日、冒険都市ナルガンズに行く日を迎えた。

 因みにグランザースは滅び、領土は周辺諸国にバラバラに切り取られる。

 けれども当然それで人の欲に終わりが来る筈はなく、この先大陸北部は長い戦乱の時代を迎えるだろう。

 まあだからと言って僕に出来る事はもう本当に無いので、ただ行き付く先を静かに見守るのみだ。


 さて置き、ナルガンズにやって来た僕を出迎えたのはラドゥ達、……ではなく、彼等の残した手紙である。

 ラドゥ達は腕が良く、尚且つ誠実な冒険者でもあるから、彼等に依頼を頼みたいって人は結構多い。

 長期間僕が来ない、つまりラドゥ達がダンジョンに潜らないと知った冒険者組合が、そんな彼等に依頼を斡旋しない筈がないのだ。

 正直予測していたから別段それに不満はないが、少しばかり寂しくはあった。


 だけどそんな僕を見付けて、顔に満面の笑みを浮かべて駆け寄って来たのが、一人はミュース・ヴィヴラース。

 以前に少し、ダンジョンを潜る冒険者としての手解きをした縁で、その後も何かと親しい付き合いのある少女だ。

 ……家に遊びに来たし、親しいよね?

 親しくないって言われたら、ちょっとショックを受ける位には僕は仲良く思ってる。


 しかしミュースが来るのはわかるけれど、もう一人は少しばかり意外な顔である。

 ミュースと同じく手解きをした一人だが、その後は確かガイアの戦士団の世話になっていて、剣技にどっぷり嵌ったって噂の、名前は確かアーレスだった。

 久しぶりの冒険の日は、どうやら何時もとは違う一日になるらしい。



「先生、お久しぶりです」

「アーレスです。以前はお世話になりました!」

 ミュースは性別を誤魔化すのをやめたせいもあって、随分と印象も変わってる。

 具体的に言えば明るくなった様に思う。

 ……が、それ以上にアーレスの方が変わっていた。


 顔はちゃんとアーレスで、面影もキチンとあるのだが、こう、全体的に厚みが増してる。

 決して太ったって意味じゃない。

 以前から体格は良い方だったが、首回り、肩周り、胸周りが二割増し位にはなっていて、何より装備が魔術師のローブから全身を覆う鎖帷子の上に、鉄の胸当て等で要所を守る装備になっていた。

 しかもその防具はそれなりに使い込まれてて、醸し出す雰囲気も、新人の戦士と言うよりは多少の経験を積んだ戦士のそれだ。

 勿論一人前には遠く及ばないが、少なくとも戦いに身を置く人間の空気は纏ってる。


「う、うん、アーレスね。覚えてるよ。凄く成長したんだね。……多分方向性が違うけれど」

 彼の威圧感に、と言うよりはあまりの変わり様にちょっと引き気味になる僕。

 確かに基本的な前衛の立ち回りに関しては少し指導したし、その後本格的に剣術を習い始めたとも聞いていた。

 でもちょっと、幾ら何でもどっぷり嵌り過ぎじゃないだろうか。

 今の彼は、剣も使える魔術師ってよりは、もう完全に戦士だ。


「はい、迷い燻っていた私を導いて下さった御恩は忘れていません。以前はわかりませんでしたが、今ならラビック先生の凄さがわかります。是非一度手合わせ願いたく思います」

 なんて風に言って来るアーレス。

 これもキャラが違う。

 以前はこんなに丁寧じゃなかった。

 剣術道場とやらで礼儀も叩き込まれたのだろうか。

 何にせよ、手合わせは全く以ってしたくない。

 それが用事なら断ってさっさと去らせて貰うが、だとしたら僕の性格をわかってるミュースが彼を連れて来る筈がないだろう。


 僕の拒否を見たアーレスは少し残念そうな表情を浮かべるが、隣のミュースに促されて漸く本題に入るらしい。

「今日はラビック先生にご相談があって、ミュースに案内して貰いました。ラビック先生、私はこのままだと、ガイアの戦士団では不要とされてしまいそうなんです!」


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