表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/63

41 グランザースの滅亡3


 転移魔術を繰り返して森を抜けた日は、近くの町に宿を取って一泊する。

 疲労が溜まり過ぎたか、それとも繰り返した移動と戦いの興奮が抜けていなかったのか中々寝付けなかったが、一度眠りに入れば泥の様に深く眠れた。

 まあ深く寝過ぎると次の日の朝は少し身体が重く感じるが、他の人もそうなのだろうか。

 何にせよ、今日中にはグランザースに辿り着きたい。


 因みに僕は、グランザースを戦争に勝利させる心算はなかった。

 だって何度も言うが、僕はあの国が嫌いなのだ。

 それに何より四方八方から攻められてしまっているから、完全に状況をひっくり返す事は、僕には少し荷が重いだろう。


 一つか二つの戦場なら、戦況を勝利に導く事は多分出来る。

 遠見の魔術で敵陣を良く観察し、忍び込んで指揮官を暗殺、魔術で陣を焼き払って転移封じの結界を破壊してから、転移魔術で逃げるとか。

 そもそも転移封じの結界を陣に置けない程度の軍なら、直接転移魔術で乗り込んで行くのもありだ。

 ディープフォレストジャイアントのケトーの力も借りるなら、更に違う方法だって取れる。


 ただ一ヵ所や二ヵ所で勝利した所で、他の戦場がどうにもならない。

 爺ちゃんならそれこそ全ての場所に転移が出来て、攻撃魔術の一発で攻め寄せる軍を黙らせれるのだろうけれど、同じ真似は僕には不可能だった。

 だから僕が目指すのは、グランザース王宮に侵入しての、保管されている魔王の欠片、その半分の強奪だ。

 アレさえ手に入れてしまえば、爺ちゃんがグランザース王家を守る必要は無くなるだろう。


 だがその前に立ちはだかるのは、そう、爺ちゃんがグランザース王宮に仕掛けた守り、つまりは魔術的なトラップ群だった。

 これは爺ちゃんがグランザース王家を守るって名目で、実際には魔族から魔王の欠片を守る為に仕掛けた物だから、多分物凄く強固な物の筈だ。

 普通に考えたら爺ちゃんの守りを突破するなんて無謀も良い所なのだろうけれども、……でも実は僕に有利な点も幾つかはある。



 まず一つ目は、爺ちゃんがトラップを設置したであろう場所は王宮の一部分だけであろう事。

 何故なら王宮には人の出入りが多く、また入れ替わりも多い。

 であるならば幾ら爺ちゃんであっても、その大量の人間の全てを登録してトラップ対象から除外なんて真似は出来ない筈。

 否、爺ちゃんならば出来たとしても、グランザース側が爺ちゃんが来た時にしか人員の入れ替えが出来ないなんて不便は受け入れない筈なのだ。


 勿論全体的な守り、転移封じだとか警報だとかは設置してるだろうけれど、そんな物は特に問題にならない。

 どうせ認識証か何かで管理しているのだろうから、何処かで入手すれば良いだけの話だった。

 問題は王宮の深部、限られた者しか立ち入りできない区域、例えば王族のプライベートエリア等だろう。

 その辺りは恐らく、王宮女官や親衛隊、当の王族等の限られた人間しか入れないから、その人間だけを登録してトラップの対象から除外する事が可能だ。

 つまり爺ちゃんが本気の守りを仕掛けれる。


 因みにその更に奥、魔王の欠片があるであろう宝物庫なんかに関しては、恐らく爺ちゃんの守りは存在しない。

 グランザース王家が魔王の欠片を、爺ちゃんに言うことを聞かせる為の鍵だと認識してるなら、その守りを爺ちゃん自身に任せる筈がないのだから。

 実際には、爺ちゃんは嘗ての仲間への義理や、万一僕が再び貴族としてグランザースで暮らすと言った時の事を考えて、それを取り上げていないだけなのに。

 本当に、爺ちゃんのそう言う所は馬鹿だと思う。

 だから僕が魔王の欠片を奪うのは、この国と完全に縁を切るとの意思を爺ちゃんに伝える為に必要な事だった。


 次に二つ目の有利な点だが、僕は爺ちゃんが仕掛けるトラップの癖を知っている。

 爺ちゃんは偉大な魔術師であり、更に多方向に色んな技能を持ってるけれど、四六時中罠の事ばっかり考えてる変態じゃない。

 いや、冗談ではなく、魔術師の中には本気でトラップの作成に嵌って、自分で紛い物のダンジョンもどきを作ってトラップと魔物と宝を配置する様な者も居るのだ。

 そう言った変わり者達と比べれば、爺ちゃんは技量は大きく上回るが、悪意が圧倒的に少なかった。

 故に爺ちゃんの罠の配置の仕方は効率を重視し過ぎる所があり、その癖を知る僕は大体どんなタイプの罠が仕掛けられているかを見抜き易い。

 何せ普段から館や石塔で爺ちゃんの罠を見慣れてるし、或いは冒険都市ナルガンズに行く前なんかは、わざわざ訓練用のトラップ迷路を作って挑ませてもくれたのだから。


 後はそう、爺ちゃんが僕をトラップの除外対象に入れてる可能性も少しあった。

 まさか罠にわざと引っ掛かってみる訳にも行かないので、確かめようはないけれど、爺ちゃんは割とそう言う事をする人だ。

 まあどちらにせよ、王宮攻略は数日掛かりの大仕事になるだろう。

 であるならば、一刻も早くグランザースに辿り着き、その準備に取り掛かった方が良い。

 周辺国家の軍が王都までやって来て、王宮に火をかける辺りがタイムリミットなのだ。



 僕は転移魔術を繰り返し、魔の森に最も近い人間国家の一つ、ワーリミア王国を飛び越えて小国であるクルシュに入る。

 クルシュはこの次の国である、ダーライゼの属国で、今回のグランザースとの戦いでは後方支援を担当していた。

 わざわざクルシュで一旦移動を止めた理由は、持ち出して来た金粒を北側国家で流通する貨幣と交換する為だ。

 普段の僕は、東側の人間国家で動く事が多いから、実は北側のお金はあんまり持ってない。

 尤もお金はなくても、金粒や銀粒、或いは魔の森で得た素材があれば物々交換なり何なりで買い物は可能なので、あまり必要もないのだが。


 しかし今回の様に数日間、それも戦争状態でピリピリしている国の王都の中で、金粒や銀粒を用いて支払いを続ければどうしても目立つ。

 まぁ目立つだけならば良いのだが、余所者ですと大声で叫んでいる様な物なので、先に貨幣を用意しておいた方が良いだろうと考えたのだ。

 そうして僕は準備を整えてから、再び転移魔術を繰り返してクルシュを出、ダーライゼもそのまま素通りして、グランザースへと入る。

 当然ながら戦争中であるダーライゼとグランザースの国境は閉じているが、転移魔術での移動を止められよう筈は無かった。


 そして僕がグランザースの王都、ミューレに到着する頃には、途中で休憩も挟んだからだろう。

 既に日は落ちかけていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ