表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/63

39 グランザースの滅亡1


 雷季が終わり、落雷でボロボロになった魔の森の中心部が急速に回復を始める生命力に満ち溢れた時期、回復期。

 僕がその森の生命力を分けて貰う、つまり採取に出ている中、爺ちゃんは忙しく色々と飛び回ってる様子だった。

 どうやら雷季で僕等が動けぬ間に、人の世界ではちょっとした変化が起きたらしい。


 魔の森から見て北に位置する国の中で、TOPクラスの大国、グランザース。

 邪竜を倒した英雄と聖女が結ばれ王家となった国で、数百年と言う長い歴史を持っている。

 だが長い歴史を持つが故にその威光はとっくに薄れて、国内は兎も角、諸外国に対しては通用しない。

 そして魔の森の中心が雷季で、爺ちゃんの動けぬ数週間に、その諸外国が一斉にグランザースに対して宣戦を布告したそうだ。


 僕は出身こそグランザースになるが、でも他のどの国よりもグランザースが嫌いなので、あの国が滅びたとしても何とも思わないだろう。

 戦で苦しむのは力ない民衆になるので、略奪され、焼かれる運命が待つ彼等の不幸を喜ぶ気には到底ならない。

 しかしだからと言って、彼等を救う手だてや気持ちがあるのかと言えば、それもまた別の話だった。

 何せそんな話はこの大陸中のどこにでも、割とありふれた話だし、何より僕の手は何でもかんでも救える程の長さを持っていないから。


 勿論それは爺ちゃんだって同じだ。

 爺ちゃんは人間を越えた、凄腕なんて言葉じゃとても足りない魔術師だけれど、それでも決して神様じゃない。

 僕よりずっと遠くに届く手を持っているけれど、だからってこの世界を一人で如何にかしてしまう事は不可能である。

 故に爺ちゃんは自分が踏み入る領域、踏み入らない領域をハッキリと定め、自分の中のルールに沿って行動をしていた。

 だから本来なら爺ちゃんは、人同士の戦争には、それが単なる口出しであっても関わらない筈なのだけれども……。


 けれども恐らく今回の戦争を誘導したのは、魔王の欠片を欲する魔族だろう。

 長い時の末に威光が薄れ、国内の体制も古いままで停滞しているグランザースは、既に地に落ちる寸前の果実だ。

 暗部として国を支えていたキュービス伯爵家も途絶え、各地の貴族も己の欲と自己保身に走るのみ。

 グランザースは大国であるが故に、手にした時に啜れる蜜もまた甘い。

 後は誰が最初に果実に手を伸ばすかだったが、様子見をする国もなく一斉に行動を起こしたって事は、裏でその動きを取り纏めた者が居る。

 そうでなければ因縁もあれば確執もある筈の国々が、一つも残らずに協調を取れるなんて起こり得る訳がなかった。



 だから多分、爺ちゃんは今とても悩んでる。

 爺ちゃんが人の世界に介入する事はあってはならないのだ。

 当然爺ちゃんがその気になれば、相手が軍だろうが国だろうが造作もなく叩き潰す事が出来るだろう。

 でも一度それをしてしまえば、全ての人は爺ちゃんの敵に回る。

 嘗て魔王が打ち倒され、その欠片を宿した邪竜を英雄達と共に爺ちゃんが倒したように、今度は爺ちゃんを倒す誰かが人の中から現れるかも知れない。

 そんな流れが出来てしまうし、そうなる様に魔族も動く筈。


 しかしそれでも、それと同じ位に、魔族が魔王の欠片を手にする事も防がねばならなかった。

 五百年前に存在した邪竜は、魔の森の主達ですら逆らえない存在だったと言う。

 広大な地域を支配下に置き、時には気紛れに大陸中を飛び回っては、国を焼いて人の嘆きと悲鳴を楽しんだとされる。

 ……然して目的もない暴れたいだけの竜に宿ってすら、魔王の欠片はそれだけの被害を齎すのだ。

 もしそれが魔王の復活と言う明確な目的を持つ魔族の手に渡れば、何が起きてしまうのかは想像もつかない。


 以前魔族と交戦した後に文献を調べたり、爺ちゃんから聞き出した話では、バラバラになって世界に散った魔王の欠片は計八つ。

 そして恐らく、そのうちの二つは既に魔族の手の中にある。

 つまり既に二人の魔将が存在すると言う意味だ。

 されど逆に言えば、二人の魔将がいても尚、他の欠片集めは進んでいないって事でもあった。


 理由は勿論、魔王の欠片を持つ者同士がぶつかりあって、相打ちになる可能性を恐れるからだろう。

 何せ他の大陸に居るであろう魔王の欠片を宿す者は、この大陸で暴れた邪竜と同等の存在である。

 魔将が二人掛かりで挑んだとしても、死に物狂いで暴れられ、一人は道連れにされてしまうかも知れない。

 否、道連れにされるだけならまだ良いが、欠片の持ち主同士の戦いで、万一互いの欠片が消滅してしまえば、取り返しは決してつかないのだ。

 だから今、魔王の欠片の獲得に、魔将は積極的に動いていない。

 これは魔王の欠片が強力に封印されている場合も同様だ。


 だが魔将の数が3人に増えれば?

 或いは3対1なら余裕があると、魔将が欠片の獲得に動く可能性はある。

 そうすれば一気に、魔族の欠片集めは進んでしまうだろう。



 ……本当はグランザースから半分に割った魔王の欠片を取り上げてしまうのが一番早いのだが、愚かなグランザース王家もアレが爺ちゃんを動かす切り札になる事は理解しており、そう簡単に譲る筈もない。


 動いても駄目で、動かぬままでも駄目。

 そりゃあ爺ちゃんじゃなくても、どうして良いか悩むだろう。

 でも僕は思うのだ。

 爺ちゃんが動けないなら、僕が動けば良いじゃないかと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ