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38 落雷と共に3



 幾ら雷季とは言え、ずっと部屋の中に閉じこもっているのも気分が滅入るので、僕は少し体を動かす為に館の外に出る。

 空を見上げれば、間断なく降り注ぐ雷とぶつかった結界が、反発により眩い光を放ち続けていた。

 御蔭で辺りは晴れた日の昼間よりも明るい。

 

 僕はゆっくりと身体を伸ばす運動をしながら、少し考える。

 この時期、雷季に考える内容は大体何時も同じだ。

 一つはこの雷季が終わったら何をするか。

 そしてもう一つは、落雷が雨の様に降り注ぐ魔の森の上空を我が物顔に飛ぶ魔鳥、サンダーバードをどうやれば捕まえれるかだった。



 雷季が終わった直後、爺ちゃんの領域の周辺、つまり魔の森の中心部は大体ボロボロになっている。

 そりゃあ雨みたいな勢いで降る雷が、数週間も続けば仕方ない。

 だが魔の森の植物は頑丈で生命力が高いし、何よりその辺りは最も魔力が濃い場所だ。

 ボロボロになったのと同じ位の時間、つまりは数週間で元通りとまではいかずとも、木々が覆い繁る位にはなる。

 普通に考えればありえない異常な回復力だが、何と言ってもここは魔の森なので、外の常識で判断しても仕方ない。

 またその回復期にのみ採れる、回復の為の生命力に溢れる素材や食材もあって、その採取は厳しい雷季が終わった後の楽しみだった。


 しかしそんな森すらボロボロにしてしまう、普通の魔物はとっくに避難し、或いは逃げ遅れて死んでしまう中を、ごく一部の魔物だけは元気に動き回ってる。

 それがサンダーバードであり、或いはサンダーバードを狩ろうと狙う、雷を無効化する体質の魔物達だ。

 サンダーバードの活動期は年に二度の雷季のみ。

 それ以外の時期は雲の上に居るとも、何処かで眠りに付いているとも言うが、詳しい事は知られていなかった。

 この魔鳥、サンダーバードの特徴は、深部で活動する魔物にしては戦闘力はあまりない。

 但し飛行速度は滅法早く、更に雷を食べると言う特性があり、この異常な落雷が起きる雷季は、彼等にとって大量の食糧を腹に溜め込む場なんだそうだ。


 そんなサンダーバードだが、飛行速度と雷を食べる特性以外にもう一つ大きな特徴があり、それは肉の美味さである。

 昔爺ちゃんが一度だけ捕まえてくれた事があるのだが、僕はたった一口で呆然と我を失った。

 雷を無効化出来る魔物達が、飛行の早さにほぼ捕まえられないとはわかっていても、必死にサンダーバードを追いかけ回すのも寧ろ当然だろう。

 運良く一度でも口にしたら、もう決して忘れられない味なのだから。


 当然僕だってもう一度食べたい。

 食べたいが、取ってくれと爺ちゃんの頼むのは簡単だし、多分取ってもくれるけれど、そうすると僕の負けになる。

 爺ちゃんがあの時、サンダーバードを取って見せてくれたのは、次は自分でやって見せろって意図があっての事の筈。

 だから食欲に負けて爺ちゃんに取って貰うってのは、まだ僕的には無しなのだ。

 ただ問題は、あの時爺ちゃんが何をして、どうやってサンダーバードを仕留めたのか、僕には全く理解出来ていない事だった。

 複数の手順を踏んだのは間違いない。


 何かを設置し、そこに追い込んで仕留め、その後に手元にパッと引き寄せる。

 まぁ引き寄せは理解出来るのだ。

 転移魔術の応用だから、多分練習すれば、生物は無理でも物の引き寄せは出来るようになるだろう。

 魔力荒れ狂う雷季に、デュシアとアニー、悪魔と天使の結界越しに引き寄せを行うってのがどれ程の事かはさて置いて。


 因みにデュシアやアニーにサンダーバードを仕留める手伝いを頼むのもまたなしである。

「あぁ? やめようぜ坊ちゃん。そんなの爺にやらせりゃ良いサ。苦難の果てに掴む美食はそりゃあ美味いだろうけどさ、挫折して慰めに喰う美食の味はもうそりゃあ一生忘れないもんなんだぜ。坊ちゃんも一度は味わっとけよ。キヒヒヒッ」

 ってデュシアは言うだろうし、

「駄目ですわ。情けないですわよ。食欲に負けて私の手を借りようだなんて、えぇ駄目ですわ。勿論私はラビック様をお手伝いしたい。でも英雄たらんとする者が欲に負けてはいけません。良いですか、そもそも心の強さと言うのは……」

 ……そんな風にアニーはもう主旨が何処かに飛んで行った説教を、きっと延々として来る。

 別に僕は英雄なんて目指してないのに。

 アニーは高潔な英雄の導き手の天使になりたくて、デュシアはそんな英雄になるべき人を誑かして堕落させて甘やかしたいって思ってるらしいけれど、どちらも僕には無縁な話だった。



 まあさて置き、追い込む先はサンダーバードが気付かない、或いは好む罠を設置している可能性が高い。

 サンダーバードが好む物と言えば雷位しか思いつかないが、電撃の罠なんて張った所で、喰い尽されて終わりだろう。

 追い込む手段自体は、まあ嫌う物、脅威となりそうな物をチラつかせれば良いのだから、こちらは単純に派手な攻撃魔術で良い筈だ。

 ……駄目だ、結局一手順目に、何を設置すれば良いのかがわからない。

 考え事をしながら行っていた運動は、既に予定のメニューを消化し終えている。


 どうやら今回の雷季も、僕はサンダーバードを口に出来そうにはなかった。

 悔しいなぁ。

 食べれ無い事もだが、答えがわからない事の方がその何倍も悔しい。

 雷季が終わって、冒険都市ナルガンズに行ける様になったら、ミュースにも一緒に考えて貰おうか。

 否、でもそれで彼女があっさりと答えを出したら、僕は余計に悔しいだろう。


 だから今回も、うだうだと頭を悩ませながら、僕の雷季は過ぎて行く。






★骨の爺ちゃんこと、『大魔導士』バラーゼ・キュービスによるサンダーバードの仕留め方の解説


 ふむ、ではサンダーバードの狩り方の説明じゃの。

 ラビには内緒にしておいておくれ。

 まだあやつは自分で考えてる最中じゃからな。


 まず用意する物は少し大きめのナイフ位の刃物を一本。

 小さ過ぎては用を成さんし、短剣程に大きくても駄目じゃよ。

 一手順目は、この用意したナイフに強めの電撃を付与する。

 俗に言うエンチャントライトニングウェポンとでも言う奴じゃの。


 そしてこれを物品を転移させる魔術で、空高くに放り上げるんじゃ。

 すると付与された電撃を、ちょっと変わった餌だと思ったサンダーバードが飲み込む。

 サンダーバードは雷を喰えて飛行速度が速い以外は取り柄の無い魔鳥だからの、然して頭も良くはない。

 勿論落雷に負けぬ程度の電撃をナイフに付与してなければ、サンダーバードは見向きもせんがの。


 さてするとサンダーバードが飲み込んだ電撃を付与したナイフは、電撃は吸収されてナイフのみが残る。

 するとそのナイフがサンダーバードの喉に突き刺さって絶命させるんじゃよ。

 そこを転移魔術の応用で引き寄せれば、手元には仕留めたサンダーバードがやって来ると言う訳じゃ。

 自分が付与した魔力を追っていれば、吸収された瞬間もわかるからの。

 タイミングを計るのはそう難しい事でもない。


 要するに釣りと似たようなもんじゃよ。

 ラビは追い込み漁をイメージしとるから、正解に中々辿り着けんが。

 因みにあやつの腕だと、デュールグシアとアールターニエルの許可がなければ、結界越しに術は使えんから、どの道頼らねばならんのだがのぅ。

 道具を使う事と、あの二人の協力を得る事、どちらも無しで魔術のみで解決しようとすれば、そりゃあ難しくて当然じゃな。

 もう少し柔らかい考え方を持ってくれればええんじゃが。


 まぁ思考する事は決して無駄にならん故、精一杯考えれば良かろう。

 ヒント位は、聞きに来ればいつでも教えてやるしの。




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