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3 鍛錬の日1


 この世界には人の手で、常人の力を越えた現象を引き起こす神秘の技が、三つある。

 即ち魔法、魔術、魔技だ。


 魔法の特徴は、契約等の法により、何らかの存在の力を借りる方法である事だろうか。

 例えば神官達の扱う神聖魔法、彼等が小さな奇跡だと言い張るそれは、信仰の対価として与えられる力と言えよう。

 神聖魔法を発動させる際には定められた祈りを捧げ、その結果として常人の力を越えた現象が引き起こされる。

 精霊魔法も同じくで、契約した精霊の力を借りる事で発動する魔法だ。

 召喚魔法はもっと直接的に対象と契約を結んで、いざと言う時に呼び出して力を借りる。


 では魔術はどうかと言えば、こちらは人が直接的に神秘を操るすべだった。

 世界の理に働きかける式を編み、魔力を流し込んで思い通りの現象を引き起こす。

 理を理解し、働きかける式を編め、更に必要とされる魔力を用意出来るなら、おおよそどんな事でも可能にするのが魔術だと言える。

 とは言え人が理解出来る世界の理は浅い部分だけでしかないし、働きかける式も複雑過ぎれば編めはしない。

 何より大きな奇跡を引き起こせるだけの魔力は、常人の身には宿っていないのだ。


 それに何でも出来ると言う事は、何も良い事ばかりじゃない。

 神聖魔法で治癒を願う場合は、治って欲しいと真摯に想い、祈りを捧げて発動させればそれで充分だ。

 勿論神聖魔法を扱えるだけの資格と信仰心を持つのが前提だが、それさえあれば人を治せる。

 だが治癒魔術で人を治す場合は、ただ傷よ治れと言うばかりでは駄目だった。

 傷口の肉を埋めたいのか、血管の損傷を塞いで血を止めたいのか、具体的にイメージし、必要な式を編まねばならない。


 故に魔術を活用するのには、大きな魔力と深い知識、そして何よりも奇跡を掴み取れる発想が必要なのだと言う。


 最後に残った魔技は、これには人が修練の果てに辿り着く果ての技だとされる。

 例えば魔術や魔法でもないのに、剣を振って遠く離れた場所の物を切る剣士、なんてのが魔技の使い手だ。

 比較的使い手が多い、体内魔力の循環によって己を強化する、身体強化も恐らく魔技の部類に入るだろう。

 一応魔技にも魔力は密接に関わるとされているらしい。

 先程の遠く離れた場所の物を切るのも、剣に乗せた魔力を刃として飛ばしていたり、神速で剣を振う為に魔力で身体強化を行っている等の理屈は考えられるから。



 この三つのうち、魔術師の多くが修練に励むのは、まあ当たり前だが魔術である。

 でも魔術だけを修めた魔術師は、余程熟達した腕を持たない限りは、咄嗟の事態に酷く脆い。

 無論そんな咄嗟の事態に対応する為の即時発動型魔術は幾つも開発されているのだけれど、そのどれもが使用難易度の高い魔術で、当たり前だが全ての事態に対応出来る訳でも無いだろう。

 だからそう言った時の対処の為に、魔術師の一部は魔術だけでなく、召喚魔法にも手を出して近接戦闘型の召喚獣と契約して身を守らせるそうだ。


 なので本当は僕も近接戦闘型の召喚獣と契約をしたいのだが、何故か爺ちゃんはそれを許さず、僕自身に近接戦闘もこなせる様にと訓練を課されていた。

 因みに召喚獣との契約自体は僕もした事があるが、残念ながらその子は近接戦闘をこなせるタイプじゃない。


 僕は五歳までを国の暗部であるキュービス家の跡取り候補として育てられたので、隠身術や短剣術の基礎や、自己鍛錬法位は仕込まれている。

 それをキュービス家の開祖である『影の刃』を良く知る爺ちゃんが足りない部分を補完し、僕はもう暗殺者ではなくなった筈なのに、未だにそれ等の技の鍛錬を続けているのだ。

 影の刃と道を違える事になった原因の一つであろう暗殺者の技を、何故爺ちゃんが僕に鍛錬を続けさせているのかは、正直あまりわからない。

「どんな技術も身に付けておけば、不意に役立つ事があるかわからんじゃろ? どんな技術も、使い手の心次第で使い方の変わる道具に過ぎんからの」

 でも爺ちゃんが僕の事を考えてそうしろって言ってくれてるのはわかるから、例え好きな技じゃなくても鍛錬に手を抜く気は無かった。


 と言うよりもだ。

 今日の鍛錬相手が到底手を抜かさせてくれそうにはない。

 今僕の目の前に居るのは、黒い鎧を身に纏い、大剣を片手で構える美しい女性騎士だった。

 ただし一つだけ、その女性騎士にはとても変わった特徴がある。

 いやまああんな重そうな大剣を片手で構えるのも充分に変わった特徴だけれど、それとは別に一つ、その女性騎士は、美しい顔を頭の上でなく、空いたもう片方の手で小脇に抱える様にして持っていたのだ。

 当然、本来頭のあるべき首から上には何も無い。


 そう、彼女の正体は、首なし騎士と言われるデュラハンである。

 デュラハンは妖精の一種であるとも、アンデッドの一種であるとも言われる、死に深く関わる存在だ。

 同じく首の無い馬に乗って現れたデュラハンに指を向けられた家は、その家族の誰かが一年以内に死ぬ、或いは一年後にデュラハンが現れたその家族の誰かを殺すと言う。

 まあ御伽噺の中の存在に近い。

 時には死神の一種であるとさえ言われるのだから。


 当然、普通にしれっと僕の訓練相手なんてしてて良い存在ではないのだけれど、彼女、デュラハンのクーデリアは爺ちゃんが契約をした召喚獣だった。

「若君、気が逸れております。キチンと集中して下さい」

 そんな風に言って僕に大剣の切っ先を向けるクーデリア。

 ただでさえ威圧感のある大剣なのに、持ち手のクーデリアが気を入れているものだから、圧迫感が物凄い。



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