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27 助けを求めた仲間達4


 次の日と言っても既にお昼過ぎ、僕とラドゥ達は遅めの朝食兼昼食を取った後、ファースビュー伯爵の私室へと通されていた。

 今回の事の礼と、今後について話したいそうだ。


 でもまぁ、今後と言っても僕はその話を聞いたらもう帰るのだけれども。

 だって昨日は冒険者の日だったから兎も角、今日はちゃんと館に帰らないと雑用が溜まってしまう。

 勿論不在の間は爺ちゃんが片付けてくれるだろうけれど、虹の世話辺りは僕の方がスムーズなのだ。

 他にも近接戦闘の訓練は……、あまり好きじゃないから別に良いとして、爺ちゃんを先生にした魔術の勉強辺りは大事だった。


 僕がここに居れば、そりゃあ出来る事は色々とあるだろうが、だからって別に僕が居なけりゃそれが出来ないって訳じゃない。

 なら僕は普段の自分の生活を大事にするし、それに既に頼まれ事は果たしている。

 後はファースビュー伯爵自身と、雇われたラドゥ達の仕事だろう。


 まぁラドゥ達は僕がそう言った風に考えて、早く帰りたがってる事を察してるだろうが、問題はファースビュー伯爵だ。

 お貴族様で、娘を救われたから僕への期待が物凄く上がってるであろうこの人が、果たして僕を素直に帰らせてくれるだろうか。

 あまり強引な事をして、ラドゥ達の顔を潰したくもない。

 嫉妬が絡まなければ基本的に善い人なディシェーンや、暢気なエルフのシーラ・シーラは兎も角、人の感情の動きに聡いカーイルや、恋愛感情でなければ人の気持ちを察せれるラドゥは、僕に対して心配そうな視線を送って来る。


「君達の御蔭で娘と侍女の命は助かった。本当に感謝の言葉もない。これで開戦派に屈する理由もなくなり、戦争を阻止……」

 ファースビュー伯爵が話しの前置きに入ったその時だった。

 ドアの向こう、廊下側が騒がしくなり、何やら言い争いが起きてるらしい。

「旦那様は今お客様とお話し中で……」

「伯爵閣下に至急の報告があるのだ!」

 何て声がドアの向こうから聞こえて来る。

 どうやら少し、困った事態が起きてる様だ。


 結局ファースビュー伯爵の視線を受けて、部屋の入り口の横に待機していた執事がドアを開けると、現れたのは鎧を身に纏って兜を小脇に抱えた、貴族騎士の一人。

 彼は立ったままで一礼をした後、膝を突かずに報告を始める。

 緊急事態って事なのだろう。

「リンメース子爵の私兵、及び冒険者の一団が、我が領を通り抜けて国境を目指しております」

 どうやら、元々のラドゥ達の仕事に関する内容だった。

 恐らくまだファースビュー伯爵の娘、ミューレース伯爵令嬢の命を握ったままの心算であるリンメース子爵は、今まで邪魔された憂さ晴らしも兼ねて見せつける様にファースビュー伯爵領を通ってゴルドアガレン帝国に配下を向かわせているらしい。


 リンメース子爵は今回で完全に工作を成功させてしまう心算らしく、向かわせている私兵と冒険者の数は五十人。

 ゴルドアガレン帝国側に入る際はもしかしたらバラバラに分かれて国境を越えるのかも知れないが、とは言え簡単に拿捕出来る人数じゃない。

 あ、閃いた。


「何だか大変そうだね。じゃあ僕はその五十人を追い返してから、そのまま帰るね。ラドゥ、ディシェーン、カーイル、シーラ、またナルガンズで待ってるよ」

 僕の言葉に、部屋にいた全員、ファースビュー伯爵やラドゥ達だけでなく、報告していた貴族騎士までもが『え?』とばかりにこちらを見る。

 でもその時は既に僕は詠唱を開始しており、そのまま転移を発動させた。


 転移魔術を使って到着したのは、最初に爺ちゃんに連れて来て貰った場所、ファースビュー伯爵領の端っこで、ローヴォード王国とゴルドアガレン帝国の国境付近だ。

 幸い、リンメース子爵の配下五十人が通るのは、この場所の近くだと言う。

 僕は鷹の眼の如く遠くを見通せる魔術と、その場に浮きあがる魔術の二つを使って、移動中の五十人を探す。

 何やら今日の僕はツキがある様で、探す相手は直ぐに見つかった。


 では、ここからだ。

 リンメース子爵の私兵や、雇われた冒険者達を皆殺しにはせず、だけれど恐怖を与えて追い返し、出来ればもうこんな事には関わりたくないと思わせねばならない。

 逃げ帰る連中をファースビュー伯爵が捕まえるかどうかは、どう言ったメッセージをリンメース子爵に送りたいか次第だろう。


 一行は商人を乗せた馬車と、その護衛と言った風を装っている。

 これは好都合だった。

 人は殺さずとも、馬車を壊してしまえば幻覚を疑われる事もないだろうし、実際の破壊を伴う分だけ恐怖も与えやすい。


「ケトー、来て。出番だよ」

 そして僕が呼び出すのは、最近加わった僕のもう一体の召喚獣。

 ディープフォレストジャイアントのケトーだ。

 僕は呼び出した彼の肩に乗り、これまでの経緯を軽く話しながら、リンメース子爵の私兵や、雇われた冒険者達を脅し、馬車の破壊をお願いする。

 ケトーは任せろと言わんばかりにドンと自分の胸を叩き、その衝撃に僕は彼の肩から転げ落ちそうになった。


 石塔の天辺よりも高いケトーの肩の上から見下ろす視界は雄大で、自分で浮かんで見下ろすのと、何故か感じ方が全然違う。

 ずしん、ずしんと歩くケトーに、彼の姿を見た人は、皆が驚き慌てふためく。

 勿論向かう先、リンメース子爵の私兵や、雇われた冒険者達も同様だ。


 すぅぅぅと、ケトーが息を吸い込むので、僕はサッと耳を抑える。


―OOoooooooo!―


 そうしてケトーが吠える、それだけで、リンメース子爵の配下達は馬車を放り出し、蜘蛛の子を散らす様に逃げ出して行く。

 これは、驚いたであろう人達には少し申し訳ないが、物凄く楽しい!

 何やらそう、とっておきの悪戯が成功した気分だった。


 ケトーはそんな僕の様子に満足げに頷いて手を伸ばして来るから、僕はその指先に触れて礼を言う。

 正直、戦争だの何だのって、人間の世界の出来事はややこしくて小さいが、もっと大きな存在は幾らでも居るのだ。

 巨人出現の話が出回れば、きっと暫くは戦争どころじゃないだろう。


 僕は良い気分のままにケトーを送還し、爺ちゃんを呼び出して家へと帰る。

 後にラドゥ達からその後の大騒ぎに関して聞かされたけれど、無事に戦争は食い止められたと言う話だった。



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