26 助けを求めた仲間達3
多分何かを吸い込んだからと、毒や、小さな虫などが寄生して起こる病だと勘違いしたのだろう。
呪いの魔力が体内でとどまり、外に漏れて無かった事も発見を困難にした理由だった。
僕の言葉に、ディシェーンが大慌てで呪いの除去、解呪を神に願おうとするが、大慌てでそれを止める。
今二人がこの様な状態なのは呪いのせいだが、命を繋いでいるのもまた呪いの効果なのだ。
仮に神聖魔法で呪いを解除すれば、身体の芯は石化したまま、呪いの魔力だけが消えてしまう。
すると当然の事だが、二人は死ぬ。
こんな状態でありながら生きている、或いは生かされているのは、それが呪いの効果だからだ。
因みに石化だけを解除しても、呪いの効果で再び徐々に石化は始まる。
つまり石化と呪い、二つをほぼ同時に癒すのが、この二人を助ける方法だった。
多分だが二人が吸い込んだ粉は、コカトリスの嘴を砕いて粉末にし、それに石化の呪いを掛けた物だろう。
元々石化の能力を持つコカトリスの嘴を元にすれば、石化の呪いも定着し易く、呪物とし易い。
令嬢と侍女が昏倒したのは、吸い込んだ途端に呪いの魔力が発生し、二人がそれに中てられたからだ。
唯一つ幸いなのは、粉の様な細かな呪物は破壊され易く、効果を発揮し終えた今は、もう既に消え去ってるであろう事だった。
つい先日の呪物の様に、体内にある限り呪いが復活します。
なんて理不尽な事は起こらない。
……のだが、まぁさて、後はどうやって石化と呪いの二つを除去するかだが、
「聞きたいんだけれど、ディシェーンって石化の快癒は、……出来なかったよね。うん」
俯くディシェーンに、僕は大慌てで両手を振る。
石化の快癒は、それこそ最高位の司祭にしか扱えない神聖魔法だ。
ディシェーンは信仰心の強い、格の高い神官戦士だが、流石に暫く見ない間に急成長してたりはしなかった。
神聖魔法は魔術に比べて発動が容易で、消耗も軽いとされている。
けれどもその分、使用出来る資格を得るのは非常に大変だと言う。
では結局、石化には僕が対処する以外に道はない。
幸い呪いの除去はディシェーンに頼れるから、手間が半分で良いのは大いに助かる。
「じゃあディシェーン、僕がお願いって言ったら、呪いの除去をしてくれる? 二人同時には無理だから、先にお嬢様からが良いかな」
確認する様に辺りを見回せば、誰も反対はしない様なのでそれで良いらしい。
侍女で先に試せ!
とか言われるかなと思ったが、高貴な人を優先で良い様だ。
僕は寝ている令嬢の、喉と下腹に手を当てて、上から下にと石化した部分に僕の魔力を通して流れを作る。
呪いの魔力が少し邪魔だが、その辺りは力技、僕の魔力の量で押しのけて、石化部分に干渉を行う。
治療を始めてから気付いたが、クオンを呼び出して手紙を持たせて、爺ちゃんに石化回復のポーションを送って貰えば楽だった。
クオンの召喚を利用すれば、あの子が持てる程度の物品なら問題なくやり取りが出来る。
当然、クオンがどんどん不機嫌になるだろうリスクを孕むが、そこはそれ、ファースビュー伯爵に何か美味しい物を用意して貰って機嫌を取れば良い。
……が、まあ今更だ。
余分な物を取り除き、元の身体に組み直す。
ある程度が肉と骨と、人が身体を動かしたり感覚を伝える連絡路に戻れば、次に魔力を細かく揺らして、硬い芯を解して柔らかくしていく。
「そろそろ良いかな。ディシェーン、お願い」
そうして暫く、石化がほぼ解除出来た事を確認し、僕はディシェーンに解呪を要求した。
頷き、手を組み、己の信じる神に願うディシェーン。
「我が母よ。恵みを齎す大地の女神よ。私の声が届くならば、悪しき力を打ち砕き、苦しむ民を救いたまえ」
彼女の願いに応じ、溢れ出した光が令嬢を包み、呪いの魔力を消し去って行く。
何と言うか、こう、釈然としないくらいに手軽に呪いが解ける。
いや、とても良い事なんだけれど、同じ事をしようと思うと割と魔力を消費するから、何だか少しズルく感じてしまう。
まぁ、間もなく令嬢は目を覚ます。
とは言っても、暫く寝たきりだった身体は筋肉が萎えていて、まともに動き出せるようになるには少し時間が掛かるだろうけれど。
僕は最後に令嬢の状態を確認したら、触れていた手を離した。
貴族の令嬢に男が触ると、無礼者、とか言って首を斬られるって噂を思い出したからだ。
いや流石に無いとは思うが、折角助けたのに変な事で恨まれても面白くはない。
それに何より、次は侍女の番である。
娘は助かったのかと詰め寄るファースビュー伯爵に、僕が令嬢を指させば、彼の娘は今まさに目を開いた所だった。
歓声を上げて娘の枕元に駆け寄り、大興奮のファースビュー伯爵。
病み上がりの相手に対して抱き付きかねない勢いだったので、気持ちはわかるがまだ治療中だと退かせて、暫くはまだ動けないだろう事を告げた。
侍女の治療に入るから邪魔してくれるなと言えば、ファースビュー伯爵は貴族にも拘わらず、僕に素直に謝る。
成る程、ラドゥ達が助けたがる訳だ。
貴族としては多分、珍しいタイプになるのだろう。
そうして侍女の治療も終えて、ディシェーンに呪いの除去をして貰う頃には、真っ暗だった空が少し白み始めており、次の日の朝が始まっていた。
あぁ、取り敢えずは、無茶苦茶眠い。




