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25 助けを求めた仲間達2


 なんともまあ困った話だ。

 ラドゥ達が倒れたミューレース伯爵令嬢を見たのは襲撃から三日後、その翌日には僕に会う為にラドゥが出発したから、倒れてから既に六日は経っている。

 ここから僕を連れてラドゥがファースビュー伯爵領まで馬で移動したとして、彼単独なら兎も角、僕が一緒となれば更に時間はかかるだろう。

 んー、どう考えても時間が掛かり過ぎだった。


 まあ仕方ない。

 困った時の爺ちゃんだ。

 どの道僕がこのままファースビュー伯爵領に向かえば、迎えに来る筈の爺ちゃんが僕と会えずに心配する事になる。

 ならもう、爺ちゃんを馬車代わりに使った方が、時間も節約できて心配も掛けなくて済むから良いだろう。


 僕は紙とペンを取り出すと、現在わかってる内容と、僕とラドゥをファースビュー伯爵領の近く、ローヴォード王国まで送って欲しいと爺ちゃんへと手紙をしたためた。

「クオン、おいで」

 そして呼び出すのは、僕の召喚獣のクオン。

 現れた元気いっぱいのクオンを撫で回し、その口に書いた手紙を加えさせる。

 爺ちゃんが来る夜まで待つのは時間の無駄だ。

「今から送り還すから、この手紙を爺ちゃんに届けて」

 クオンは普段、爺ちゃんの領域の近くに住んでいるから、手紙を持たせて送還すれば、館に運ぶのは然程時間を必要としない。


 光の向こうに手紙を持ったクオンが消えれば、ラドゥはとても驚いた顔で僕を見ていた。

 召喚魔法が余程珍しかったのだろう。

 酷く疲れた顔をしてるから少し寝かせてあげたいが、多分爺ちゃんが来るのに、そんなに時間は掛からない。

 だから僕は懐から丸薬、魔力回復薬でなく、体力の回復と眠気覚ましになる薬を、ラドゥに手渡す。

「これ飲んで。少しは疲れがマシになるから。休ませてあげたい所だけど、多分爺ちゃん直ぐに来るから、飲み終わったら集合場所に向かうよ」

 僕はそう言って、使ったコップを片付けて部屋の外に出る。


 部屋を出れば心配そうにこちらを見ている組合の受付嬢、カトレーゼに部屋を借りた礼を言い、暫くの間の外出を告げた。

 



 馬を引っ張って来たラドゥと、集合場所に辿り着いてから待つ事四半刻。

 爺ちゃんは転移魔術でやって来た。

 クオンは余程急いでくれたのだろう。

 町はずれとは言え、人の世界、更に今回はラドゥも居るとあって、爺ちゃんは幻覚を纏って人間の姿になっている。

 長い髭を垂らした優しそうな老人の姿は、人間だった頃の爺ちゃんなので若作り状態だ。

 まあ骨の爺ちゃんを見慣れた僕には少し違和感があるけれど、まさかラドゥが居る前でそれを揶揄う訳にも行かない。


「長き年月を過ごされた偉大なる賢者の助力に感謝します」

 両手を額の前で組み、サッと爺ちゃんに向かって膝を突くラドゥ。

 少し驚いた爺ちゃんがもの言いたげに此方を見るが、別に僕は爺ちゃんの事を殊更大袈裟にラドゥに語ったりはしていない。

 これは単にラドゥの部族、ウェーニッシャ族が老人と呪い師、つまりは魔術師に敬意を払う文化を持ってるだけの話だ。


 僕が首を横に振ったのを確認した爺ちゃんは、

「お立ちなさい若者よ。孫の友人にそんな大仰に扱われる程の者ではないわい。普段孫が世話になっとる相手じゃ。送り迎えの手伝い位は気にせんで構わん」

 呵々と笑ってラドゥに立つよう促す。

 そしてラドゥが立ち上がると同時に、爺ちゃんがトンと足を踏み鳴らしたら、既に転移は終わっていた。

 当然僕の知らない場所だ。

 ラドゥも目を丸くして、慌てて辺りを見回している。


「ここはローヴォード王国とゴルドアガレン帝国の国境付近じゃの。件の伯爵領内じゃから伯爵の城には半日あれば着くじゃろ。じゃあ儂は帰るぞ。ラビ、クオンの面倒は屋敷で見ておく故、帰りはまた同じ手段で知らせよ」

 そう言い残すと、サッと消えてしまう爺ちゃん。

 話が早くて何よりだけれど、あまりの事にラドゥは未だに戸惑ったままだ。

 仕方ない。

 だって爺ちゃんだもの。


 でも何時までも、こんな所で戸惑っていても時間の無駄である。

「じゃあラドゥ、そろそろ行こう。折角爺ちゃんが送ってくれたんだから、間に合わなきゃ申し訳ないしね」

 僕の言葉を掛ければ、漸く我に返ったラドゥが頷き、そうして僕達はファースビュー伯爵領を目指す。




 爺ちゃんの言った通りに本当に半日後、つまり日が暮れる頃、僕等はファースビュー伯爵領の中心である、ファースビュー伯爵城へと辿り着く。

 僕とラドゥは、ファースビュー伯爵から熱烈な歓迎を受けた。

 何でも伯爵はラドゥが僕を連れ帰るまではと、リンメース子爵に屈さず耐えてたらしい。

 ラドゥが如何にこの伯爵から信頼されてるかが伺える。


 しかしこんなに歓迎されて伯爵令嬢ミューレースと御付きの侍女を救えなかったら、ちょっと立場がない。

 まあでも見るだけ見てみよう。

 どうしても駄目なら、爺ちゃんを手紙で質問する、或いはいっそ呼び出してしまうって手段も使えるのだし。



 少し後、案内された一室には、ミューレース伯爵令嬢と御付きの侍女が並んで寝かされていた。

 本来ならば、ミューレース伯爵令嬢と御付きの侍女は当然別々の部屋で寝かされていたが、僕が二人を並べるように要求したのだ。

 だって同じ原因で目覚めないなら、並べて観察した方が共通の症状は見つけ易い。


「可愛らしい、綺麗な子だろ。……本当は凄く明るくて、こんな風になってて良い様な子じゃないんだ」

 ……と、悔しげにつぶやいて唇を噛み締めるラドゥ。

 でも僕は、うぅんと曖昧にしか頷けなかった。

 いや、今はそんな場合じゃないとはわかっているけれど、ラドゥがあまり他の女の子を褒めると、ディシェーンが不機嫌になるのがちょっと怖いし。

 しかもラドゥが、伯爵令嬢ミューレースに結構思い入れを持ってる辺り、波乱の予感がしてならない。


 だが確かに、人間にしては整った容姿の少女だ。

 多分年頃は僕と同じ位だろう。

 綺麗な金色の髪と真っ白な肌で、眠っていると人形の様にも見える。

 のだけれど、基本的に僕は魔の森の村でエルフを見慣れているし、僕の知る中で断トツに美人なのはクィーンアルラウネである為、特に眠り姫に心惹かれる事はない。

 まあラドゥが誰にどんな感情を抱いていようと、それは助けた後で解決する話だ。


 令嬢や侍女が吸い込んだ粉の残りは、危険だからと窓を開けた際に吹き飛んだらしい。

 仕方の無い話ではあるが、少しでも手掛かりは欲しいので入っていた小袋だけでも持って来て貰う。


 目を閉じ、自分の瞼をトントンと指で叩きながら詠唱を行う。

 今から使うのは、別に大仰な魔術じゃない。

 身体から発する熱を視、魔力を視、更に衣服や肌、肉を透かして体内を視る為の目を得る魔術だ。

 悪い所が一発でわかる様な、そんな不思議な魔術は残念ながら今の僕には使えないから。

「見通す眼を」


 そうしてゆっくり、目を開く。

 二人とも、身体から発する熱は酷く低い。

 そして外には発散されないが、体内が妙な魔力で満ちている。

 何が妙かと言えば、令嬢にも侍女にも同じ魔力が満ちてるのだから、そりゃあ妙でない筈がなかった。

 生活環境や、水、食べ物が同じなら、多少は魔力の質も似なくはないが、だからって全く同じはあり得ない。


 それから最後に体内を透かせば、……ごめん僕はちょっと嘘を吐いた事になってしまう。

 さっきはそんなの無理って言ったけれど、悪い所が一発でわかってしまった。


 肉を透かしてみれば、令嬢も侍女も、身体の芯が石化していたのだ。

 否、正しくは芯からゆっくりと石化が進行していた、である。

 結論から言えば、

「これは石化の呪いだね」

 間違いなく二人は呪われていた。



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