表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/63

23 東部中層にて5


 治療後、つい張り切って全身の傷を全て治療してしまったが、その後の事。

 ディープフォレストジャイアントは僕の前で片膝を突き、左手を胸に当て、右手を僕に差し出した。

 相手が大型建築物サイズの巨人なので、膝を突かれた所で見上げるのは僕なのだけれど、……これはアレだ。

 魔物側から申し出られた契約。


 魔力の譲渡と名付けが、人側からの契約の申し出だとすれば、これはその反対のパターンである。

 でも良いのだろうか。

 妨害者を排除し、傷を癒した以上、ディープフォレストジャイアントは主争いに再び戻る事が出来るだろう。

 元々の脱落理由が外部からの妨害であった以上、主争いへの復帰には何も躊躇う必要はない。

 そしてディープフォレストジャイアントが主争いに復帰すれば、彼が主となる可能性は非常に高いのだ。

 うん、まあもうここまで来たら素直に認めるけれど、何せディープフォレストジャイアントは僕の贔屓の魔物なのだから。


 なので僕はその手を取る事をとても迷ったが、ディープフォレストジャイアントは僕を待っている。

 だから僕は結局、差し出された手の、その指先に自分の手を置く。

 握手なんて出来るサイズの差じゃないけれど、これで僕とディープフォレストジャイアントは召喚契約を結んだ事になった。

 後は名前を考えて、召喚する時に呼びかける名前を決めるだけだ。

 まあこんな経緯なら、多分爺ちゃんも僕を叱りはしないだろう。


 と言うか今回の件は、何だか色々と不可解である。

 グランドワームを狂乱させた者と、先程粉々になった青黒い男は別だろうけれども、でも目的は多分同じの筈。

 わざわざ魔の森に入って魔物に干渉し、人の世界に侵攻させようなんて考える誰かが、そう何人もいるとは思えない。

 だったら同じ目的を持ったグループ、或いは組織の一員が青黒い男や、グランドワームを傷付けて狂乱させた者だと考えた方がしっくりと来る。

 恐らくグランドワームの時も、似た様な、でももっと強力な呪物が使われたんじゃないだろうか。


 だとすればグランドワームに処置を施した爺ちゃんは、呪物の事を知ってる筈だった。

 あの時、爺ちゃんは僕に犯人や原因は不明だと言ったけれど、そんな訳はない。

 だったら僕にも、グランドワームの体内から呪物が出た事位は言うだろう。

 つまり爺ちゃんはあの時から相手が何なのかを知っていて、僕には話せないと隠したのだ。


 ……うん、正直爺ちゃんが相手を追えないなんて言ってもそんな訳ないから、最初からそうだろうとは思ってたけれど。

 ま、いいか。

 実際に遭遇してしまった以上、流石に爺ちゃんも話してくれるだろう。

 もしそれでも話せないってなら、本当にどうしようもなく、僕が知ってはいけない事なのだ。

 だからその事は後回しにして、今はディープフォレストジャイアントの名前を考えるとしようか。




 巨人の名前は、ケトーに決めた。

 彼は大きいけれど、でもどこか繊細な気もしたから仰々しい名前は避けたのだ。

 名付けの後はケトーの身体の苔に魔術で水を散水し、クオンも元の場所に送還してから、僕はエルフの村へと転移で戻る。

 最初はケトーが肩に乗せて送ってくれる、みたいな雰囲気だったが、そんな事をすればエルフの村は大パニック間違いなしだろう。

 ちょっと面白そうな気はするけれど、冗談で済まされない悪ふざけは流石にしない。


 爺ちゃんも夜前にはエルフの村を回り終わって戻って来て、僕の報告に大きな溜息を吐いた。

「すまん。まさか奴等と遭遇するとは思っておらなんだ。こんな事なら下手に隠さず、奴等と会ったらすぐに逃げよと言うておくべきだったの……」

 そう言って爺ちゃんは、僕が渡した呪物をグシャリと骨の手で握り潰す。

 確かに爺ちゃんにそう言い含められていた場合、ケトーを見捨てずに戦っていれば爺ちゃんの言いつけに背いた事になるので、多分物凄く怒られていただろう。

 つまり聞いて無かったのは寧ろ幸運だったのかも知れない。


「別に良いよ。聞いてなかったから、ケトーを助けられたし、仲良くもなれたから。でも爺ちゃんアイツ何だったの? 顔色凄く悪かったけれど、呪いの影響か何か?」

 後で冷静になって考えてみれば、青黒い男が単なる水で溶けたのは、多分呪いのせいだったんだと思う。

 アイツが使った魔術は、転移を除けば火の魔術ばかりで、余程炎の扱いに自信があるのだろうとも思ったが、それにしても異常だった。

 だから推測なのだが、アイツは自分に『火の魔術の扱いが優れる様になる代わりに、魔力を多量に含んだ水に触れると傷を負う』呪いを掛けていたんじゃないだろうか。

 普通はそんなリスクの高い事をしないが、アイツに関しては何故だかそんな気がした。


「あぁ、ラビの魔術で溶けたのは恐らく呪いじゃろうな。しかし顔色に関しては元からじゃ。と言うよりも、全身あの色じゃよ」 

 僕の言葉のどこかがツボに入ったのだろうか、爺ちゃんはちょっと噴き出しながらそう言った。

 でも僕は首を傾げてしまう。

 普段は森の中で暮らす僕だが、週に一度は冒険都市ナルガンズに行っているし、買い出しの為に他の町にだって良く行く。

 少なくとも世間知らずではない筈だ。


 髪色、目の色、肌の色が、色々とあるのも知っている。

 特にそれらに対して偏見もない。

 だって爺ちゃんの姿からして骨なんだもの。

 でもそんな風に色んな人を見てる筈の僕も、あんな風に青黒い肌の人間はみた事がなかった。

「そもそもな、彼奴等は種族的には人間ではない。古の種、魔族と呼ばれる存在じゃ」

 そう言って爺ちゃんは、昔話を語り出す。



 遥か昔、この世界には魔王と呼ばれる存在がいて、彼は魔族達の王だった。

 魔族と魔王は空飛ぶ大陸に住み、世界中の人間と争ったそうだ。

 遥かに昔の事だから、何故そうなったのかは知られていないが、最終的に魔王は倒され、浮遊大陸は何処かの海の上に落ちたらしい。

 しかし倒された際、魔王の身体はバラバラになって、世界中、この大陸だけでなく本当に世界中に飛び散った。

 そんな魔王の欠片の一つを宿していたのが、爺ちゃんと影の刃、聖女と英雄が倒した邪竜だったと言う。


 邪竜を倒した後、出て来た魔王の欠片を見付けた四人はそれを更に半分に割り、爺ちゃんと影の刃、聖女と英雄の二組に分かれて封じて保管する事になる。

 その後の経緯はまあアレで、半分になった欠片の一つは爺ちゃんが、もう一つはグランザースの王宮に封じられているそうだ。


 そしてそんな魔王の欠片を、魔族は狙っているのだと言う。

 何でも魔族は、その大半は墜落した浮遊大陸で静かにひっそり暮らしているらしい。

 だが未だに世界の覇権を夢見て、魔王を復活させる、或いは魔王の力を手に入れる事を望む過激な魔族もいて、そういった者の一人が僕の出会った青黒い男や、グランドワームを傷付けて狂乱させた者だった。


 因みに割と何の感慨も起きなかったが、周辺国家に働きかけてキュービス家の抹殺を行ったのも魔族の一派なんだそうだ。

 生まれてすぐに母親とは引き離されて訓練役に育てられたし、父親は偶に訓練を見に来ていた程度の関わりしかない為、本当に何とも思えない。

 別にそんな事が理由で僕に魔族の情報を伏せてたなら、話してくれても良かったのにと、そんな風にしか思えなかった。


 まあさて置き、では何故そんな彼等が魔の森の魔物を人里に向けて動かそうとしているのかと言えば、爺ちゃんを動かす為だろうと考えられる。

 今、グランザースの王宮を魔術で守護してるのは爺ちゃんなので、結局の所、半分に割られた欠片はどちらも爺ちゃんが管理してるも同然だ。

 すると当然爺ちゃんを何とかしなければ欠片は手に入らないが、普通に正面から立ち向かって爺ちゃんに勝てる人はそういない。

 だから東で大混乱を起こしてそちらに爺ちゃんの目を向け、その間にグランザースの王宮や、或いは魔の森の館へ攻め込もうと、恐らくそう考えているのだろう。


 実に迂遠でみみっちぃし、尚且つとても迷惑だが、爺ちゃんを相手に欠片を奪わないといけないならそれも仕方がないのかなぁと、少し魔族に同情する。


「魔族は人よりも戦闘向きの種族でな。寿命も長いし力も強い、魔力も多い。ラビが倒したのは中級兵じゃろう。上級兵になると今のラビにはまず勝てん。滅多に遭遇する相手でもないじゃろうが、決して無理せず、出会ったらすぐに逃げるんじゃ」

 どうやらアレで中級らしい。

 爺ちゃん曰く東の深部の主、グランドワームを傷付けたのは多分上級兵で、それ以上になると実際に魔王の欠片を身に取り込んだ魔族、魔将と言うのが居るそうだ。

 成る程、爺ちゃんが関わらずに逃げろって言うのも頷けた。

 でもあちらから手を出して来てる以上、ぶつかる事はきっとあるだろう。


 だって爺ちゃんは僕の家族で、魔の森は僕の住む場所なのだ。



 その後、爺ちゃんと手分けして呪いを掛けられた有力な魔物の生き残り達を解呪し、癒して回った結果、見事にハイオーガキングは主争いから脱落する。

 魔族に協力し、或いは誘導されて主を目指していたハイオーガキングは、他の魔物達の強い怒りを買っていたから、集中的に攻撃を喰らって屠られたのも、まあ無理はない。

 残った魔物達はそれなりに長い時を掛けて主を決める為に争うだろうから、今回の件はこれで全てが無事に終了だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ