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20 東部中層にて2


 森の東部に起きる異変を調べるべく、僕と爺ちゃんは最初に東の浅層部にあるエルフ達の村へと飛ぶ。

 別にエルフ達が何らかの情報を握っている事を期待している訳じゃなく、ごく単純に、先ずは彼等に中層部で起きてる異変を伝えて、注意を促す必要があったからだ。

 人食い鬼と言われるオーガだが、その人のカテゴリーには人間だけでなく、エルフも含まれる。

 だから本当にハイオーガキングが中層部の主になるなら、エルフ達には北部の村に避難して貰った方が良い。

 でも当然、避難するにも身一つでと言う訳には行かないだろうから、成るべく早い段階から脅威を伝えて、避難の準備をして貰う必要があった。


 それに、本当に避難するかどうかを、エルフ達が決める時間も必要だ。

 僕や爺ちゃんからしてみれば、出来る限り避難をして欲しいが、自分達の村を捨てる事になるかも知れない避難を、僕等が強制は出来ない。

 もし彼等が村での話し合いの結果、避難を望まないと言うのなら魔物避けの結界は張るが、それでも王に率いられた魔物なら村へと踏み込んでくる可能性は、決して低くはないだろう。


 とは言え異変を伝える事に関しては、爺ちゃんが一人で良いと言うか、僕の言葉じゃ重みが足りない為、居ても手伝えはしない。

 なのでエルフの村に転移した後は僕は爺ちゃんと別れ、更に中層部へと転移した。

 僕の転移は深層部を抜けるには足りないが、浅層部から中層部へと飛ぶ位はなんとかなるのだ。

 どうやら魔術師の中でもその位の移動距離を出せる人は滅多に居ないらしいので、勿論これは自慢である。


 ……まぁ爺ちゃんを近くで見てると、そんな自慢はするだけ虚しくなるのだが。



 さて置き、中層部に入って僕が出来る事は二つ。

 ハイオーガキングが未だ倒していない有力な魔物の所に行くか、既に倒されて、尚且つ生き残った魔物を調べるかである。

 あぁ、ハイオーガキング自体を調べると言うのも一つの手だが、取り敢えずは生き残りの、ディープフォレストジャイアントを見に行くとしよう。

 ディープフォレストジャイアントもハイオーガキングも、その他の有力な魔物達も、大体の生息域は把握済みだ。

 傷を癒す為の眠りなら、恐らく安全を確保できる場所で眠っている筈。

 そう言った場所は、巨体のディープフォレストジャイアントにとっては、そう数多くある物じゃ無い。


 森歩きなので召喚獣のクオンを呼び出し、気配を消してディープフォレストジャイアントの生息域へと向かう。

 ディープフォレストジャイアントの住処は、町一つ分くらいの広さの土地が、ガクンと大きく窪んだ場所にあった。

 窪みとそうで無い場所の境は、家の高さよりもずっと大きな段差があるので、ディープフォレストジャイアント程の大きさがない魔物では、一度入ると出るのに手間取る場所だ。

 そう言った沈んだ森は、魔の森の中に幾つかあるが、どれも大型の魔物が棲み付いている。

 恐らく他の魔物があまり侵入してこない為、彼等にとっては居心地の良い場所なのだろう。


 僕はクオンを抱きかかえて、窪みの中へと飛び降りる。

 しゃがみ込みながら地を転がる様にして、着地の衝撃を逃がす。

 窪みの中は外よりも、何だか空気の水気が濃い気がした。

 地や樹木に生えた苔も、間違いなく量が多い。

 クオンは水気が毛皮に絡んで気持ち悪いのか、不機嫌そうにジタバタしてるけれど、まあもう少し我慢して貰おう。


 苔の多い木々の間を、窪みの中心に向かって歩く。

 背の高い木々が光を遮る為、辺りは薄暗くてひんやりとしている。

 暫く歩けば、僕は大きな足跡を見付けた。

 否、今までにも幾つか見付けていたのだが、大き過ぎてそれが足跡だと気付かなかったのだ。

 その大きさに、僕の気分は不思議と高揚する。


 どうしてだかは自分でもわからないけれど、大きいと言うよりも、寧ろ雄大な存在は格好良いと思ってしまう。

 そうして足跡を辿って見つけたディープフォレストジャイアントは、まさしく雄大と言える存在だった。

 今は傷付き木々の間に埋もれる様に横たわっているが、立てば恐らく館の横にある石塔よりも大きいに違いない。

 流石に北の深部の主であるギガントタートルや、東の深部の主であるグランドワームよりは小さいけれど、それでも人型の生き物でありながらこれだけ大きいって事が、僕の心を惹き付ける。


 しかしその姿は全身が傷だらけで、例え回復の為の眠りに付いていたとしても、助かるかどうかは怪しそうに見えた。

 うーん、死なない程度になら、傷を直しても良いだろうか?

 もし再び戦える様になるまで傷を治せば、それは中層部の主を決める勢力争いへの加担になる。

 まぁそれが絶対に駄目だって訳ではないのだけれど、あまり安易に勢力争いに関わっては、多分歯止めが利かなくなってしまう。

 例えば、野心的な南の主は危険だから排除しようって言い出す様にでもなれば、それはもう僕や爺ちゃんがこの森の支配者を目指すのに等しい。

 だから過度の干渉はしないが、ディープフォレストジャイアントが命を繋げる程度に癒すだけならば、大勢に影響は出ない筈だ。


 ……と、僕が自分に言い訳をしていた時、不意にクオンが僕から飛び降り、ディープフォレストジャイアントの肩の辺りでケンケンと吠え始めた。

 いやいや、幾ら相手が傷付き寝てるからって、そんなに吠えて目を覚まされでもしたら困るからと、慌ててクオンを捕まえに行けば、僕はそこで異様な物を目にした。

 ディープフォレストジャイアントの肩の一部がどす黒く変色し、しかもその部分から何やら異様な魔力が撒き散らされてる。

 あぁ、どうやらクオンは、これを僕に教える為にあんな風に吠えたらしい。



 暫くその部分を観察したが、どうみてもこれは怪我による変色ではないだろう。

 と言うより、放たれる魔力から察するに、完全に呪いの類が仕込まれていた。

 魔物は魔力と密接な関わりを持つ生き物で、こんな風に異質な害意に満ちた魔力を体内で発生させられれば、弱るどころか命に関わる。

 それでも未だ、ディープフォレストジャイアントが生きているのは、体躯の巨大さ故に、異質な魔力の影響が全身に及び難かったからじゃないだろうか。

 いずれにせよこんな事は単なる魔物の勢力争いでは起こらないし、この異質な魔力、呪いをなんとかしなければ、傷を癒す眠りに付いていたとしても全くの無駄だ。

 治るどころか、刻一刻と弱ってしまう。


 もう治すのを躊躇っている場合ではない。

 少し強引な手になるが、僕は攻撃の意思を込めず、また術式も編まずに、大量の魔力を放つ。

 異質な魔力をへばりついた泥に例えるなら、僕はバケツ一杯の水でそれを洗い流そうとしてるのだ。

 技術もへったくれもない強引な解呪法だが、僕の魔力量は人並み外れているから、その強引な手段は確かな効果を発揮し、異質な魔力を押し流す。

 ……けれども、押し流した筈の異質な魔力は、直ぐに再びディープフォレストジャイアントの肩の中から発生した。

 どうやら呪いを発生させる物理的な何かが、ディープフォレストジャイアントの肩の中に入り込んでるらしい。


 大量の水で泥を押し流した所で、中から泥が湧いて来るのでは、幾らやっても無駄である。

 肩の中に仕込まれた何か、呪物を取り除かなければ、呪いの解呪は不可能だ。

 そんな風に僕が判断した時、一時的とは言え異質な魔力を押し流した影響だろう。

 眠って居た筈のディープフォレストジャイアントがパチリと開き、顔をこちらに向けて僕を見た。




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