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17 新人魔術師達と僕4


 次の週は緑の迷宮の第一層へ、次の週は灰色の神殿へと見せかけて、無色の迷宮第二層へと新人魔術師達を連れ歩いた僕。

 彼等は着実に成長し、冷静に周囲を見れる様になって来た。

 意識が変わって来た事もあるし、やはり慣れもあるだろう。

 毎週考えてる課題も、彼等はまじめに取り組んでくれてる。

 こうも素直に皆が動くと、不思議な事に何だかちょっと物足りない。


 一人ぐらい、僕に反感を抱いて勝負を挑んで来るなんてイベントがあっても面白いのだけれど、やはり魔術師は冒険者の中では品が良いと思う。


 まぁ後は積み重ねで経験を増していけば、何時か本当の窮地に出くわした時にも、或いは対応出来る様になる筈だ。

 ……しかし残念ながら、僕自身もまだ本当の窮地は経験していない為、彼等にそれを教える事は出来そうもない。


 つまり、早くも教える事が無くなって来たなぁって感じだった。

 勿論今の環境、自分達で前衛役もこなし、魔術師としての経験も持ち回りで積むと言う形式は、僕の付与や治癒の魔術支援が前提である。

 今週は緑の迷宮の第二層へと来ているが、この階層に出現する強敵、最下位の魔狼の一種であるグラスウルフにも、彼等はしっかりと対応出来ていた。

 魔術師役は自分の放つ魔術の種類と発動までに掛かる秒数を最初に宣言し、前衛役と魔術師役以外の、後方警戒役やマッピング役の者がカウントダウンを行う。

 そうした上で、発動のタイミングで射線を開けると言う工夫は、彼等自身が考えて自主的に始めた物だ。


 魔術の失敗、暴発でなく味方の背中に向けて放ってしまったケースも、二週目は獣系の魔物が動く速度に惑わされて一度あったが、三週目、四週目では一度もない。

 流石にグラスウルフが三匹以上出た場合は対処し切れないので、僕がナイフ投げで仕留めて数を減らすが、緑の迷宮第二層でも然程危なげなく戦っている。



 そして今日の探索には、見物人が複数来ていた。

『ヴァルキュリア』や『ガイアの戦士団』等、それなりにベテランの冒険者グループのリーダー達だ。

 緑の迷宮はフィールドが広いので、彼等が気配を抑えてさえくれれば特に邪魔になる事はない。

 彼等もまた冒険者組合からの依頼で、僕の指導が終わった後の新人魔術師達をバラバラに引き取り、暫くの間は訓練を施してくれる予定になっている。

「何で小僧が魔術でなくナイフで敵を減らしてるのかが全く分からんが、それはさて置き、駆け出しの魔術師でもやるもんじゃねぇか」

 腕を組んでそう唸ったのは、ガイアの戦士団のリーダーだ。

 そりゃあ、僕が魔術を使うと魔物が逃げたり、或いは過剰に魔術を警戒して、新人魔術師達が戦い難くなるからである。


「あのやり方はラビック君じゃなく、あの子達が自分で考えたの? そう、こんなやり方もあったのね……」

 ヴァルキュリアのリーダーも感心したように呟く。


 僕が思うに、駆け出し魔術師達の扱いが悪かったり、時折魔術の暴走を起きていたのは、決して魔術師側だけの問題じゃなかった。

 魔術師を組み込んだグループとしての戦術を構築せず、役立たずだとプレッシャーをかけ続けた他の冒険者側にも問題はあるのだ。

 だってこの町の外にだって魔術師は幾らでも居るけれど、そんな彼等が魔術の暴発を起こす事なんて、余程の素人でもない限りは滅多にない。

 ダンジョンに潜ってでも急いで稼がなきゃいけないとか、色んな事情はあるのだろうけれども、まだ未熟な間から極限状態に陥りがちなダンジョンへと放り込むから暴発なんてする。

 しかも周りの目が厳しくて妙なプレッシャーを掛けられれば、魔物に対する恐怖も合わさって、失敗するなって方が無茶だろう。


 それでいて将来的に魔術師が必要になって慌てるのは、僕から言えば愚かしい。

 今回の依頼で僕が書いた報告書を基に、冒険者組合は新人の魔術師に対する教育過程を組むそうだ。

 多分これからは、冒険都市ナルガンズでの魔術師の扱いも、少しずつ変わって行くと思う。



「先生、今の私の魔術どうでした!」

 勢い良く、僕に問うて来るのはミュース。

 ごめん、見てるには見てたけど、全く印象に残っていない。

 まあ僕が確認してるのは失敗や問題点だから、印象に残ってないと言う事は良く出来ていたと言う事だ。

「う、うん。良いんじゃないかな」

 でもちょっと後ろめたくて、曖昧な返事になってしまう。

 しかしそれにしても、やっぱり先生って響きは素晴らしい。


 僕の指導が終わった後に、引き取るグループに関してだが、ミュースはヴァルキュリアに推薦しようと思っていた。

 色々と言われる事もあるヴァルキュリアだが、僕が見る限り彼女達は至極真っ当な冒険者である。

 12と言う歳でも、性別を隠して男装してても、やはりミュースは女の子だ。

 僕以外にだって、気付く冒険者は居るだろう。

 ミュースがヴァルキュリアに心を開いて自らの性別を告げるかどうかなんて知らないけれど、少なくとも他の冒険者グループに預けるよりは安心だった。


 勿論ミュース以外が心配じゃない訳ではない。

 例えば前衛で剣を振る事に嵌った一人、アーレスなんかは、完全に剣を学び始めた。

 冒険者組合の初心者講習だけじゃ足りずに、何と剣術道場に所属までしたと言う。

 アーレスが何処へ向かうのかは非常に心配なのだけれど、ああ、多分彼にはガイアの戦士団とか向いている。


 何れにせよ、僕の役目ももう後少しだ。

 僕はほんの少し手引きをしただけで、彼等がこの先どうなるのかは彼等自身の責任だけれど、少しでも関わったのだから、新人魔術師達には楽しく凄腕の冒険者に、そして熟練の魔術師になって欲しいと思う。

 後は、早くラドゥ達が帰って来ないかな。



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