14 新人魔術師達と僕1
週に一度の冒険者の日。
何時もの様に冒険都市ナルガンズを訪れた僕だったが、生憎とその日はラドゥ達のグループは居なかった。
しかも冒険者組合に預けられていた置手紙を見る限り、今日だけでなく数週間は、ラドゥ達はナルガンズを不在のままだそうだ。
ラドゥ達は、普段僕が来ない日は、ダンジョンよりも寧ろ町の内外での依頼をこなす事が多いらしい。
丁寧で腕も立つラドゥ達のグループは、町の外の依頼でも人気が高いと言う話は聞いている。
ただ今回はそう言った依頼の方でラドゥ達と懇意にしてる貴族、自治都市であるナルガンズには貴族は居ないので、この場合は他国の貴族から、どうしても手助けが欲しいとの申し出があったと言う。
そしてその依頼には、一ヶ月以上を必要とするそうだ。
そう、まぁラドゥ達に会えないのは少し寂しいが、僕と彼等は単なる友人ではなく、冒険者と言う仕事仲間である以上、仕方の無い話だった。
しかしそうなると問題は、ラドゥ達が不在の間、僕はどうするべきかと言う事である。
正直な所、一週や二週なら兎も角、長期間彼等と離れて動いていれば、必ず他の誰かが僕を自分のグループに組み込もうと動く。
でも僕にその気がない以上、そうやって働き掛けられるのは、如何にも面倒臭い。
事情を理解して、一時的に組んでも、その後に強引な勧誘をしてこない相手が居ればいいのだが……。
置手紙を読んで発生した僕の悩みを、恐らくラドゥ達の行動も把握している冒険者組合の受付嬢は察したのだろう。
「お考えの最中のようですが、ラビック様、もし暫くの間お手隙になるようでしたら、一つ引き受けていただきたい依頼がございます」
不意に彼女、確かカトレーゼと言う名前の受付嬢が、そう言った。
ダンジョン探索をする魔術師が少ない理由は以前にも述べたと思うが、初心者の間は役に立たず、更に魔術を暴発させかねないと言うのが大きな原因だ。
けれども役に立たない上に危険だからと言って誰も相手にしなければ、当然だが新しい魔術師が育とう筈はない。
この問題に関しては冒険者組合も頭を悩ませており、どうにかその状況を解決出来ないかと模索をしていると言う。
例えば新人の魔術師を、多少の足手纏いを抱えても問題なくダンジョン探索をこなせそうな、有望なグループに紹介したりと。
ただその場合でも冒険者グループ側から断られる事は多く、その最大の理由はやはり魔術の暴発を恐れるからである。
そこで冒険者組合からの僕への依頼とは、そういった新人魔術師達が魔術の暴発を起こさぬ様に指導をして欲しいと言う物だった。
僕はその依頼に、と言うよりも冒険者組合が行っている試みに興味を惹かれたし、何よりその依頼に集中していれば妙な勧誘も受け辛くなると思うから、僕にとっても都合は良い話だ。
だが僕はその依頼を即座に引き受ける事はせず、返事は一旦保留して、その日は物凄く熱心に勧誘して来た『ヴァルキュリア』、女性ばかりの冒険者グループと無色の迷宮へと潜る。
階層は控え目に十階層としたが、まぁ、そう、決してヴァルキュリアの人達の実力も低くはないが、ラドゥ達とは比較の対象にもなりはしない。
彼女達も僕との実力差は感じた様で、少し気まずそうにして、その日のダンジョン探索は早めに終えた。
僕が冒険者組合からの依頼を保留にしたのは、爺ちゃんに相談する為だ。
自分の事は自分で決めたいとは思うけれども、しかし僕はまだ爺ちゃんの弟子として魔術を学んでる最中の身である。
勝手に他人に何かを教えて良い立場かと言えば、決してそうではないだろう。
実際、僕の相談を受けた爺ちゃんは、少し考え込んだ様子だった。
そして爺ちゃんは僕の目をじっと見て、
「ラビ、お前が教えた上で、それでもその者が魔術を暴発させたらどうするのじゃ? 依頼を引き受けた場合、どう言った訓練を施すのかも含めて、来週までに儂に答えよ」
そんな風に問う。
一週間、僕は次の冒険者の日まで、爺ちゃんからの問いの答えを考え続けて、そうして出た答えを爺ちゃんに告げる。
爺ちゃんは僕の答えを聞いた後に、一つ、二つと頷いて、
「ならお前がその依頼を受けるのは、自身の修行にもなるじゃろう」
そう言った。
つまりは僕の好きにして良いって事だ。
勿論その結果の責任は、僕が負わねばならないけれども。
再び冒険者組合に足を踏み入れる僕。
何時も通り僕を誘って来る人達の中に、ヴァルキュリアの姿はない。
あの人達は、誇り高い人だと思う。
冒険者には下品な人も多いから、口さがない事を言う人の中には、ヴァルキュリアは実力者に媚びて上に行こうとしてるなんて風に言う人も居る。
でも彼女達は、実力が見合わないとわかれば素直に僕から離れた。
もし彼女達が本当に噂通りに、媚びてでも上に行こうとするのなら、実力差があっても何とか僕を利用しようとした筈だ。
だからこそ何時か機会があれば、僕はもう一度彼女達と組みたいと思う。
今日もラドゥ達が居ない事は最初からわかってるので、僕は受付に真っ直ぐ向かい、保留にしていた依頼を改めて引き受けるとカトレーゼに告げる。
但しこれだけは言って置かなければならない。
「僕は新人の魔術師が暴発しないように色々と教える心算ですが、それでも尚暴発を起こした場合は、僕は責任は取れません」
そう、これが僕が、爺ちゃんに対して返した答えである。
当たり前の話だが、自分の行いの責任は自分にあるのだ。
指導中、依頼を遂行中に起きた事の責任は、当然僕に在った。
でも指導後にそれを受けた魔術師達が引き起こした出来事は、当然本人の責任だろう。
「わかりました。万一指導後に暴発が起きても、組合も、彼等と組んだ冒険者も、ラビックさんに責任を問う事は致しません。魔術師本人と、紹介した組合の責任です。但し、その指導が効果のある物だと確認する為、先に組合に指導法を教えて下さい」
僕の要求を認めた上で、指導内容の確認を求める組合の受付嬢、カトレーゼ。
彼女の言い分もまた当然の事だ。
と言うよりも、内容の確認もせずに丸投げされても困るので、昨日の晩、予め羊皮紙に書き記しておいた指導法を提出する。
そしてそれに目を通したカトレーゼは少し驚いた様子で、
「組合長に確認をして来ますから少しお待ちください。でもラビック様は、……変わった考えをなさるのですね」
そんな風に言い、小走りで奥の部屋へと入って行く。
僕の指導法に効果がありそうだと認められて、指導を希望する新人魔術師達と引き合わされたのは、それから一時間程後の事だった。




