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13 エルフの村で2


 魔の森の浅層部を一人で歩くのは少しばかり寂しいので、召喚魔法で召喚獣のクオンを呼ぶ。

 エルフ達が付けてくれると言った案内を、川の流れを遡るだけだからと言って断ったのは僕だが、それは単純に他の誰かが付いて来ると雑多な魔物から隠れて進むのに不都合だからだ。

 でも幻狐であるクオンならば、僕と同等に隠身術はこなすし、更に幻覚を操るので居てくれたなら心強い。


 聞いた話によると水源は、地下水が豊富に湧き出す場所で、そこから溢れ出した水が川の流れとなってエルフの村まで届くらしい。

 つまりそこには結構な水量があると言う事だ。

 魔物の正体に関しては、特徴的には多分バニップだろうと推察が出来た。


 バニップは、バンイップやバニャップとか色々と微妙に違って呼ばれたりはするが、取り敢えず淡水性の魔物である。

 頭は鳥だがその瞳は異様な眼光を放ち、身体は鰐だが毛が生えており、体長は人の倍以上。

 人食いの魔物で、特に女性を好んで襲うらしい。

 手足は人に近く、陸上に上がれば二足歩行も行うそうだ。

 特殊な能力は特にないが、体格に見合った怪力を持ち、水陸どちらも活動が出来、更に相手の苦手な場所で戦おうとする知恵がある為、厄介な魔物だと言えるだろう。


 とは言え中層部では下の上か、中の下辺りに位置する魔物なので、油断せずに真っ当にやれば僕が苦戦する相手ではない。

 今回寧ろ厄介なのは、戦う場所がエルフ達が生活に使う水の水源である事だった。

 魔の森の木々は頑丈で、尚且つ再生が早いと言う特徴があるから多少巻き込んでしまっても平気だが、水源は一度壊してしまえば再び湧いてくれるかどうかは不明である。

 それに例え再び湧いてくれるとしても、それまでの間は確実にエルフ達の生活に支障が出てしまう。

 美味しい野菜の収穫にだって影響は大きい筈だ。

 出来る事なら相手を水源から引っ張り出してしまった上で始末したい。


 その為にはどうするべきか……。

 一つだけ、案を思い付いた僕は、まずはそれを成す為の材料を集める事にした。



 数時間後、手製の釣竿を携えて水源に辿り着いた僕は、近くの地面に座り込んで、水面に向かって糸を放る。

 餌も何も付いていない浮きと針だけの仕掛けだが、そもそも本当に釣りをしに来た訳ではないから別に問題はない。

 これはそう、水源に住み付いたバニップに対する挑発だった。

 水量は豊富にあると言っても、所詮は然して大きくもない水源だ。

 そんな場所に釣り針を放り込めば、住処にしているバニップは当然気付く。

 そうなれば今や水源の主であるバニップは、人食いの魔物の巣に釣り針を放り込む愚か者に、報いを受けさせんと動くだろう。


 そう、釣り針をツンツンと引っ張り、何事かと水面を覗き込もうと身を乗り出した僕を、行き成りがばっと水源から飛び出し、水中に引っ張り込んで喰らってしまうと言う方法で。

 多少特殊な鍛え方はしていても、所詮は人間で、魔術師に過ぎない僕である。

 バニップの様な大きく怪力の魔物に組み付かれたなら、抵抗の余地なく水中に引き摺り込まれるか、或いはその場で引き裂かれてしまうしかない。


 ……勿論、それは本当に今バニップが組み付いているのが僕であるならの話だが。


 頭部は鳥の様な姿のバニップにも表情と言う物はある様で、僕の姿をしたそれに組み付いた瞬間、彼が浮かべた表情は戸惑いだ。

 ああ、それはそうだろう。

 ひ弱な人間を引き摺り込む心算が、持ってみれば滅茶苦茶に重く、しかも力強かったのだから。

 例えるならば、まるで岩の塊の様に重かった筈。


 だって今バニップが組み付いているのは、クオンの操る幻覚で僕の姿を纏っただけのストーンゴーレムなのだ。

 浅層部での石材集めは少し大変だったけれども、今回集めるのはたった一体分なので時間を掛ければ何とかなった。

 石ころを大量に集めて魔術で固め、不純物を抜いて圧縮を掛けて、何とか一体のストーンゴーレムを完成させた。

 特製のストーンゴーレムとの力比べに負けたバニップが、ズルズルと水辺からその全身を引き摺り出される。


 クオンは自分の幻覚にバニップが引っ掛かったのが余程嬉しかったのだろう。

 ケンケンと鳴きながら、本物の僕の上で、バシバシと前脚で頭を叩く。

 喜びに興奮するのは良いけれど、まだ戦いが終わった訳ではない。

 僕はクオンに一言注意して落ち着かせると、決着を付ける為の呪文の詠唱を開始した。



 水から引き摺り出されたバニップは大暴れするが、しかしストーンゴーレムを引き剥がす事は出来ていない。

 まあ何せ、僕のゴーレム作成の腕前は、……この前大量に作ったばかりなのもあって、中々の物だと自負している。

 中層部から浅層部に逃げ出して来る程度の魔物に、力負けする様なゴーレムは作らないのだ。


 ストーンゴーレムに引き摺られるバニップは、既に十分水源から離れていた。

 この位置ならば、もう水源に影響を及ぼす事はないだろう。

「土よ、結べ」

 僕の魔術が世界の理に働きかけ、土のドームがストーンゴーレムごとバニップを包み込む。

 以前サンダーサーベルタイガーを捕らえたのと同じ魔術だ。

 あの時の敵、サンダーサーベルタイガーは結局このドームを破壊したが、同様の真似はバニップには不可能である。


「更に、突き刺せ」

 僕が両手の五指をピンと伸ばせばドームの中でバニップの命は消え去った。

 ドームより迫り出した十本の土の槍が、バニップを貫き命を奪ったのだ。

 土のドームを解除すれば、その中には、最後までストーンゴーレムの腕からは逃げられないままに息絶えたバニップの姿。


 このバニップもまさか逃げ出した先の浅層部で、中層部の魔物よりも手強い相手に出会うとは思ってなかっただろう。

 でも正直な所、例え僕がやらなくても、そしてエルフ達が手を出さなくても、このバニップが長生き出来たとは思わない。

 浅層部に生息するには中途半端に強過ぎるバニップは、周辺の魔物の最大の脅威として、そのうち大量の魔物に襲われる事になった筈だ。

 バニップが浅層部に溶け込めるように振る舞うなら兎も角、恐らくこのバニップは周囲の魔物が自分よりも弱いなら、思う存分に食い散らかした。

 水源の周囲には、その痕がはっきりと沢山残っていたから。


 さて帰ろうか。

 バニップが食べれるって話は聞いた事がないが、それでも倒した証明としてこの骸は持ち帰らねばならない。

 運ぶのはそのままストーンゴーレムに運ばせるとして、後は血の匂いに他の魔物が寄って来ない様、バニップの骸は魔術で凍らせた方が良いだろう。

 僕はクオンを、ストーンゴーレムは凍ったバニップの骸を抱きかかえて、エルフの村へと帰還する。



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