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ジキルの災難(weiss version)  作者: ケイト
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02

赤と黒のボーダーシャツ。ブラックレザーのパンツにウェスタンブーツ。

長い髪の毛先をパンキッシュに散らしている。そして何よりも目立つ黒い眼帯。

ジキルはチェアーに腰掛けたまま、うんざりしたように首を回した。


「核兵器。戦略爆撃機。空母。これ以外の物なら何でも調達できる。そうだな?」

「…………」


チャイニーズマフィアの問いにも、彼は答えなかった。

そっぽを向くように窓に顔を向ける。窓の外には、東京の夜景が広がっている。


「駆逐艦までならすぐに用意できるという話も聞いている」

「……」

「なぜ君が最新鋭の武器・兵器を入手することができるのか。それが気になってね」

「…………」

「ベトナム戦争後のアメリカで生まれ、若い頃は中東を飛び回っていたそうだが。その時にどういう人脈を築いたんだ? どういうルートで武器を仕入れている?」

「聞かれたからて、言うたらアホやで」

「だからここへ呼んだ。どうしても協力して欲しい」


そこまで言うと、幹部は手下に顎で合図した。

その刹那、強烈なパンチがジキルのボディーをとらえた。


ドスッ!


「ぐうっ!」


腹を殴られた衝撃で、ジキルは体を折り曲げようとした。

しかし後ろで髪の毛を掴まれ、姿勢を崩すこともできない。

再び、腹に拳が打ち込まれた。


「げほっ!」

「少し手加減しろよ。こんなチビ、すぐに壊れちまうぜ」

「ああ、わかってるって」


手下同士が会話をしている。腕っぷしの強そうなマッチョと、陰険そうな狐顔の男である。いずれも、ジキルに温情をかけるつもりはないようだった。


ドスッ! ドスッ!


鈍い音が、何発も腹に叩き込まれる。

その都度ジキルは細い体を二つに折ろうとするのだが、すぐに後ろに引き戻されてしまう。

がら空きの胴体に、無遠慮にパンチが沈んだ。


「ううう……」


食いしばった歯の間から、苦悶の声が漏れた。

俯いたジキルの顎を掴み、幹部が無理矢理に顔を上向かせる。

そして再び、左の頬に平手打ちを食らわせた。


「君の独自の武器入手ルート。喋りたくなったら、いつでも喋っていいんだよ」

「ま、待て。……ええこと教えたる」

「何だい?」

「あ…あのな……」

「ん? よく聞こえん」

「アイドルユニットの『MasakaSana』のゴスロリ衣装な……あれデザインして作ったの、ワシやねん」


絞り出すようにジキルは告げた。

幹部は、手下に質問を試みた。


「『MasakaSana』って何だ?」

「小学生アイドルですよ。『メルティピンク』の二人の」

「『メルティピンク』は四人だろう」

「いや、だから四人組の『メルティピンク』の中の二人が別に活動してるユニットが『MasakaSana』で」


狐顔の男が情報を提供した。

とたんに、マッチョの表情がほころんだ。


「ああ、雅香ちゃんと紗菜ちゃんの二人だ」

「サイン、貰えまっせー」

「本当にっ?」

「…………」

「…………」

「…………」

「ジキルッ! ふざけるのもいいかげんにしろっ!」


ようやく、事態が飲み込めたようだった。

しかしその後ろで、


「ま、雅香たんのサイン……」


と、悶絶するマッチョがいた。


「わ…わかった。ほな、別のええこと教えたる」

「今度は何だ」

「ワシの放出品屋の方にな……ロック・シンガーの日向夏樹がよう来るねん!」

「ほう、それは凄いな」

「あとなあとな! 何年か前、日向夏樹と覆面ミュージシャンの期間限定ユニットあったやろ。紅白にも出た」

「あー、紅白でバック宙した奴だな。確か、日向夏樹 featuring……」

「あのベースの人、新宿でショット・バーやってんねん。ワシ、その店の常連やねん」

「へぇー、いいなあ」

「サイン、貰えまっせー」

「…………」

「…………」

「ジキルくん」

「あン?」


マフィアの幹部は、ジキルの腹に膝蹴りを叩き込んだ。


「ぐふうっ!」


衝撃で、チェアーが倒れそうになる。狐がそれを支えた。

ジキルは激しく肩を震わせながら、苦痛と嘔吐感を堪えた。


「減らず口を叩けないようにしてやる」


そう言うと、幹部はポケットから何かを取り出した。

懐中電灯ぐらいの大きさの黒い物体。先端から角のように二本の棒が突き出している。かなり大きいサイズのスタンガンだった。


「超高電圧だ。人体に当てたらどれぐらいのショックか、私も知らない」


言いながら、男はジキルの目の前で、スイッチを押して放電させた。

激しいスパークと同時に、独特のアラーム音が響き渡る。

敵を威嚇するために搭載されている機能なのだろう。


「さあ、少しは真面目に話をしようじゃないか。さもないと……」


瞬間、ジキルは服の袖の上からスタンガンを押し当てられた。


「うわあああっ!」


大きな音を立てて、彼は椅子ごと床に倒れた。

凄まじい衝撃だった。一瞬の接触であったにも関わらず、数本の針を束ねて刺されたような激痛が彼を襲った。


「う…あ、ああ……」


体中が痺れ、心臓がバクバクと早鐘のように動いた。

まったく体を動かすことができなかった。


「なぜ、最新鋭の武器を扱うことができる? どこから流されているんだ?」

「……ど、どアホ。誰…が……」

「ほう。この電撃を食らっても口がきけるのか。大したもんだ」


男は再び、床に転がっているジキルの太腿にスタンガンを押し当てた。


「んぎゃああああっ!」

「素直に白状すれば、これ以上痛い目にはあわせない」

「……ひっ、ヒ……、……ッ…」

「椅子が邪魔だな。外せ。もう暴れないはずだ」

「はい」


幹部の指示を受け、大柄な男がジキルの枷を椅子から外した。

そして新たに両手枷、両足枷をフックで繋ぐ。

ジキルは転がされた状態で、額の汗を拭うように、カーペットに頭を擦り付けた。

長い髪が床に広がり、首筋にまとわりついて、汗で貼り付いていた。


「そうやって俯せに転がってると女みたいだな」

「お前、身長はどれぐらいだ? 150センチぐらいか?」


二人の手下が靴で踏みつけながら、弄ぶようにジキルの体を転がした。


「ひゃ…159.9センチやっちゅうねん……」

「ギャハハハハ。まだ喋れんのか。根性のあるチビだ」

「小学生ぐらいにしか見えねえのにな」


喋っている手下の後ろで、幹部はスタンガンをポケットにしまい込んだ。

そしてゆっくりとジキルに近付き、靴の先で腹を蹴り上げた。


「がはあっ!」

「しぶとい奴だ」

「……はあっ……はあっ……」

「残念ながら、100万ボルト以上の電圧の物は取り揃えていなくてね。ただ……」


男はスーツの内ポケットから、別のスタンガンを取り出した。

先端の電極の部分を見せるように、ジキルの顔の前に突き出す。


「こうやって威力を高めた物なら所持している。試してみるか?」

「…………」


ジキルは目を見開いて、息を飲んだ。

二本の電極の先が、ヤスリで鋭利に削られている。まるで棘だ。


「もう一度聞こうか。答えは?」


返事のかわりに、ジキルは唾を吐いた。

すぐにボーダーシャツの裾が乱暴に捲り上げられた。

次の瞬間、バチバチッと音がして、かつて味わったことのない激痛が脇腹を襲った。


「ギャアアアアアッ!」


陸に上がった魚のように、ジキルの体は大きく波打ち、跳ね上がった。

焼けた鉄串を突き刺されたような痛み。火傷をしたような感覚。

衣服の上からとは比べ物にならない強烈な刺激だった。


「ふっふっふ。筋肉が痙攣してるぞ」

「く…くそ……」

「どうやら君は拷問に慣れているようだな。これぐらいは何ともないように見える」

「ううっ……」

「その目も、拷問で失ったという噂だ……湾岸戦争後の中東で。それは本当なのか」

「…………」

「まあいい。本国へ連れ帰って吐かせてやる。どんな手を使ってもな」


ジキルは黙ったまま、朦朧とした様子で天井を見つめていた。

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