3話 妹? 弟?
神界でシリウス達が去って行った後、そこでは老人と少女が言葉を交えていた。
お気付きだろうが、一応いっておくと最高神の創造神と全知神である。
「ゼラルト、あの子どうだった? 。」
相変わらず抑揚のない機械音の様な声で、漠然とした質問を投げかける。
「そうじゃのう、やはり生まれながらにして神の称号を持っているからか才能自体はあるのう。じゃが英雄願望が強いが故に、甘い考えが染みつかないか心配じゃのう。何しろ大多数のの英雄は、その実績とは裏腹に大抵は、どんな時でも残忍で狡猾なサイコパスの性質が強いからのう。」
抽象的な問いかけにも関わらず相手の欲しい回答を的確に答えることができるのは、二人が信頼している証拠といえるだろう。
なにせ幾万といういう気が遠くなるほどの年月を共に過ごしてきた間柄なのだ。
「あの子、お気に入りだから心配。」
「ほう、お主がお気に入るにするなんぞ初めてのことじゃのう。」
「ん。玩具あげてドキドキするのも、胸がギュってなるのも初めて。いっぱい初めて貰ったから、あの子に加護じゃなくて初めての寵愛あげる。」
「そ、そうかそれはシリウスも喜んでくれるじゃろう。」
老人が動揺するのも無理はない。
なにしろ寵愛は、最高神のみにしか与える事の出来ない最上級の恩恵であり、更には与える方、そして貰う方も互いに相手を信頼し、好意を抱いていなければならないからだ。
それこそ普通なら幾万もの年月をかけてゆっくりと信頼関係を育み恋仲になるしか寵愛を与える方法はなく、神との寿命の違いから事実上不可能とされていた。
また、長い年月から色恋とは無縁であろうと決めつけていた事も拍車をかけていった。
「ともかく暫くは、ゆっくりと見守るしかないのう。」
「ん。」
そういって神界に日常が舞い戻っていった。
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周りを神々に囲まれ、項羽も度肝を抜く程の四面楚歌を味わっていた俺は、別段悪行を働いたわけではないものの父さんに連行され、あれよあれよと言えぬまま神界から連れ出された。
たどり着いた先で目にしたのは、母さんと楽しそうに遊ぶ二人の子供だった。
「母しゃま、この人がネルルの兄しゃま? 。」
あどけない言葉を震えさせ、母さんの影に隠れて離さまいとギュッと硬くて手を握りしめているのは、長い金髪に真っ白で少々刺々しいドレスに身を纏った可愛らしい容姿している少女だった。
かたや、短く切った銀髪に真っ黒な靴にズボンを履き、これまた真っ黒なシャツと執事服をぴしっと着こなしている少年は興味深そうに此方をじっと見つめながら元気な声で言う。
「ふーん、この人が僕のお兄ちゃんなんだね。」
「そうよ、ネルルとルルネのお兄ちゃんになるのよ。」
どうやら父さんが会わせたいといっていたのはこの子達の事らしい。
二人を両脇で愛おしそうに優しく抱き締めながらいう母さんは、まさに女神の名に恥じない気品さが溢れている。
「白いドレスのネルルが弟で黒い執事服のルルネが妹だから気をつけろよ。」
父さんがなかなか衝撃的な爆弾を俺に耳打ちで放り込んだ。
可愛らしいといういう共通な印象を持ちながらも容姿から服装まで対を成す特徴的な弟と妹に驚きを感じていたのだが、まさか見た目と性別、そして名前までもが対を成しているとは思っていなかった。
ここまでくると狙ってやっているかのように思える。
「初めまして、ネルルとルルネのお兄ちゃんだよ。シリウスっていう名前なんだ。ネルルは可愛らしくて、ルルネはかっこいいね。」
弟のネルルと妹のネルルの頭をゆっくりと撫でながら自己紹介をする。
手に吸い付くような手触りがとても心地よく、永遠と撫で続けること出来そうなくらいだ。
「んん。」と小さく反応するルルネと「えへへ。」と照れながら反応するネルル。
反応までも対を成しているがどちらも気持ちよさそうにしている。
可愛らしいとにかく可愛らしい。
「ネルルは、母しゃまみたいに綺麗なのがいい。」
「僕はね、父さんみたいかっこいいのがいいんだ。これいいでしょう。」
ネルルが母さんの手を固くに握りしめながらも、隠れるのをやめてドレス姿を披露する。
ルルネの方はというと、くるりと華麗に一回転すると胸を張る様にして自信満々に執事服姿を披露してきた。
うん。細い事を考えるのはよそう。
実に微笑ましい。
恐らく母さんも父さんもこの結論に辿り着いたのだろう。
俺も賛成である。
「あら、よく分かったわね。」
母さんまでもが心を読んできた。
どうやら愛の力とやらは自重を知らないようだ。
そこが良い所でも悪い所でもあるのだが、両親の愛がとにかく重い。
「二人は、ちょっと事情があってね、まだ天界から出られなかったんだ。でも許可が下りて一緒に下界に連れて行けるようになったんだよ。」
成る程、何かしらの制限があって今まで天界にいたのか。
具体的にどんな事情があったのかは、この際置いておくとしよう。
それよりも重要なことがある。
父さんがまた巨大な魔法陣を作りだそうとしているのだ。
それもちょっと黒い笑顔というオプション付きでだ。
また俺は連行されると覚悟を決める。
ただ一つだけ言いたいことがある。
それでも俺は無実だ。
「ふふ。此処での時間は友人に頼んで止めておいたから神殿に着いたとしても誰も不審には思わないから安心していいよ。」
父さんのその言葉と共に魔力が身体を包み込む。
ネルルとルルネが小さな手でこちらに向かって手を振ってくる。
名残惜しさを感じながらも手を振り返すと身体が宙に浮かびあがる。
こうして俺に三度目の転移魔法が行使された。