30 LEVEL?-2
ウォンが火竜と苦闘を繰り広げていた最中、エルナとサクラは今、21階層に続く道を探していた。
次の階層に続く道は、その階層の階層の行き止まりにある「何か」をを見つけること。
彼女達は、その「何か」を探し続けるが、どうしても分からなかった。
経験者のエルナでさえ、それは特殊な使用になっているため、分からない。
そして、それを続けてもう3時間ほどは掛ってしまっただろう。
「おねーさん・・・もっと簡単に下まで行けないの?それに、そのおねーさんが探している人はもう・・・いないよ」
サクラの突然の言葉にエルナは驚きを隠せなかった。
今まで冷静を装ってきたにが、その言葉を聞いた瞬間にそれは破壊された。
「それって、どういう事!?・・・もしかして死んじゃったんじゃ・・・」
ふと、頭の中をあってはならない光景が過る。魔物に殺されてしまう彼の姿、口から血を流し、孤独の中死んでしまう彼の姿。
エルナはサクラの肩を掴み、顔を覗き込む。彼女のその目はひどい恐怖と責任があった。
「私のせいで・・・そんな」
「落ち着いてください!!まだ死んだとは限りません!!それに、その人にいた大きな生命力は消えてしまっています」
サクラはそう言いながら、エルナの腕を降ろす。
いつの間に調べたのか、それともエルナをなだめる為の嘘なのか、どちらにしろサクラがとった行動はエルナに落ち着いてと示していた。
「でも、それじゃあ!!相打ちで死んじゃったかもしれないじゃない!!」
なかなか落ち着かないエルナに、幼い幼女はため息をつく。
幼女が年上の女性に頭を悩ますというのは、なかなかない事だ。
だが、それよりもサクラの内心ではあの言葉が気になって仕方がなかった。
『これは、*@#¥*%$&の命令だ』
『汝は@$を持って&*の償いをすべし』
大事な部分だけどうしてもが思い出すことが出来ない。
だけど分かるのは、これは別の人物が言った言葉ではないという事だ。もちろん言葉遣いが違うというのもあるが、一つは二人の男の言葉が重なり合っている。もう一つは、こう何と言うか知っているはずの人、だけどそれは思い出せない。
サクラはエルナを見る。
目の前で、自己責任に追いやられているこの人は今の自分よりも大変な事になっている事は分かる。
「おねーさん・・・おねーさんが探している人は生きています」
「なんで分かるのよ」
「おねーさんの心の中に生きているでしょう?」
サクラはそう優しく言った。
エルナは、サクラの顔を今一度見ると、コクリと頷く。
何を考えていたのか、私は二度とあの人に会えないと思っていたの?
そんなことないじゃない。あの人は生きてる。この、私の心の中で生きてるじゃない。
エルナは満面の笑みで笑った。
「おい、人を勝手に殺すなよ!」
突然、21階層の壁から声が聞こえた。
その声は、紛れもなくウォンその人の物で、何やら怒っていた。
「そんな小狭い場所で俺を生かすんじゃねーよ。第一、人が黙って聞いてら、お前ら・・・て、一人は誰だ?」
すると、壁は簡単に壊され、ボロボロの服の姿でウォンが現れた。だが、その手にはエルナがプレゼントした物ではなく、何かの手紙と、見たことのない黒い物質だった。
「どうやって、その壁を?」
エルナは、まず最初にウォンの安否ではなく壁の理由を聞いてきたことに何とも言えない期待外れ感があったが、まぁいいかと質問に答えた。
「簡単な事だ。お前、自分家から出て行くときさー、鍵を閉めるだろ?」
「うん・・・あ、そう言う事?」
「あぁ、逆に、中からの鍵ってのは簡単な形になってる。まぁ、これは、こっちに来てみないと分からないもんなんだ」
説明は終わりにして、ウォンは服に着いた砂埃を落としいく。すると、不思議そうにこちらに見る幼女を見つけた。
「なぁ、エルナ」
「ん?何?」
エルナは嬉しそうにこちらを見て返事をする。
ウォンは、不満げな顔になりながら、そこにいるサクラに指を指す。
「こいつは誰だ?」
エルナが答えようとすると、サクラは自分が言いますとばかりに「いえ、私が・・・」と口を挟んだ。
「私の名前はサクラ・マツザカです」
「そうか、お前がそうなのか。これ、お前の親父からだ」
ウォンは手に持っていた手紙の内の数枚の内の数枚をサクラに渡した。
サクラはウォンからそれを貰うと、すぐに読みだした。
エルナは興味深そうにそれを覗き見ようとする。
それは、さすがに駄目だと、ウォンは持っていたその黒い何かでエルナの頭を叩く。予想以上に痛かったらしく、エルナは叩かれた場所を両手で押さえた。
「それより、お前はこれを見たことがあるか?」
真剣に親父からの手紙を読むサクラを余所に、二人は、ウォンの持っていたその見たことのない黒い何かを見る。
エルナは、それを受け取ると、摩訶不思議そうにそれを見る。
直角に曲がっていて、片方は微妙に短い。角の内側には四角い枠があり、その枠の中には三日月の様な物がある。
全体的には黒く、片方の奥には丸い円があり、何かを通す穴まで開いていた。もう一方には横線が何本も引いてあり、握りやすいものだった。
「ごめん、見たことない」
「そっか、まぁ。お前が全てを知ってる訳がないしな」
「何それ!・・・それより、ここの来た理由と今のレベルを教えてよ」
エルナは、聞きたくても聞けなかったことをようやく聞いた。
ウォンは何度も自分の父親からの手紙を涙を流しながら読み返す幼女を見ながら、答えた。
「まず、ここに来た理由からだ。それはなこいつを探すためだったんだ」
エルナは、ウォンに釣られて立ったまま、何度も何度も何度も・・・読み返すサクラを見た。彼女の顔からは驚きが見受けられた。
「嘘でしょ?・・・」
「嘘じゃない。お前は見なかったか?こいつの魔法を」
言われてみれば、何度も見ていたじゃないかとエルナはこの幼女の幼女離れした魔力を思い出した。
岩を木端微塵に、砂同様ほどの小ささ程に砕いてしまうほどの魔力。それに100メートル下の生き物でさえ確認できてしまう。
「だからって、クルスを助ける事が出来る証拠には―――」
「おい、サクラ。解呪魔法は使えるよな」
「ちょっと待って、人間が異属性の物を使い分けることなんて―――」
二度としてエルナの言葉を二人は遮る。
「出来るよ。おねーさんも見てたよね」
サクラは、涙を拭きながら手紙を綺麗に半分に丁寧に折ると、ポケットにスッと静かに入れた。
「あ・・・・」
思い出してみれば、この子は探索魔法である「ライフサーチ」と破壊魔法である「ブレイク」を使っていた。他にも思い当たる節はあったが、これが一番決定的だ。
今ここで説明すると、魔物と人間の違いを説明するにあたって一番分かりやすいのは、「魔法について」だ。
人間は魔法を1種類のみだけ使える。だが、魔物は名前に「魔」が付くだけあって魔法の種類が3~5種類使える。
「でも・・・だとすると・・・この子は!」
エルナは考えてしまう。それはウォンが死んでしまった事と比べ物にならない程に信じられない事だった。
それは歴史上でも、禁忌とされていた事。文献でも見つかって9人しか見つかっていない事。
「そう、こいつは魔人だ」
言おうと思っていたことをウォンに先に言われてしまった。
魔人。
「魔」に魅入られてしまった「人」。
まぁ、魔物がいるのだから魔人という物がこの世に存在してもいいだろう。というより存在しているのだ。
どこかの馬鹿が作った文献には魔物と人間の子供が「魔人」とか、人間の女に魔物の子供を孕ませれば「魔人」ができるとか、根拠のない事ばかりを書いている。
実際の所、一番有名なのは先ほどの9人だ。彼らは魔人でありながら一つの感情に縛られた存在だ。
他にもいるのでは?という話もあったが、見つかっていない以上10人目はこのサクラであることに変わりはない。
そう言うのは、魔人を正しい方法で生成をしなければ、その失敗作は全部「ホブゴブリン」になってしまうからだ。
「でも、こんな子供が・・・魔人だなんて」
未だ信じられない。
エルナは、まるでエロ親父が見るような目でサクラを凝視しだした。
変わった靴。別にこれは手作りと言ってしまえば終わりだ。
白い手。ほとんど外に出ていなかったのか、あまり日焼けをしていない小さい手。
可愛い顔。ここまで可愛く育てた親を見てみたいものだ。・・・そういえば、この子に聞けば、正しい生成の方法もしくは、適合する親の秘密も分かってしまうのだろうか。
「私が、そんなに珍しいですか?」
「そりゃ、珍しいよーー」
エルナは、未だじろじろとサクラを観察する。それはいつでも出来たことだが、魔人と聞いた瞬間の態度の変化の仕方が150度くらい変わった。
見方が180度まで違うのは、貴族から奴隷を見るような目に変わった訳でもないからだ。今までただ強い、と思って来たのが、「実は魔人でした」と来た。だから、150度くらいだ。
「おいエルナ、それは度を超えると差別だ。止めろ」
そうだ。協力者と観察対象というのは全く違うのだ。勘違いをしてはいけない。
ウォンに止められ、エルナはしぶしぶ諦めた。
だが、エルナの観察が終わったと思いきやエルナはウォンに近寄り、逆にサクラがウォンを観察するかのような目で見た。
ウォン自身、自分はそこまで珍しい人種ではないはずなのだが・・・。
「おにーさん。自分を偽っちゃいけないよ?」
突然サクラはウォンに思いも寄らない言葉を投げかける。
自分を偽る。自分に嘘をつく。もちろんウォンにそんな「自分に嘘をつく」ような憶えなどない。
「・・・・・・・・・俺はお前に何か嫌な事でもしたか?」
そうなると、そう聞くより他はなかった。これは新手の嫌がらせだろうとウォンはそう思った。もちろん、エルナもそう思っていた。というより、サクラがウォンにしたことで、むしろいい気味だと笑っていた。
こいつ、人の事を何だと思ってるんだ、とウォンはエルナを薄目で睨む。
まぁ、それはさて置き、
「おい、悪いが手紙を読ませてもらった。親父を探したいんだろ?俺らについて来るか?」
そう、サクラの父はサクラを探すことが出来なくなってしまったらしい。
手紙には、一言で言うと「私を探してみなさい」という物だった。
サクラはウォンの顔を見ると、恥ずかしそうに頷いた。
おい、今度は何を考えてたんだ?
「その・・・私のとーさんは、本当に何処にいるのか分かりません。もしかしたら地の下かもしれませんし―――」
「うるせーな。お前のとーさん?の場所くらい目星はついてんだよ」
ウォンはそう言うと、まだ手の中にある手紙を握った。手にはグシャリという音と感触が感じれた。
だが、こいつには今は絶対に言ってはいけない。
彼女の父親はすでに死んでしまっている事を。




