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冒険者へ LV.1から始まるファンタジー  作者: 森林樹木
ランクF  Cave of origin(原点の洞窟)
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29  LEVEL?

 生きる覚悟を無くした物に、生きる理由を無くした物に、生きる資格などない。

 いつか誰かが言っていたのを思い出した。


 今の俺にその資格はあるのか?


 人間ではないこの家族を壊した。

 殺されそうなになったからではなく、ただの自分勝手な理由でだ。


 経験値が欲しい、強くなりたい、俺を見捨てたあの糞パーティーを見返したい、俺は頭が良い、工夫をすれば勝てると証明したい、俺は弱くなんかない、もう死にたくない、死にたくない、死にたくない・・・だから俺は!・・・。


「殺した・・・」


 立場がまるで逆だ。

 理由は何であれ、俺がしている事はあのグールと同じ事だ。

 魔物が人間を殺したから、人間は魔物に復讐する。


 それはなぜか。

 決まっている。次はこんな事がないために、こんな生き物が増えないために自分の仲間を殺すのだ。

 捕獲と言う手段もある。そのモノの気持ちを縛り付け、二度とそんな事がないようにするのだ。


 だが、目の前にいる魔物は、そんな事など考えてなどいなかった。


 今まで何者かが来ることなどなかった。天敵ともいえる存在も、鼠さえもいなかった。

 そんな平和な鳥かごに、いつでも殺せたはずの鼠が入り込んできた。

 その鼠が、いつの間にか自分の子供を殺したのだ。ならば、自分の子供と同じ痛みを味あわせるのが一番だ。


「嫌だ・・・まだ死ぬのは・・・絶対に嫌だ!!」


 この前までは別に死のうがどうでも良いと思っていたのに、今ではなぜかまだ生きたいと思っている。


 ウォンは、火竜を背に向け逃げ出した。

 ゴールもない、出口も入り口もない。この場所で何もできないまま死ぬのは嫌だ。


「復讐される」のは当たり前だ。「復讐する」のも当たり前だ。


 思い出してみれば、そうだったんだ。

 札で、辺りの熱気を飛ばしたときも、子供の危険を感じた親が、その原因を消そうとしたのだ。そして、威嚇だけをすれば終わりだと思ったが、その対象は壁を昇り出した。何をするか分からない。だが、叩きつければ破壊された岩が子供に落ちるるのは目に見えている。だから炎を吐き落とした。

 しかし、失敗した。殺されてしまった。俺によって・・・。


「グルルルルルルルルゥゥゥゥウウウウ・・・」


 後ろから、火竜が追いかけてくる。ただ追いかけてくる訳ではない。地面に前足を押し付けながら追いかけてくるのだ。

 地響きがここまで来る。


 そして、いつしか壁に辿り着いてしまった。

 壁を前にしたウォンは、手だけを壁に付け振り返る。


「このままじゃ駄目だ」


 ウォンは、左ポケットから一枚だけ札を取り出した。それは何なのかはどうでも良かった。

 この状況を打開できるきっかけが欲しかったのだ。


 ウォンは火竜に向かって走った。そして、すれ違いになる瞬間に札を腹の部位にはっ付け、遠く逃げる。

 息遣いが荒くなってきた。だが、まだだ。


「ス、・・・スイッチ・・・」


 それを言った次の瞬間、火竜の腹部の辺りが爆発を起こす。火竜の叫ぶ声が聞こえた。

 効果があった!・・・と思ったのは束の間。火竜はウォンの傍まで飛んできた。


 子供を亡くした親に、命以外もうなにも残っていないとでも言いたいのだろうか。

 手加減なしに、火竜は壁の岩に体当たりを食らわす。


 ウォンのいた辺りには大岩が、何個も落ちてくる。


「クッソ!・・・」


 ウォンは、落ちてくる岩を何とか躱していくが、そもそもその岩が熱気を帯びている。逃げていくだけでも体力がヤバいのに。その熱に、さらに体力が持って行かれる。


 火竜を見上げる。翼を羽ばたかせ、上空にいる。


「これじゃ・・・どうやって、攻撃すればいいんだ・・・」


 このままじゃ、本当に蒸し焼きになってしまう。逃げようにもこいつがいたんじゃ、上にある出口にも昇れない。

 考えろ考えろ、とウォンは悩み考える。

 そして、決断の時は来てしまった。


 ウォンの真後ろで、奴の地響きが聞こえた。目は純血しており、今すぐにも食い掛ろうかとばかりの勢いだ。鼻からは熱気交じりの息が吐かれるばかりだ。


 そうか、あの火竜の子供らも、「欲望」に殺されたのだ。


 俺の「経験値が欲しい」「ここから逃げたい」といった、欲望に巻き込まれ、死んだのだ。

 そして、この火竜も「殺したい」「子供の仇をとりたい」という「欲望」で俺を殺すのだ。


 じゃあ、俺はどっちを取るべきだ?

 この火竜の欲望によって俺は殺されるのか。

 それとも・・・いや、それともじゃない。この一択を取らなければ、前者なんて逃げ道にしかならない。俺にできる事は一つだけだ。後者だけだ。


 ウォンは、深呼吸をした。深く深く・・・。


 そして、火竜をもう一度見る。しかし、二体の表情は似ていても、その真意が違う。

 一体は、そこにいる鼠を殺したいという物だ。だが、その火竜に睨まれているこの一体は、この化け物から逃げるという物だった。


「逃げる」この言葉はネガティブそのものの言葉だ。だが、逃げるに先はないのだ。「逃げる」は裏を返せば「生きたい」「やり返したい」に続くのだ。


「俺は生きたい!だから!お前を殺す!」


 いつの間にか、心臓の鼓動も静まり、息も落ち着き、体の震えも収まっていた。

 ウォンは傍に落ちている手頃な小石を手に取った。


 火竜はそれを見て、警戒する。

 当たり前の事だが、先程の事も考えて、ここはかなりの最深部であるのは確かだ。だとすれば、ここらの魔物に体力勝負なんて絶対に勝ち目など効くわけがない。


 そうなると、一番なのは「弱点」のみの攻撃だ。


 火竜。一言で言えば火属性の竜。

 竜には二つの種族がある。


 一つは、目の前にいる胴体が太く、頭部に掛けて細くなっていく。手は極端に小さく。足は大きい。「竜」だ。体力も力も強いが、魔力が著しく弱い。だが、自分の属性に関連付いた場所では、強くなる。


 もう一つは、「龍」。「竜」とは違い、体が全体的に細い。体が長い分、手と足が離れている。そのせいで、体力も力も弱い。だが、魔力もその威力も強い。


 そして、この竜は火属性だ。だとすれば水が苦手だろう。


 だが、ここはマグマと岩ばかり、水なんてものはない。汗があろうともこんな魔物に効く訳がない。

 ウォンは、札を数枚取り出すと、そのうちの一枚を張り付けた。


 そして、火竜に向かって走る。


「目くらましくらいは効けよ!おい!」

 手に持っていた小石を火竜の目に向かって投げつける。失明くらいまでいってくれたなら、こっちとしてはかなりありがたいが・・・どうだ?


 壁に沿って走る出す。火竜がこちらに気を逸らした、その瞬間、例の言葉を叫んだ。


「グッルオオオォオォォォォォアアアアアア!!!!」


 やはり、目は、生き物の部位で一番と言っても良いほどデリケートな場所だ。女共は、肌とか戯言を抜かすが、他の種族にも効くとなれば、話は早い。


 火竜が地面に落ちるのを確認すると、ウォンは、ありったけの札を手に握りしめると、壁にはっ付けながら走り出した。


 何でもいい!どんな効果があろうとでも何でもいい。どうせ、この札の効果は結局はほとんど「攻撃系」だ。


 未だ、火竜は目の痛みにもがいている。

 どのくらいの時間稼ぎができるかは分からない。だが、ここを一周できるほどの時間はあるだろう。


 横目に火竜を見ながら、どんな効果があるかも分からないまま、どんどん札を張っていく。

 岩に木の札が効くか何てどうでも良い。「擬」が効くか何て関係ない。


 今は、「生きる」可能性が上がるかどうか。それだけが問題だ。


「よし!」


 とりあえず、数枚が残ってしまったが一周の岩に全て札を張り付けた。

 これほどの札を使うのだ。体に異常が来しても当たり前だ。


 だが、こいつを倒すには、自分よりも大きなものによる攻撃、「打撃」だ。

 子供の奴もそうだったが、こいつに壁の爆発を食らわしたときの叫びだ。


 ウォンは、中央にある火竜の幼体の死体の上に立った。


「ハァ・・・ハァ・・・行ける・・・この一発に掛けろ・・・」


 自分の頭の中で集中する。イメージする。このデカい化け物を岩に埋められて死んでいるイメージを!!


「スイッチ!!!」


 次の瞬間、鼓膜が破れるんじゃないかと思うほどの爆音が、この岩でできた籠に響いた。岩は集音しない。だからだろうか、なかなか音は止まない。

 だが、この煩い爆音とは反面、火竜の声は聞こえなかった。


目を瞑り、幼体にしがみ付き、耳を塞いていたため何とも言えないが、こちらに攻撃してこない以上、向こうもそれどころではないだろう。

そもそも、幼体の上に立っているのだ。すぐさま怒り狂ってやって来るはずだ。少なくとも、先程の様子から見て、見捨てたとは思えない。


しばらくして音は止んだ。


ウォンは、少しずつ目を開けていく。もう死んでしまっている事を願うが・・・!?


「うぇ!?!?・・・?」


 目の前に、火竜の頭部があった。驚きのあまり尻餅をついたが、よく見ればそれはもう生き物(・・・)ではなかった。


 首をよく見ると、頭部から下は無くなっていた。そして、胴体はあの岩に埋もれていた。飛ぼうとしたのだろうか、翼が広がった状態で折られている。


 ウォンは、壁の方へと走って行く。

 もう一度、火竜の首を見る。首だけになってもお前を殺してやる。復讐してやる。そう言っているようで怖かった。


 冷静になりながら、破壊された岩の壁を触っていく。

 やはり、効果のない物、環境の合わない物はそのままだ。


 もうそろそろで、一周するかと思えた場所で、おかしなものを見つけた。

 粉々になった場所に、暗い空洞のようなものが見えたのだ。


「・・・・・・・・・」


 息を呑むと、その中へと進んでいく。

 穴が小さいのか、体が大きいのか、穴の奥へは進めない。


「しゃーねーな」


 ウォンはため息をつくと、持っていた札を見る。運が良かったのか、手の中には「風」と「爆」の札があった。

 それを丸くし、投げいつもの言葉を言う。


「スイッチ」


 もはや、当たり前と化してしまっているこの現象に、ウォンは今では何とも思わなくなってしまっていた。

 そういえば、体の調子は良好だったが、本当に大丈夫だろうかとそっちの方が心配になってしまう。


 それはさて置き、大人一人分くらい空いたその穴の行き止まりの空間には、なぜだろうか誰かがいた痕跡があった。


「これは・・・手紙と・・・何だこれ?」


 そこには、手紙と、黒くて重い今まで見たことのない何かがあった。


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