2 LEVEL1-2
チュン・・・・・・チュンチュン・・・チュン
こんな山奥でも鳥は鳴くんだな。メスの取り合いか、縄張りの侵入でも阻んでいるのか?
朝霧がひどいな。それで喉の調子でも良くなったら、これからここにでもたまに泊まろうか?野宿条件付きなのだが。
さて、罠はどうなっているんだ?せっかく頭を捻ってい考え出したんだ。捕まってもらはなれば困る。
ウォンは、霧がすこし晴れるのを見ると、立ち上った。
ガサガサ・・・
「やったー!獲物が掛った!おっしゃっ今日の朝飯はウサギか!?」
ウォンは満面の笑みで音のする方へ走った。
だが、現実という物は本当に俺を嫌っているようだ。誰に迷惑をかけている訳でもないのに、迷惑という物は自分からこっちにきやがる。
幸せは、こっちから歩いていかんと手に入らない癖に、迷惑は勝手にこっちの手の内を蝕む芋虫ようだ。うまい葉ばかり食いやがって、いらない不味い物は残して逃げていく。
「なんで、ウサギじゃなくて人間がいんだよ」
罠に掛っていたのは、ウサギでもなく動物でもなく人間の女が罠に掛っていた。服装は普通の農民服で山菜か、ウォンと同じように薬草を採りに来たのだろうか。
どちらにしろ、ウォンに人を食べる習慣がない以上、今日の朝食も無くなったわけだ。
「ちょっと!これどうなっているの?足が引っ掛って動けないし~」
女はその両足と右手に引っ掛った罠に邪魔されて動けないようだ。それもそうだ、ここの草はなかなか抜けないように進化しているのだ。何十年も人に根っこから抜かれた雑草の代々進化してきたのだろう。これを見つけた時は、使い物にもならないと思っていたが、今思うとこれほど使える草はないだろう。
「誰だ!?どこから来た!?」
ウォンは女の頭上から問いかけた。だが、女はそれを無視しひたすらにもがいている。
「ほんと、これ、誰のいたずらなの?」
「あの!」
苛立ちまじりで、女を呼びかけた。
すると、女はビクッとすると体をウォンの声に気が付き驚いた。
「はい・・・・・・」
女は先ほどの態度と打って変わって臆病な感じに変わった。
しかし、どうなったらこうなる?
だが、これがウォンの実力だと思うと、それはそれで自身が付く。ウサギでも捕まえればと思ったら、まさか大きくと通り越して人間まで捕まえてしまうなんて。
「そこに誰かいるの?」
「いいえ、ここには誰もいませんよー」
ウォンは面白半分で、女の質問に答える。だが、そんな事を言っても何も始まらない。
しょうがないと、ウォンはため息交じりの咳をつくと、せっかくの罠を持っていたタガーで切り取った。
「えーっと・・・これは大丈夫ですか?と言うべきなのか?」
ウォンは女の右手に引っ掛った罠を草の茎ごと切りながらそうしゃべるが、女は左手が解けると同時にウォンを蹴飛ばし、右足と左足の罠を解き逃げて行こうとした。
「あ!そっちは行かない方が・・・・・・」
だが、その忠告もむなしく女は少し深い崖に落ちた。
「なんで!私だけこんなに運が悪いの?」
運が悪いと言いたいのはこっちの方だ。せっかくの朝飯だと思ったら人間なのだ。腹の足しにもなりやしない。
崖の上から女を見ると、貧相な服が泥にまみれてさらに汚くなってしまった。
・・・・・・これって、俺のせいなのだろうか?
いや、まずこの人を助ける方が先決なのだろう。が、ここで助けないのがウォンだ。そもそも人に助けを頼んでも助けてくれないくせに、こっちが助ける義理はさらっさらない。
「大丈夫ですかーー?!」
「大丈夫な訳ないでしょー!」
試しに聞いてみたが、確かに大丈夫じゃなさそうだな。辺りを見渡すと、女の周りはほとんど崖で、文字通り蟻地獄のような感じになってしまっている。
ウォンは、地面にあぐら座りをすると、女がどのようにそこから昇って来るか見物を始めた。
最初に女は木の根かを掴んで昇ろうと考えたらしく、斜めの地面を片っ端から手で掘り始めた。
だが、なかなか根は見つからない。女は上を見上げると、頭を抱えて座り込んだ。よく見るとどの木も崖から2~3メートルくらい離れていた。
「運のお悪いこと」
ウォンはその光景をニヤニヤしながら眺める。
女はまだ諦めずと、次は壁にもたれ掛ると、一直線に反対側に走り出した。なるほど、勢いで昇るつもりだな。
一度目は、勢いが足りなくそのまま地面に手が届くこともなく、滑り落ちて行った。
「まだまだー・・・」
女は上を見上げ、生意気にまだ昇ろうと足掻いている。
二度目はぎりぎりまで背中を押し付けると、少しジャンプしその反動で勢いをつけると走り出した。結果、中指と薬指が地面に掠ったが関節まで触る事はなかった。
「今のは、いけると思ったけどなー。まぁ、残念でした」
ウォンは顎に手を触ると、感心しながらそれを見続ける。
三度目。次こそはと、女は足元に落ちている婉曲上に曲がった木の枝を拾った。
これは、きっとウォンが罠に使った物だろう。それがまだ、女の足に引っ掛ってついて来たのだろうか?
女は、それを壁の手前に両端を勢いよく刺すと、先ほどのように向かいの壁に背中をくっ付けた。そして、見定めるように真剣な目で枝の刺さった壁を見る。
「ほほー。行けるかな?」
正直を言うと、今回も失敗して欲しい物だ。もっと失敗して、俺を満足させて欲しい物だ。
女は決心ができたらしく、小刻みにステップを踏み出した。
そして、両手を壁に当てると、押し付けて手をバネのように跳ね返した。足の反動も相まって勢いはさらに速くなる。
「は、変わんねーじゃん」
ウォンは呆れ口調で、そう言った。
だが、その瞬間、女は刺さっていた木の枝に片足を乗せると、もう片方の足を大きく上に傾けた。すると、女の体は先ほどよりも飛び、ウォンのいる地面まで両肘が届くほどまで来た。
「・・・ハァ!できた・・・見たか!少年!」
女は自慢げにそう言った。