10 LEVEL1-10
「おい、あの男はどこ行った?」
クルスは辺りを見回し、あの狂った男を探す。
数歩歩くと、足にグニュリと嫌な感触が足の裏に広がった。
「エルナ様・・・どうして・・・」
それはエルナの腕だった物。もうそれはただの肉塊でしかない。
近くには、血が当たりに広がっている。それは誰の物か容易に分かってしまった。この腕さえなければ、最悪の事は想像しなくて済んだはず。
「あの男はどこに行った。それにあのトロールは・・・」
あの巨大な足跡は森に向かって血の跡を残していた。
「森に逃げたのか・・・?」
いや、逃げたんじゃない。追いかけているんだ。トロールは先ほど西の方角からやって来た。だが、足跡は南を向いている。団体からはぐれてしまったのなら西に戻ればいい、そうじゃなくても太陽自体を嫌うトロールが南に行くわけがない。という事は・・・。
「クルス様、我々はどうしたら・・・」
「トロールの足跡について行け、奴はそこにいる」
いくら走っても追いかけてくる。
頭のおかしそうなその顔は、先日見たゴブリンといい勝負が出来そうだ。
「アゥギ・・・アアアアオウアオアオオオ・・・」
「テメー人の言葉も喋れねーくせに、いっちょ前に叫んじゃなーよ。近所迷惑だ!」
こんな奴に言っても無駄だと分かっていても、ウォンはそう言ってられないと耐えられない。
今は、自分という存在がそこにあるという確認が常時にあたってできればそれでいい。こいつは敵。喰って来る者。恐ろしいアホな存在。今はそれさえしっかりしていればいい。
「っつか、もっと美味そうな奴がいるだろ!なんで俺なんだ!ふざけんじゃねー!」
トロールにここを走るにはかなり不向きなはずだ。この森は普通の森とは違い、一層木が密集している。こんな場所を遊び場にしている生き物であろうとも、歩くには人苦労なはず。別々の木の枝がくっ付き合い、あの巨体でさえ前屈みで歩かなければ顔面がチクチクして痛いはずだ。
だが、このトロールは「そんなの関係ない」とばかりにウォンを追いかける。
「運がないってのは嫌いだなーったくよー!」
逃げれる場所・・・逃げれる場所はどこだ!?
左右に首を振り、逃げれる場所を探す。
すると、左方からいきどおっているような川鳴りの音が聞こえてきた。
「川だ・・・もしかした開けてるかも・・・」
ウォンは、左に方向を変えると急いで川の方に走った。
しばらく、トロールを後ろから気を付けて走る。奴の一歩一歩はこちらの数歩に等しい。いくら奴が歩いていようが着実に近づいていることに変わりはない。
「もうすぐ・・・もうすぐだ・・・」
森はすぐに開け、そこには幅の広い大河があった。河の向こうは草原で森は全く見えない。
後ろにいるトロールはあと数メートルだ。
「アギャァ・・・ウアオアアァアガ・・・ウギッ?」
「三途の川じゃなければいいんだけどな!」
ウォンは河に飛び込んだ。勢いは思った以上にひどくはなく、何とか向こう岸までつくことができた。
そして、急いで先ほど飛び込んだ岸を見るため、戻る。
「さすがの魔物でも先入観には勝てないみたいだな」
こちらに目をやるあの化け物は河に足を踏み入れようとするが、なかなかこちらに来る気配がしない。
ウォンは、その場に座りトロールの観察を始めた。
「なんだよ、レベル1でもトロールくらいからは逃げれるんじゃんか」
ポケットからステータスカードを取り出す。その時、以前拾ったあの綺麗な石がポトリと地面に落ちた。
ウォンは急いでそれを拾い上げようとしたその時。
「ギャアアアアァァァァアアアァアアアアアーーー!!!」
トロールは突然雄叫び上げ、河を通りウォンに向かって突進してきた。
何が起きたか理解できていなかったウォンはそれを急いで拾い上げると、そいつから逃げ始める。
「おかしいだろ!絶対!なんで今なんだ!さっきからでも良かったじゃねーか!」
これが目的なのか?この石がか?でもなんで・・・ったく一か八だ!
ウォンはトロールから走って距離をとると石をポケットから取り出し、できるだけ遠くにそれを投げた。
すると、トロールは上空に飛んでいる石の軌道に首の向きを合わせ、走り出した。
「あの石に何の魅力があんだよ?!」
トロールはこちらに目もくれず石に走って行く。
ウォンは草原の向こうに走って行こうとした。・・・が、ふと頭にある言葉が過ってしまった。
あれ・・・倒せんじゃね?
ウォンの足がゆっくりとゆっくりとトロールに向かって歩いて行く。
自分が視界に入らない奴は、もはや自分を透明な生き物を相手にしているのと変わりはない。だったらいっそ、倒して経験値狩りしてしまえば、レベルも上がるんじゃないのか?
あと10メートル、9メートル、8・・・7・・・・・・4・・・3・・・2・・・。
「ここまで来ても、気が付かないなんて本当に馬鹿なんじゃないのか?」
トロールは、しゃがみ込むとその石を触ろうとする。そして、その石をつまみ口に入れようとした。
「残念ながら・・・それは俺んだよ!返しやがれ化け物!」
ウォンはトロールの後ろに立ち、ダガーで背中の心臓部に突き立てた。
だが、届かなかったのか、トロールはウォンを腕で背中から払い落とすと、ウォンを襲いだした。
「ウギャァァァァァアアアァアアァアアアアーーー!!!」
トロールは倒れるようにウォンを襲う。しかしこんなギリギリの攻撃をされてしまったら、ウォンもいつしか捕まってしまう。
「ック・・・そういえば石は!?・・・あった!」
石は近くに落ちていた。
そして、ウォンはそれを拾うと上に投げた。すると、トロールは両腕を上げ、石を取ろうとする。
ウォンはそれを見逃さなかった。
「もう一回!」
ウォンはトロールの後ろに回り込むと、トロールに体当たりした。
地面にうつ伏せに倒れると、ウォンはトロールに乗り掛った。そして、背中に刺さっているダガーを足で勢いよく踏みつけた。
すると、トロールは力を無くしたかのように倒れ絶命した。
「ハァーーハァーーハァーー・・・よっしゃー倒した・・・倒したぞ!」




