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冒険者へ LV.1から始まるファンタジー  作者: 森林樹木
ランクF  An adventurer who does not hate(人嫌いな冒険者)
1/32

1   LEVEL1

 人には言えない事が沢山ある。

 たとえば、7歳までオネショをしていたとか、嘘をついて大変な事になってしまったとか、友人の大切な物を壊してしまって今でも隠しているとか・・・・・・。

 たとえば・・・・・・自分がこの人類の中で最弱だとか。

 『痴漢です!!!』『違う!!!どうして信じてくれないんだ!?』『判決は有罪です・・・』『嘘だ!僕は信じない!!!こんなの冤罪だ!』『私は・・・あんな人に体で遊ばれて・・・もう嫌!・・・』『裁判は終わりました』『そんなの嘘だーーーー!!!』


『僕は・・・無罪なんだ・・・どうして誰も信じてくれないんだ・・・』 

 

「あ!・・・・・ぁー・・・夢か」


 久しぶりに真面な夢を見られたと思ったが、今回はおかしな夢を見たな。

 おかしな服を着た者達がおかしな箱に乗り込んでいく。自我はあるのに、まるで自分が分かってやっているかのように乗っていく。ガラスには見知らぬ顔が映り込んでいる。景色が絵巻物のように変わっていく。気が付くと自分の足で外に出ていた。すると、後ろから手を引っ張られて・・・。


「まぁ・・・所詮夢だからな。・・・っつかなんだよ、僕って」


 後ろ髪を掻きむしると、あくびをしながら壁に沿って立ち上る。

 夕べも何も収穫はなかった。金も作る事が出来なかったから、夕べも野宿だった。


 街の風景は少しずつ変わっていきすこやかなはずなのに、俺の財布の事情だけは全く変わらない。金が入ったら、宿屋か飯だ。たまにそうやって使ってないとやってられない。


「路地は寒いし、壁は痛いから嫌だな。風邪を引いちまう」


 体を摩り、摩擦で温めるが、なかなか温まらない。こんな時は、日光にでも当たっとけばなんとかなる。


 路地から大通りに出た、・・・前言撤回。街は変わらず人が多くてうざい奴ばかりがいてうざいです。


 そんな初期の人間不信が主人公の物語です。



「えーーー今日もあなたはレベル1ですね。ステータスもほとんど変わってませんね」


 受付嬢はいつもと変わらない素振りをとる。

 ウォンは相変わらず受付嬢からもらったカードを見る。

 しかし、それを見るのは一瞬で、すぐにそのカードを4等分に畳んで割った。


「またー!もったいない事をして!作るこっちの身にもなって欲しいもんだよ」


「仕方ないだろ、どうせステータスも変わらないんだからいいだろ」


 ウォンはその手に持っているゴミを近くのゴミ箱に投げ捨てる。

 だが、これもステータスの悪さからだろうか、ゴミは手前で落ちてそのまま人に踏まれていった。


「もう少し、ダンジョンに行ってみてはどうですか?小1時間くらい粘ってみれば、経験値も少しは溜まるかもしれませんよ?」


 受付嬢はため息をつくと、受付から奥へ行ってしまった。

 大切な何かを失った訳でもないのに、ウォンの心の中に何か大きな穴が開いている感じだ。


「ダンジョンなんか行けるか、あんなとこだと不意打ちでデッドエンドだわ。っつかホントにこれ合ってんのか?あまりにも経験値が溜まってなさすぎなんだが」


「知りませんよ。それがあなたの運ですよ」


 運・・・か。それで終わってしまっては困るだが・・・しかし、なぜ俺なんだ?

 なんで、俺だけ経験値が溜まりにくいんだ?


「頑張れとしか言われないんだよなー」


 ウォンは落ちている自分のステータスカードを手にし、ゴミ箱の前で開いた。


 生命力:39

 魔力:12

 腕力:23

 守備力:21

 瞬発力:19

 賢さ:45

 運:25

 LEVEL:1

 Ex:29

 ランク:F


 いつもと変わらず、生命力と賢さ以外は10~30くらいだ。

 そして、レベルと経験値は絶望的に低い。ステータスが上がらないのはこれが原因だったらと深く思う。


「にしても、どういう仕組みになってんだ?」


 もう一度、そのカードを4等分に畳み割ると、次は外さないと思いっきり強くゴミ箱に叩きつけた。

 こればかりはさすがに入るだろう。バサッとゴミは円柱の籠の中に入っていった。


 別にいい気になった訳でもないが、ウォンはそのまま役所から出て行った。


 建物から出ると、豪華な装備の冒険者が武器屋や道具屋に集っている。

 しかし、ウォンはそんな店には行かない。いや、行けないのだ。


 店で物を買うには金が要る。だが、彼には金がなかった。金がないから防具も貧相で強くなれない。強くないからモンスターを倒せずクエストをクリアできない。だから金も手に入らない。そんなループが彼をむしばむ。


「俺には、強くなる資格もないんだな」


 スキルもない。魔法の一つも二つもない。それに金がないからモンスターに対抗しても遠隔攻撃もまともに使えない。スライム程度のモンスターを倒そうとしても、倒した時点で体はボロボロ、アイテムもないから回復も出来ない。


 ウォンはそんな人たちを見て、歯を食いしばると、山へと向かった。


 山には薬草がたまに生えている。

 いつか、そういった事に詳しい薬草取りにこっそりついて行こうとしたが、移動魔法を使われ分からなくなってしまった事があった。


「せめて、ノルマ10本位は欲しいよな」


 案外、木の影や草の密集している所にポツンと生えていることがある。

 ウォンはそこを徹底的に探索する。

 だが、その道にはプロが付き物。蛇の道は蛇だ。

 何処を探しても、見つけた薬草は茎から千切られた跡の物ばかり。あっても、せいぜい枯れた物か、若いこれからの物だ。そんな物を採ったって意味がない。


 結局、見つけられたのは薬草の代わりにもならない、綺麗な小石だけだった。


 わらしべ長者、という言葉がある。何か良いことが連なって大きな幸運でも来てくれたらと、ウォンはそう思って小石をポケットに入れた。


「お守りになってくれれば、いいんだけどな」


期待はしていないものの、何か自分に開いた穴を塞ぐ何かの代わりにでもなってくれたらと思っただけだ。


 いつか前に、同じような事があったのを憶えている。それはウォンが冒険者を目指そうとした理由であり、こうなった原因でもある。


「どうせなら、生命力でも上がれば良いんだけど?」


 ポケットを上から軽く叩いた。石が硬く少し手の平が痛く感じたが、今の状況と比べたらささいな問題に過ぎない。


生命力、それは人としての生きる上での大事な数字だ。これが0になってしまうと死んでしまう。また、体調によっては他のステータスにも影響を与える。

だが、ウォンのステータスはいくら体調が良くても上に上がる事はなかった。


 俺はこの職業に向かない。ただ、その言葉がウォンの頭を過ぎる。

 毎日が自問自答を毎日繰り返しだ。


 しかし、その度にウォンは思った。『工夫をすれば強くなれる。人に頼ってしまったら、そこで終わり。人を頼るな、信じるな、騙されるな、』

 それが、ウォンの生きていく上でのモットーであり、ルールになってしまっている。


 理由は明白だ。騙されたからだ。昔、何人ものパーティーを組んだ時に騙され、せっかく集めた薬草も金もドロップアイテム全部全部、奪われてしまった。

 親がいないから、頼る人もいない、そこに付け込まれた結果がこれだった。


「いや・・・親は自分から捨ててやったんだった・・・」


 少し一息、ため息をつくとウォンは木を見上げる。すると、目の前にあった一本の木の枝を見た。

 すごく立派な訳ではないが、貧相という訳でもない。

 それを、ウォンはへし折ると、円状に曲げた。ミシミシと今にも折れてしまいそうな音が聞こえたが、それもお構いなしに何個もそれを作った。


「初めて作るが、うまくいくかな?それに誰かに見つからなければいいんだが」


 その円状の物をウォンは近くの草の上に置き、括りつけた。その際、草から浮くように縛り付ける。

 一定に置いて、できるだけ見つからないようにその上に草を置いた。だが、それを置くのも適当であってはいけない。一定方向に置いていくのだ。


「上手くいけば、ウサギの一匹は捕まるかも。だけど下手したら、他人にアイデアを奪われるかもな」


 その不安だけはかき消そうと、頭を掻きむしった。

 そして、一つため息をつくと、その罠と枝の無くなった寂しい木を見た。


「まぁ、数か月もしたらもとに戻るだろ。・・・それより、今晩はここで野宿だな」


一人自体は慣れている。この半年はずっと一人だった。半年前はまともにパーティーも組んでいたんだ。だが、いつも弱いから荷物運びだ。まともに戦わせてもらえないから、強くなる訳がない。そんな中で良かった事は2つあった。


 1つ目は、工夫した戦い方だ。奇しくもウォンの入っていたパーティーは上級の者達の集まりだった。 彼らは賢さが高かったせいもあるのか、自分の腕ばかりではなく、道具、環境、場所を瞬時に考え、魔物を倒していく。

 それを何度も見続けていたウォンには彼らの戦い方は全てとは言い難いが、憶えてしまった。


 2つ目は、人を信じてはいけない事だ。

 ある日、突然パーティーの全員はウォンに戦闘をさせた。敵の魔物はミミックだった。彼らが倒すには骨は折れるが、倒せば、それなりに高価なドロップアイテムが手に入る。宝箱や壺に化けたり憑依して山や洞窟ダンジョンに生息している。

 俺は何とか倒そうと必死に戦ったが、あと一歩の所で、最後の一撃を仲間に取られた。

 経験値を得るには、魔物を自分の手で倒す必要がある。

 そして、ボロボロになったウォンを見て、ミミックを手に掛けた男はニヤニヤした醜い顔で荷物や武器、衣服以外の防具全てをウォンから奪うと、落ちているミミックのドロップアイテムを拾い集め、仲間と共に山を下りて行った。

 なぜ、自分がこんな目に合うのか分からなかった。分かる事は一つ、『信じれば裏切られる』それだけだ。

 それからだった・・・。ウォンが人を上っ面の表情しか見せず、借りは絶対に作くらず、人と関わる事を避けてしまったのは。


「信じられるのは俺だけだ・・・」


 ふと、昔の事を思い出すと、イラついたのか頭をムシャクシャに掻き毟った。

 そして、近くの木にもたれて座ると腕を組み、そのまま目を閉じた。


 太陽は、もう西に傾いている。東の方は空が暗くなってきていた。

 闇は彼を包む、それに従って、ウォンは眠りについた。


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