4.龍を狩る者達
「リンっ閃光玉っ!」
目と鼻の先でドラゴンは牙を剥きだして鳴いている。
それでもヘッドセットのマイクは咆哮を無視して声を届けていく。
大の大人一人分ほどの剣を右手で構え、空いた左手で顔を覆う。
チラリと視界の端を楕円の球体がかすめていく。
「――っ!」
次の瞬間には金属のはじける甲高い音を立て、鼓膜を揺らす。
顔を覆った左手の隙間から、世界から色を奪い去ったかのような閃光が差し込む。
しばらくするとジンジンとしていた鼓膜が世界の音を拾いだす。
左手を顔から外してみれば、あれだけ咆え回っていたドラゴンさえも目を回しているようで、目標を見失った様に崩れた建物に頭をぶつけながらきょろきょろと辺りを見回している。
すんすんと鼻を鳴らし、人など噛みつかれたら死んでしまいそうな鋭利な牙の向こうからは低い唸りが響く。
だが、すぐさま三メートルほどの巨躯は身をくねらせるように跳ねた。
落下中とはいえ、隣を並ぶオルターの手元から煙が細く立ち昇っている。
「ナイスっ!」
そんなことを言いながら両手で剣の柄を握り直す。
「っらぁぁぁああああッ!」
落下する体ごと勢いに任せて剣を握る手に力を入れ、目前まで迫ったドラゴンの首元へ刃先を振り下ろした。
切っ先は龍の肉を抉り、断たれた肉の隙間からは人間とほとんど変わらないような赤い血肉が流れていく。
「――浅いか……」
勢い任せに振り下ろした剣をそのまま投げ飛ばし、腰に付けた携帯ポーチをまさぐり、小さなカプセルを取り出すと、剣と同じように地面に投げつけた。
地面に衝突した衝撃でカプセルは割れ、中に入っていたエアマットは勢いよく広がり、ぼすっと体を一瞬うずめ、空気の抜け縮んでいくマットから飛び降りる。
「――さんっ! 背後に気をつけてくださいっ」
名を呼ばれ、跳ねるように振り向く。
目と鼻の先と言うには近すぎるその距離に唾液にまみれた牙があり、なにを腐らせればそんな匂いがするのかというほどの腐敗臭が鼻腔を刺激する。
「やっば……」
そう呟いた時には頭の半分以上が口の中にあっただろう。
けれど、轟っ! と何かが視界の隅で爆破し、龍は呻く。
「気をつけろッ! ここは戦場だぞ!」
崩れたビルの上から叱咤するような声が聞こえるが、爆破音による刺激によりそれどころではない。
「――っ……わかってるッ!」
よろめいたドラゴンの足元をくぐり、コンクリートに刺さった剣を抜きに駆けだす。
どうやら先程の爆発はドラゴンの顔の前で起きたらしく、龍は片目から赤い血を流し、つむっている。
それでも獲物を追うように顔を横に向けるが、苦痛に似た呻きが口から漏れていく。
パンパンと途切れることなく聞こえる発砲音が上空からドラゴンを貫いている。
「よいしょぉおおおっ!」
剣の柄を握り、駆けていた勢いを殺さないように身をよじってドラゴンの左足首めがけて剣を振り下ろす。
今度こそ太く大きい龍の足の半分ほどまで食い込む。
『GaAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA』
ドラゴンの悲鳴が辺り一帯を包みこむ。咆哮は既に割れているビルの窓をさらに細かく砕き、その場にいる全員を動けなくするのには充分だ。
だが、悲嘆の声をあげた後、ドラゴンは地団駄を踏むようにたたらを踏み、地震と見間違う振動を起こしながらその場に倒れ込む。
「ほらリーダー、たたみこむぞッ」
両手で足から剣を引き抜くと、三度目の爆破が先程とは反対側の顔で起きる。
ヘッドセットから流れる声に了解と短く返すと、再び剣を振り下ろした。
数少ない読者様には申し訳ないのですが、以降の投稿は二、三日に一度になるかと思われます。
すまない……執筆速度とネタが思いつかなくて本当にすまない……