2.崩壊した世界
今から二十年以上も前のこと。
戦争や震災などと無縁の生活をしていた人たちがどれほどいただろうか。
食べ物や水に困らず、何不自由もない生活を送れた人々は半数以上だろう。
ただ、そんな日常はことごとく崩れ去った。
世界中の国々が気がつく前に、先進国であった国々が対処できないままに。
かつての空は青かったのだという。
今となっては審議の程はわからないけれど、あの日以降の空は茜色に染まってしまっている。
その空の色を反射でもしているかとように、凪いでいる大海も一目見れば綺麗だと錯覚してしまうほどに美しい赤色だ。
世界は一度死んだと言っても過言ではない。
地球上から生物がいなくなったなどではなく、文明的に一度死んだ。
崩れ落ちた建物や、荒れ果てたコンクリートの道路など見れば一目瞭然だろう。
二十年以上前、天災が世界を襲った。
最初の目撃者はアメリカに住んでいたとても幼い少女らしい。
彼女はたった一言、空が黒い。とだけ言った。
見上げる空は確かに黒い。といっても鳥の群れが飛んでるように所々の黒さであり、その奥は茜色の空。
どうして誰も気が付かなかったのだろうか。飛んでいるソレは明らかに大きさや見た目が異常だ。
遠目でもわかる爬虫類のような鱗に、コウモリのように骨ばった翼。風で流れるように波打つ尾は太い。
ソレがまるで世界を覆うように飛び交っている。
誰もがその姿を見たことをなく、存在することを許されない者。
たとえ、存在していたとしても一億年以上も昔のことだろう。
ソレは天災として人類の前に現れた。
ドラゴンだ。
気がついた時にはもう遅く、飛来したドラゴンにより家は崩れビルは崩壊し、電波塔などはぐにゃりと曲がってしまってもはや意味をなしていない。
どれだけの人がその顎の餌食になったのか知る由もない。
ドラゴンの発生について語る学者は何人もいて、曰く突然変異と、曰く実験の失敗作だと、曰く世界が人類を見限ったと。
だが、果たしてどれが正解なのか分からないし、もしくはすべてが不正解かもしれない。
現状、分かりきっているのは天災は人間の敵であるということ。
ただ、住む場所を追いやられた人間だってのうのうと生きていたわけでないのだ。
十年前、死んだドラゴンの亡骸を回収し、徹底した解剖の末にかつてとは違う文明を手に入れた。
人を殺す技術ではなく、龍を殺すのに特化した技術。
守ることではなく、人類は叛逆をする。
龍を殺し、人々の世界を取り戻すために。
現在に至るまで、龍はその数を減らしていた。
それでも絶滅したわけではなくて、度々人の前に現れては遊ぶように殺していく。
これはそんな時代に終止符を打とうとする彼らの物語である。
さて、彼らは――人類はどのような結末を迎えるのか、非常に興味深い話だ。