1.プロローグ
「第三班、目標と接触まで後一八〇秒です」
ヘッドセット越しにも関わらず、バババと羽の回る音がノイズの混じった音声を掻き消すようだ。
「繰り返します。目標と接触まで一八〇秒」
耳元に手を当てるようにすると、ようやく聞こえた。
手を離し、窓から見える眼下の世界を見下ろす。
視界いっぱいに広がるのは、この世の終わりなのではないかと錯覚する程に淡い茜色に染まった世界。
かつて国内一を争っていた電波塔は何かがのしかかったかのようにひしゃげており、高さを誇っていた筈の建物はそのほとんどがバランスを崩した積み木みたいに倒れている。
国土を広げるために埋めていたはずの場所は波が寄せては返していて、沖にいたはずの船達は一隻も見当たらない。
そう。ここにかつての先進国であった姿など欠片も見受けられなかった。
「目標、予定の速度よりも大幅に速いです。接触は六〇秒後だと思われます」
慌てているようで、それにしては冷静さのある声が聞こえる。
ナビゲーターの声を聞き、少年――いや、青年は扉を勢いをつけて開く。
扉を開いた拍子に風が入り込んできて、まるで攫うかのように流れていくが、ベルトを固定してあるためなんてことはない。
「皆さん気をつけて下さい! 目標が目視できる範囲に入りました」
ザザ。とノイズが混じり、思わず片目を瞑る。
重いまぶたを持ち上げ、開いている扉から眼下の街を眺めてみれば、ナビゲーターの言う通り、そこに目標はいた。
「さて......」
小さく舌を打ち、くるりと首だけを後ろに振り返らせると、タバコの煙を細く長く吐き出す男性と、全てを照り返すような黒髪の少女は同時に首を縦に下ろす。
「作戦開始だ!」
腰につけた金具を外し、折れた電波塔の高さと同じ位置から目標――龍目掛けて飛び降りた。