第34話:空蘭女学院の上空で
「ここが空蘭女学院……」
燕野は目を輝かせながら、眼下にある空蘭女学院を見ている。
まぁ、初めて見たらこんなもんだよな。俺も初めて見た時は今の彼女みたいに目を輝かせたな。
空蘭女学院は一つの島を買い取っているので、島全体が学校としてなっている。つまり、空蘭女学院は海上にある学校ということになる。
「そういえばここってどうやって浮いているのですか? もしかして……」
「恐らく流谷の考えている通りだよ」
「それは危険ですね」
「ん? 一体どういうことですか?」
「もう、目を輝かせて空蘭女学院を見なくていいのか?」
「目なんて輝かせていません!」
「はは、嘘つけ。思いっきり目を輝かせていたじゃねぇか」
「輝かせていません!!」
「いやいや、輝かせていたじゃねぇか。子供のように」
「なっ! 誰が子供ですか!」
「まぁ、でもそれでいいんじゃねえの?」
「子供のままでいろということですか?」
「誰が、そんなバカを言うか。普通に空蘭女学院を初めて見て目を輝かせるのはおかしくないさ。俺だって初めて見た時はそうだったさ」
「へぇー。意外ですね。いえ、それよりも先生と一体どんな話をしていたのですか?」
「あぁ、空蘭女学院が海上にどうやって浮いているかという話さ」
「どうやって浮いているのですか?」
「恐らくシントロイアを使っているのだと思う」
「シントロイア?」
「SMSにも組み込まれている新物質さ。そのおかげでシールドが生まれてSONができている。でも、俺はシントロイアは超危険物質だということを知っている。この近くで地震なんて起きたらかなりヤバい」
「どういうことですか? 一体どんな危険が?」
「まず知っておかないといけないのはここにあった島はさほど大きくない。ましてや、この大きさの学院が建てれるわけがない」
『えっ?』
「待て待て。燕野やグリュグルーが知らないのはまだわかるが、俺と吹雪さん意外誰もしないのか?」
素直にコクリと頷かれる。それは橋山も同じだ。
橋山が知らないってことは俺たちの推測は正しいのか? それとも、隠しているのか? どのみち言っていいのか?
わからないので橋山の方を見るとコクリとしっかり頷かれる。
「あくまで俺たちの推測だけど空蘭女学院は島を一部だけ残して、シントロイアで学校の敷地全体を浮かしている」
「それはいいですから、シントロイアにはどんな危険があるかお教えください」
言っていいのか迷い吹雪さんの様子を伺うと微笑まれる。
なんだ。あの笑みは? どっちだ? 言ってもいいということか? 言うなということか? わからん。ホントにこの人の考えはわからない。さて、一か八かだ! 話すことにしよう。
「シントロイアは学院を浮かすくらい使うなら、近くで地震が起きただけで、大爆発を起こす。核兵器ほどではないが、威力は絶大だ。まずシントロイアは様々な物質が混ざって膨張して、できている。もし、爆発を起こすと酸素が犠牲になり、かなりヤバい爆発になる。しかも、爆発すると海が汚染されて、泳げなくなる。それは人間だけでもなく魚もだ」
「えっ? ならSMSは?」
「SMSで使われているのはごく少量だ。まだ安全性は高い。ただし、リミッターを解除すると危険だ。俺が少し前に言った通り殺すことができる。それは俺に限らず誰でもだ」
みんなが真剣に聞いている。吹雪さんは邪魔をして来なかったので言っていいということだったようだ。とりあえずそれは一安心。
「あぁ、悪い。さっきの説明だと不十分な点があった。地震といっても震度7以上の大きな地震だ。滅多に起きやしないから、安心しろ」
俺の言葉を聞いて先ほどまで緊張感があった雰囲気は少し和らいだ。
「これは推測だから、言いふらすなよ。混乱させるだけだ」
全員が頷いてくれる。
これで安心だな。
そんなことを思った瞬間に力が抜ける。そして、視界が暗転する。でも、すぐにセピア色の景色に変わる。一つおかしな部分がある。
セピア色の世界には水平線も地平線もない。まるで二つの線がくっ付いたようだ。明らかにおかしな世界に一人の少女がいる。一人の少女が俺の前にいる。
少女は長く艶のある黒髪を持っている。そして、鋭いけど綺麗な黒い瞳も持っている。そんな少女の隣に大きな歯車がある。
『ねぇ、谷。今日は走れるようになったんだ!』
彼女は楽しそうに話している。あまりにも楽しそうなので嬉しくなってくる。そんな少女がどうしても海音と被ってしまう。順調に育ったら、彼女はこんな風に育っただろうとわかる。
彼女の特徴だった右が赤で左が黄色の瞳を持っている。完全に瓜二つだ。でも、彼女が話しかけているのは俺じゃない谷だ。それに彼女も海音じゃない音だ。
あれ? どうして俺は彼女の名前を知っているのだろう?
疑問に思うとまた視界が暗転する。そして、同じようにすぐに元のカラフルな光景が広がっている。
空も海のちゃんと青くて水平線もある。これは俺が知っている世界だ。
「どうしたの? ボッとして」
海奈が覗き込んでくる。
「なんでもない」
「なんでもないわけないでしょ」
「まぁ、そうだな。ちょっと白昼夢を見ただけだ」
「疲れているの?」
「大丈夫。これくらいなら」
「そう。無理はしないでね」
「あぁ。さて、もう眼下にあるし空蘭女学院に降り立つか」
みんなに聞こえるように言うと俺たちは降下を始めた。




