第33話:空蘭女学院までの道中で 後編
今回はセリフが多めです。
「恐らく今、空蘭女学院ではある一定の生徒を対象に悪質で粘質なことをしています。ここにいる彼女はその被害者です。その証拠にシールドが破壊されていたし、溺れそうになっていました。つまり彼女は『秘密の特訓で遠くまで飛べばいい効果が発揮できるよ』と誰かに言われたのでしょう」
「なるほど、そういうことか。この子は特に熱心に上手くなろうとしている。だから、そこに付け込まれたわけだな」
「恐らくそうです」
「一体誰がこんなことを?」
「さぁ? そんなの俺にわかるわけないですよ」
「だろうな」
俺と吹雪さんの会話に誰一人として入ってこない。どうしてだ? まぁ、話に付いていけてないだけだろうな。こいつらはほとんどが理解力低いし。
「なぁ、海空」
「なんですか? 部長」
「やっぱりお前は選手の方がいいぞ」
「はっ?」
突然どうしたんだ? 主語はどうした。主語は。もしかして、バカなのか? いや、バカだったな。
「その頭の回転といいあの動きといい、やっぱりお前は天才だよ」
「いやいや、絡んでいるだけで周りの人に大怪我をさせて、不快にする天災だよ」
「ずっと思ってたけど、天災ってことはゲリラ豪雨でも起こせるのか?」
「いや、無理無理。俺は人間だし。まぁ、血のゲリラ豪雨なら起こせるだろうけどな。SMSは人殺しに使える」
「まぁ、流谷だけだろうけどね。SMSを人殺しに使えるのは。普通はあそこまでの速度に耐えれないし、そこまで頭の回転量もよくない。慣れ親しんできた技術のみがモノを言うのだから。SONは危なくないんだよ」
「まぁ、海奈の言う通りだが俺がすると危険な競技になるということだよな? なおのこと選手なんて、できるわけないだろ」
「なんか変」
「あっ?」
突然のグリュグルーの言葉についつい彼女を睨んでしまう。だというのに全く動じていない。
普通は人殺しの俺に睨まれたら誰もがビクッとするんだけどな。それにしても、何が変なんだろうか? 全くわからん。
「立ち方おかしー」
「立ち方?」
「っ!?」
まさかこいつ気づいているのか!? その可能性が高い。だって、俺が義足だということに気づいたのはこいつだけだった。
「彼の立ち方はいつもバランスがいい。だというのに今はなんか変」
「おい。流谷。どういうことだ」
吹雪さんに気づかれたということはもう、逃げられないな。
「無事な足の関節を痛めて、義足がオーバーヒートした」
『っ!?』
「やっぱりな」
『えっ?』
「スペースキックは禁忌の術だ。その理由としては足の筋肉を凄まじいほど使うので足への負担が大きい。普通の人間ですら、肉離れとかしやすい。だというのに義足である流谷が、無傷なわけがないと思っていた」
「ははは。ご明察。でも、帰らない。このまま行く。どうせ俺は選手じゃないのだしな」
俺の言葉を聞くと全員が黙り込む。暗い雰囲気が漂うが、そんなのどうでもいい。事実を言ったまでだ。
「うっ……ううん?」
「おっ? 目が覚めたか。よかった」
「…………」
抱っこしたままの状態なので目線が合ってしまう。すぐに逸らすだろうと思ったが、ジッと見てくる。よく見ると彼女の顔が青ざめて行く。
彼女は濃い赤色の髪を持っている。その髪は肩にたどり着いたところで切られている。そして、瞳は黒い。きっと鋭いだろう目つきが、今は見張られているせいでよくわからない。
「いやぁぁぁぁぁぁ!! やめて! 殺さないで! 離して!」
叫んだかと思うと彼女は殴ってくる。体のあちらこちらを殴ってくるが、この程度の痛みなら慣れている。今は彼女を離さないことが第一だ。
「死にたくない!」
「グッ!」
暴れている彼女の拳が顔面にクリーンヒットする。これにはさすがに離してしまう。彼女は飢えているサメがいる海へと落ちて行く。
「起動!! えっ? どうして?」
「やっぱりな!」
さすがに一度助けたのに死なれたら目覚めが悪すぎるので、彼女へと向かう。もちろん、スペースキックを使う力は残っていないので「解除」と言い落下するしかない。
風の抵抗が最低限になるように体勢を変えると速度が上がる。だから、先に落ちた彼女よりも早く落ちることができる。だから、なんとか彼女の真下に位置取り「起動!」と言い、SMSを作動させて、彼女を待つ。
シールドがないので、ズッシリとした重みが腕の中にやってきた。しかし、なんとか耐える。
「えっ?」
彼女は未だに現実を理解できていないようだ。その隙にみんなが待っている場所へと向かう。
「グリュグルー」
名を呼ぶと素直にやってきたので「悪い」と言い彼女を渡す。しかし、拒絶しようとしたが「骨が折れた」と事実を言うと素直に受け取ってくれた。
「さて、俺だけが手ぶらで悪いけど、空蘭女学院に向かおうか」
「えっ? どうして?」
グリュグルーの腕の中にいる彼女は驚いた顔でこちらを見てくる。
「当たり前だろ? 俺たちは海雲高校だ。聞いてないか?」
「あっ!? 合宿を一緒にする。……でも、一人多い?」
「あぁ、俺は急遽昨日参加することに決まった。あの反応から察するに知っているだろうが俺は海空流谷だ。五年前に事件を起こした犯罪者だよ」
俺が自己紹介をすると海雲高校の面々があとに続いて自己紹介をした。
「わたしは橋山空香です。高校一年生です。空蘭女学院では最下位という順位を万年キープしています。いつか必ず順位を上げてみせます! それと海空さんと鶏島さんにお願いがあります。わたしは過去に男性に襲われた経験があり男性恐怖症になりました」
「オーケーオーケー。大体言いたいことはわかった。ですよね。部長」
「あぁ、気安く触れないで欲しいということだろ?」
「俺は関わらないで欲しいということだろ? 男でもあるし犯罪者だから」
「あっ、いえ。そういう」
「俺と関わらない方が身のためだ。なぁ、海風?」
「わ、わたしですか!? 確かに普通なら男性恐怖症の場合は男性に関わらないでいるのがいいですけど、流谷先輩ならいいと思いますよ」
「えっ? 俺は?」
部長の言葉を海風は笑って誤魔化す。
「ショック!!」
「予想外の返答ありがとう。彼女が言っているのは一部だけ逆のことなんだ。こいつ天邪鬼だからさ」
「必死になってたらなお怪しいのだけど」
「うるせぇ!」
「ねぇ、流谷」
「なんだよ?」
「いつから海風と呼ぶようになったの? 海風も流谷先輩って」
「「あっ…………」」
墓穴を掘っちまったぁ! ヤベェ! どうすんだよ!? これ!
「その方が呼びやすいと思ったので。それに友好の証ですよね? だから、お互いに名前で呼び合っているのです。別に好きとかそういう感情は一切ないので」
「そそそ、そうなんだ! 選手とコーチだし仲良くしていこうと思ってな!」
「そう。なら、よかった」
「ふぅ」
「燕野さんとグリュグルーさんもそうしないとね」
「急にはやめてくれ。逆に指示が出しにくい。だから、合宿が終わってからだな。悪いけど、橋山。案内してくれ」
橋山は俺たちの輪に入れてなかったので、無言でコクリと頷き、先導してくれた。迷う可能性が低くなったので、少し安心しながら、彼女のあとについて行った。




