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空と海へのハウミーンズ   作者: 紙本臨夢
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第32話:空蘭女学院までの道中で 前編

 いつもの砂浜に行くと制服姿の部長とジャージというラフすぎる格好をしている吹雪さんがいた。


「すみません。お待たせしました」


「大丈夫大丈夫。まだまだ予定の時間より早いしね」


「そうですか。まぁ、そうですよね。時計を見る限りは六時になったばかりですし」


「そういうこと。まぁでも、ジッとしていても時間の無駄だし、向かおうか」


「それもそうですね」


 吹雪さんの言葉に適当に相槌を打ちながら、俺たちはそのまま飛び続ける。すると、部長と吹雪さんはいつの間にかSMSを起動していたようで、すぐに隣に来た。


 砂浜が見えない程度に進むと突然、吹雪さんが止まる。何事かと思い、俺らも止まってそちらを見てみると吹雪さんが水平線を見ている。


「さて、そろそろだね」


「えっ? なに……あぁあ。確かにそろそろですね」


 俺と吹雪さんの会話を理解できるものはここには俺たち以外はいないだろう。みんな不思議そうに首を傾げているだけなので、推測が確信に変わった。


「「ふっ」」


 俺と吹雪さんはついつい同時に軽く笑ってしまう。でも、それほどもったいないことをみんなはしている。……いや、吹雪さんは笑っているよりは微笑んでいると言った方がいい表情をしている。


 まるでちゃんとした母親みたいな優しい表情だな。まるで俺らのことを世話の焼ける子供だと思っているようだな。まぁ、特に俺については本当に否定できないけど。でも、この人は何歳だっけ? 普段は子供っぽいのに今はスゲェ大人っぽく見えるのだけど。……まぁ、いっか。気になるけど必要なわけではないし。


「海の方を見てみろ」


 全員に俺が指示を出すと個性が出る反応を示した。燕野とグリュグルーは水平線を見る。水平線は俺らの場所からは右斜め前になる。海風は真下を見る。部長と海奈は左下を見る。それにはついつい笑ってしまう。恐らく苦笑いの類だと思う。


「燕野とグリュグルー以外は不正解。見るのは水平線だ。おっ? ちょうど来たな。よかったな。今日は快晴で」


『わぁぁ……!!』

「おぉぉ……!!」


 みんなが同じように感動しているかのような声を上げている。でも、グリュグルーだけはみんなとは別の意味で感動しているようだ。吹雪さんは見慣れている光景なので特に何とも思っていないだろう。俺は声は出していないとは言え、戻って来たという気持ちがスゴく込み上げてくる。


 昨日、雨降ったのが正解だな。こんなくっきりとキレイに見れるのは珍しい。大概は(もや)がかかっているが、今日はそれがないな。


 昇り始めた朝陽が放つ光が、海を輝いているように見せている。普通は俺らが今いる高度からだと、靄がかかっている。あまりにもキレイなので写真を撮りたい衝動に駆られるが、生憎エナメルの中にあるので出すのが面倒くさいから諦めることにする。


 にしても、やっぱり荷物を持っているのは俺だけだよな。そりゃあ、みんなは空蘭女学院の方が準備してくれるしな。


 俺も行くことに急遽決まったから絶対準備されているわけがない。それに例え最初から決まっていても、犯罪者である俺に準備してくれるはずがない。しかも、俺が罪を犯したのはSONでだ。


 これでもし準備されていたら、ちゃんと教育しているか不安になる。その心配はないと思うけどな。


 しばらくの間、眺めていたが、時間を忘れそうになるので「さぁ」とみんなに声をかける。


「そろそろ行かないと時間的にマズいと思うし、行くか!」


 俺の言葉を聞いてみんながあっとした表情をしている。すると、我先にみんなが一斉に飛び出す。


 さて、俺もちゃんと飛ばないとな。


「ん?」


 今、人がいた気がするな。


 眼下の海に人がいる気がしたので目を凝らしてみる。だが、すぐに気のせいだとわかった。


「いや、違う!!」


「「っ!?」」


 突然の怒鳴るような声に俺に腕を引かれて、なんとか飛んでいる海風と燕野が息を呑みながら肩をビクつかせたがそんなの今はどうでもいい。


「みんな!! ……二人を頼む!!」


 先に進んでいたみんなを呼び止めて、二人を任せる。


「えっ? ちょっ!?」


 吹雪さんが何か言おうとしていたが、そんなの無視して、体を宙で回転させて、何もない空を蹴る。おかげで速度が上がる。


「っ!? スペースキック!? あのバカッ!!」


 背後をチラリと見ると吹雪さんと部長が海風と燕野をキチンと支えてくれていた。


 よかった。さて、俺はできることをするのみだな!


 周りの空間が尋常じゃない速さで過ぎ去っていく。SONのプレイヤーを守るためのSMSを起動した時に出てくる新物質を応用して、できた酢薄い膜が悲鳴を上げているが、そんなのどうでもいい。直そうと思えばすぐに直せるのだから。


 今は俺の体はどうなってもいい。


「待ってろ! 今、助けるからな!」


 あの時に海に人がいたのは見間違えではなかった。実際に俺の眼前に人がいたのだから。でも、今はもがいている最中に足をつったのか沈む一方だ。


 もう二度とあの時のようなことは繰り返したくない。繰り返したら、今度こそ俺は。


 ……こんな思考はかき消せ! 今、必要なのは目の前の人を救うことだけだ!


 きっと、とても大きな水しぶきを立てただろう。海の中がかき乱されているのがわかる。でも、そのおかげで沈んでいく一方の女の子を見つけた。どうやらSMSを着ている。でも、初心者なのか薄い膜が破壊されている。


 これはマズい。割れた膜の破片が頬を切って、血を流させている。この海にサメさえ生息していなかったら。……クソ! やっぱり、砂浜から離れるもんじゃないな!


 彼女との距離は十一メートルくらいだ。


「これならなんとか……っ!? 来やがった! 仕方ない。一か八かアレを使うしないか」


 とりあえず深呼吸して、股から足先までの足全体以外からは力を抜く。


「モードチェンジ。フィッシュテール」


 呟くように言うと俺の足がなくなり、銀色の魚の尾ヒレみたいなものに変わる。その尾ヒレを必死に動かしなんとか彼女の下に駆けつけてから、すぐに抱きかかえ、また必死に進む。そうしないと俺と彼女の間にいたサメに食われて、体がボロボロになる。さすがにこれ以上ボロボロになるのは避けたいし、女性の肌には歯型なんて付けない方が確実にいい。


 今回のフィッシュテールはメカジキという世界最速の魚だから、なんとかサメからは逃げられるはずだ。でも、それは俺が必死にならないといけない。そうしないと追いつかれて、噛み付かれておしまいだ。さすがにここまで来たのにそれは嫌だから、必死に進む。


 よし! もう少しだ!


 なんとか逃げ切れたと油断した瞬間に別のサメが横からやって来た。


「ははは。こんな時にサメに好かれたくないな!」


 なんとかその横から来たサメを回避する。しかし、それでタイムラグになり背後から追いかけて来ているサメが口を開けて、もう間近に来ていた。また必死に尾ビレを動かして、なんとか水上に出られた。でも、水上だ。襲われる可能性がまだある。


 肩甲骨辺りのみに力を入れて、それ以外は抜く。


「モードチェンジ。バードウイング」


 また呟くように言うと、白鳥の翼が一対、肩甲骨辺りに生える。そして、翼を羽ばたかせて、上空へと上がっていく。これで完全にサメから逃げ切ることができた。上空を見るとどういうわけか、みんなが待っていてくれた。その行為に嬉しく思いながらも、どうしようかと思い苦笑が漏れてしまう。


 そんな時にパリーン! と音を立てて薄い膜が破壊された。でも、動じる必要はどこにもない。ちょうど、みんなのところにたどり着いて壊れたのだから。


「待たせた」


 素直に謝ると吹雪さんにパチン! と音が鳴るほど強く右頬を叩かれた。スゴくヒリヒリするが、頬をさすりながら吹雪さんを見ると完全に怒っているときの表情をしていた。


「叩かれた理由がわかるよな?」


 女らしい口調ではなく、いつもの男らしい口調で聞いてきた。これが完全に怒っている証拠だということを知っている。


「もちろん。わからないほどバカじゃありませんよ」


「なら、どうして行動に移した?」


 これは本音で言うしかないな。


「そうしないと、この子のことを救えなかった。反省はしていない」


「そう。反省はしていないのだな?」


「うん」


「ん?」


「どうしました?」


 怒っていたのに突然、不思議そうな顔をしたので、ついついそう聞いてしまう。


「この子……空蘭女学院の生徒だよ」


「えっ? でも、あそこからここは遠いですよね?」


「そうなのよ。スゴく遠い」


「なら、どうして?」


「わからないよ」


「そうですか。もしかして、この子はイジ……いえ、仲間外れにされていたりします?」


「うん。そうなのよ。でも、よくわかったね」


「なるほど。どうして彼女がここにいるかわかりましたよ」


「ホント? 教えて」


 これは言ってどうかと迷うが、吹雪さんはあくまでコーチだ。空蘭女学院の教師ではない。


「わかりました。ただし、条件があります」


「なにかな?」


「これからする話はあくまで俺の推測なので事実とは異なる可能性があります。ですから、部員たちを責めないでください。それだけで仲が悪くなり、確執が生まれる可能性がありますから」


「わかったよ。まぁ、あたしは空蘭女学院の教師じゃないし、そんなことはしないよ。信じて」


 まさか、空蘭女学院の教師ではないとほぼ同じことを考えているとはな。まぁ、そもそも彼女を疑うことがほぼないからな。


 俺は先生とここにいるみんなに推測での空蘭女学院のSON部の現状を話すことにした。

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