第31話:集合前
早く寝たわけではないのに太陽が昇る前に目を覚ましてしまった。昨晩、帰るとすぐにおじさんとおばさんに合宿に行くことを言ったためか、俺の行動に合わせてくれた。おかげで一切不便なく、朝を迎えることができたのだ。朝食もいらないことを伝えたので、用意はされていない。
そのはずだったが、どういうわけか食事が置かれていた。さらに二人とも寝ているはずなのに一階は電気が点いている。
マジかよ……。スゲェ申し訳ないことしてしまったな。
おばさんが起きているのか足音が聞こえてきたので、そちらを向くが、全く違う人物がそこにいたので、かなり驚いてしまう。
「どうして燕野がここにいる?」
「あっ、おはようございます。早いですね」
「俺の質問に答えろ」
驚かされた仕返しに彼女に近づき怒気を含んだ声で言う。
「寝坊したら大変なので念のためにです。もう帰ろうと思っていたのですが、一緒に行きましょうか。あっ、それと不法侵入したわけではないですよ。あなたが寝ている間に来るとおばさんが入れてくれたのです」
なんてことをするんだよ。あの人は。まぁ、俺は居候をさせてもらっている身だから、文句は言えないのだけどな。まぁ、帰すわけにもいかないし諦めるか。
「さぁ、朝食をどうぞ。食べないと健康に悪いですから」
「燕野はいいのか?」
「はい。わたしは基本朝食を食べないので」
「そうか。食べないと健康に悪いぞ」
箸で掴んだ魚を無理矢理口の中に放り込ませる。
「〜〜〜!!」
できたてだから熱過ぎたのか言葉にならない声を上げて、慌てて近くに置いてあった水を取り、一気飲みする。
「し、死ぬかと思った〜」
「猫舌だったか。悪いことしちまったな」
「いえ! 今回はわたしが悪いので。それに関してですけど、材料が足らなくてあなたの分しか作れなくて」
「なら、半々にするか」
「でも、お箸が……」
「箸はその辺のを適当に使えばいいけど、それが嫌なら俺が食わせてやる」
「でしたら、お願いします」
「わかった。できる限りは猫舌でも食べれるように冷ましてからにする。安心しろ」
「わかりました」
そう返事をすると燕野は目を閉じる。
さすがに目を見ながらだと恥ずかしいのだろうな。まぁ、俺だって今は慣れてるけど、昔は恥ずかしかったしな。やっぱり慣れというものが一番怖いな。
それから食べさせて、食べてを繰り返しているとようやく完全に食べ終わった。
「さてと」
俺は立ち上がる。目的の場所があるからだ。特に何もなかったら食後はほとんどゴロゴロしている。
「燕野。悪いが後片付けと戸締りをよろしく。俺は他に行かないといけないところがあるからな」
「……わかりました」
少し迷っていたようだが、俺がこの家の鍵を投げると諦めたかのように承諾してくれた。
「悪いな。片付けが終わったら、戻ってくれていいから。ちなみに集合はいつもの場所な」
「わかりました。それではいってらっしゃい」
「いってきます」
すでに準備ができているので、俺はそのまま家を出る。もちろん、服装は制服で中にSMSを着ている。一週間分の合宿に参加必要な物はエナメルに全て押し込んである。だから、エナメルを持ちながら俺は家を出た。
「さてと、少し慣らすか。飛翔」
すぐに空へ飛びある場所へと向かう。そこはこの坂島で一番高い崖。そして、一番の自殺スポット。もちろんSMSを使っているため自殺ではない。
少しすると辿り着いたので、俺が崖を垂直に降りて行くと大きな洞穴が眼前に姿を現した。その中に用があるため、中へと入って行くと少し進むと灯りが見えた。その灯りに向かって突き進む。
「起きてるか?」
「うん。起きてる」
「そうか。なら、よか」
「待って」
肩を持たれたので振り返ると艶のあるキレイな銀髪を整え終わったグリュグルーがいる。そして、どういうわけか俺の瞳を空のような青さの瞳でジッと見てくる。
「なんだよ?」
「母さんはどうすればいい」
「あぁあ。そっか。目が見えなかったんだな。なのに一人にするのは危険すぎる。しかも、一週間もの間」
「うん」
「わかった。なら、一つ質問だが既にSMSを着ているか?」
俺の質問にコクリと頷く。でも、相変わらずの無表情。
「なら、俺がユリカーレさんを持つから、彼女の荷物を持ってくれ」
「わかった」
淡々と答えるとすぐにグリュグルーはユリカーレさんの手を持ちながらこちらにやってきた。そんなグリュグルーの手には自分の荷物とユリカーレさんの荷物が入っているだろうカバンを持っている。
「よし。作動してくれ」
コクリと頷くとすぐに「起動」と呟いたのを聞いてから、間髪入れずに「飛翔」とSMSを起動する。二人して、空へと飛んでくる。しかも、タイミングがいいことに海からちょうど朝日が覗いている。純粋にキレイと思う。さすがにキレイに見えないほど心は汚れていない……はずだ。
「どこに向かう」
「ついてきたらわかる」
なら、いいとでも思ったのかグリュグルーは俺の散歩後ろくらいについた。それを確認できたので、速度を上げる。
グリュグルーなら例え速度を上げたとしても追いつくだろうな。
彼女の技術と経験を配慮して考えると案の定、ついてきてくれる。おかげですぐに目的地についた。
目的地は地上なので降下していき、二階くらいの高さになると「アウト」とつぶやき、地面に降り立つ。そして目的地の建物……俺がお世話になっている家へと来た。もしかすると、燕野は既に出て行ったかもしれないので念のためゆっくりと引っ張ってみると、普通に開いた。
まだ出ていないんだな。まぁ、まだ六時前だし普通か。
「あれ? どうしたのですか? 忘れ物ですか?」
扉が開いた音が聞こえたからか、燕野が来た。その瞬間に背後から妙な気を感じる。
「おじさんかおばさん起きてる?」
「今、御子さんが起きて来たところですよ」
「なら、呼んできて」
コクリと元気よく頷いてから、奥へと向かう。
「流谷くん」
「なんだ?」
「燕野さんと同棲している」
「断じて違う。あいつが今日、勝手に入ってきたんだ。寝る前はいなかったのに俺が起きた時には既にここにいた」
「そういうことにしておく」
「事実なんだけどな」
そんな会話を交わしていると足音が聞こえたかので、そちらを見るとおばさんがいた。
「どうしたの?」
「この人は後ろにいるユズメール・グリュグルーの母親のユリカーレ・グリュグルーさん。目が不自由で見えないから、俺たちが合宿から帰ってくるまで預かっていて欲しいです。お願いいします」
「わかった。キチンと預からせていただくね」
その言葉を聞いた瞬間に床にそっと置く。もちろん、下には布団が敷かれているため寝ようと思えば寝れる。
「あっ、こちら母さんの荷物です。アレルギーとか好き嫌いとか持病は全てこのナップサックの中に入っているのでお願いします」
「わかりました。それじゃあ、今度こそいってらっしゃい」
「いってきます」
「待ってください!」
燕野が慌てて俺たちの下へやってきた。
「飛翔」「「起動」」
三人は声を揃えてSMSを作動させる。しかし、燕野は初心者のためフラフラしているから怖い。
「燕野。背中に乗れ。ゆっくり飛ぶ方が面倒臭い」
「わかりました」
素直に指示に従い、負ぶさられてくる。
「さて、次は一番不安な海奈の家だな。速度を出すから舌を噛むなよ」
彼女がコクリと頷いたのが気配でわかる。
さすがにここで喋るなんてバカなことはしなかったか。よかった。
俺を先頭に海奈の家へ一直線で向かう。空にいるため本当に最短距離で行くことができる。
しばらくしてから案外速度を出していることに気づいたので、少し速度を緩めて後ろのグリュグルーを見て、初めて気づいた。
「あれ? グリュグルーは飛ぶ時にポニーテールにしているんだな」
「えっ。今更」
「興味がなかったからな」
素直な感想を答えると負ぶっている燕野に頭をど突かれた。いきなりなので睨むが、別に表情一つ変えない。
「オブラートに包むという考えがないのですか?」
「ない」
「……そんなにも即答だったら、むしろ清々しいですね」
「事実を言ったまでだ。よし、そうこうしているうちに着いたぞ」
海奈の家の門の前へと降りて行く。そして、二階くらいの高さで「アウト」と呟き、SONを解除した。
ちゃんと着地をしてから、燕野のことを放す。すぐに彼女は離れると、どういうわけか左隣にグリュグルーが降り立った。彼女の逆で燕野は右隣に来る。そして、二人して目の前の海奈のどデカイ和風の家に唖然としている。
まぁ、当たり前だよな。普通はこんな反応だ。俺は初めてきた時は、おそらく物心が付く前だからそんな反応をした記憶がないんだけどな。物心付いた時に見て、驚かなかったのは俺が知っている限りだと海風だけだったな。あれ? そういえばあいつはどこに行ったんだろう?
中にいると信じてインターホンを押すとバタバタと音が聞こえてきた。少ししてから『はい』と言う海奈の声が聞こえてきた。しかし、どういうわけか寝起きだ。
「俺だ。今日から合宿だからすぐに準備しろ」
『えっ? あっ! わかったよ! すぐに行くよ』
そう言い終えるとさっきよりもうるさくバタバタと家を駆け回っている足音が聞こえてきた。しかし、その足音は一人分だけしか聞こえない。
まさかあいつ……寝坊か? あいつにしたら珍しいな。まぁ、昨日はあんなことがあったし普通か。
そんなことを考えていると門が開く音が聞こえたので、そちらを向いた瞬間にヤバいことに気づいたので、慌てて海奈の前に立つ。しかも、かなりの至近距離。そのまま俺は彼女の耳に口を待って行く。
「コンタクト忘れてるぞ」
俺の言葉を聞いた瞬間に海奈はクワッ! と目を見開いて慌ててカラコンを入れる。ちゃんといつも通りの色を使っているのでコクリと頷いてやる。
「そういえば、う……鶴如は?」
「今日は見えないけど……」
「マジで寝坊しやがった。なぁ、SONをちゃんと着ているか?」
「あったりまえ」
「なら、鶴如の家まで案内してくれ」
「わかった。着いてきて」
そう言うとすぐに「作動!」と海奈が声を出して、飛び上がったので「飛翔」「作動」とグリュグルーと同時に言う。もちろん燕野は俺に負ぶされている。
「ほーう。海奈って才能あるんだな。スゲェ早え」
「流谷くんよりは遅い」
「そうか? 俺より早いと思うけどな」
「気のせい」「気のせいです」
「うおっ!? 二人して同じこと言うなよ」
「そんな無駄話している最中に海風の家に見えてきたよ」
「マジか。近いな」
「徒歩で五分の距離だからね」
「それにしても海風の家ってちっさいでしょう?」
「お前の家がデカイだけだ」「あなたの家が大きいだけ」「鷺縄さんの家が大き過ぎるだけです」
見事に揃ったな。しかも、意味が一緒なセリフが。
「ねぇ。一つ提案あるのだけどいい?」
「なんだ?」
「海風の部屋に直接乗り込もうよ。流谷だけ」
「なぜに俺だけ!?」
「大丈夫。鍵は開いているし、場所は教えるから」
「そういう問題じゃねぇ!」
「さぁ、いってらっしゃい。ちなみに場所はここから見える赤い屋根の二階の今、あたしたちがいる側だから」
「人の話を聞けぇ!」
「さぁ、燕野さん。ホバリングの練習するから気をつけてね」
「はい!」
「もしもーし」
完全にスルーか。これは行くしかないということだよな。はぁ。どうして朝からこんなに疲れないといけないのだろう?
赤い屋根の一軒家の言われた通りの部屋の窓をノックする。いくら、鍵が閉まってないとはいえ勝手に入るのは気が引ける。
「どうぞ」
中から海風の声が聞こえてきた。だから、返事のために口を開こうとしたが、背後から話したら許さないという雰囲気が漂ってきた。しかも、漂ってきたのが海奈からなので不安でしかないからこそ、無言で窓から入ることにした。
左を右へスライドすると、簡単に開いた。本当に鍵を締めていないようだな。
「残念ながら俺だ」
一応そう言ってから目を向けると固まってしまう。なぜなら、海風は下着姿だったからだ。昨日のクマさんみたいなものが描いてある、可愛らしい下着ではなく、薄い緑色の落ち着いた下着姿だった。フリフリは付いていないし、絵も描かれていない。
てっ! ガン見するな!
あまりのガン見ぶりに自分を引きながら、窓から出ようとするが、どういうわけか腕を掴まれて止められる。
「窓を開けられる方が……恥ずかしい……です。それに……先輩になら見られても……」
ワザとなのか無意識なのかわからないが、海風は上目遣いで見てくる。そして、頬がほんのりと赤くなっていて、甘い吐息が俺に吹きかかる。
「あっ。そういえばどうしてここに?」
「時間を見てみろ」
「まだ四時半じゃないですか」
「その時計。止まってるからな」
「えっ……?」
俺の言葉だけでは信頼できないだろうから、腕時計を見せる。しかも、GPS付きなのでほぼズレがない。
「えっ……? 五時半?」
「正解! ちなみにあとお前だけだから」
「急いで準備します!」
「頼むわ」
伝え終えたので部屋から出る。空で待っていたら遠いので、玄関の前に降り立つ。
数分後。身だしなみがキチンとしている海風が出てきた。
「さて、とりあえずはいつもの練習場所の砂浜に行くか」
全員がコクリと頷き、さらに飛んでいるので俺は初心者で慣れていない、燕野と海風二人の腕を引きながら、飛ぶことになった。




