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空と海へのハウミーンズ   作者: 紙本臨夢
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第26話:練習開始

 今、お世話になっている家に帰ると家の様子を見て、今日が土曜日だということを思い出した。


「おかえりなさい。病院によっていたのね」


「はい。その通りです。それとご報告をします。風波が無事、目を覚ましました」


「「えっ!?」」


 俺の言葉を聞いて当たり前だが二人は目を見開き驚いた。この人らも風波のことをよく知っているので安心していた。でも、安心しすぎて二人の目からは涙が流れてきた。あえて指摘もせずに気付かぬふりをして二階にある自分の部屋へと向かう。


 俺の部屋は二階に上って、少し進んだところにある。そのため疲れて帰ってきた時などは部屋までの廊下がヒドく長く感じる。でも、今は特に疲れているわけでもないので普通に部屋へと入る。


 すぐに服を脱ぎ、SMSも脱ぐと、パンツ一丁の姿になった。まだ土曜日の昼ごろなので出かける可能性が高いので、部屋着兼運動着のジャージではなく、コンビニとかで売っている雑誌の立ち読みで仕入れた今、流行りの服装に着替える。


 勉強机に座りながらもスマホを見る。病院に行くために機内モードにしていたので、解除すると複数の通知が来た。それを作業のように捌くとある人物からのメッセージで作業が止まる。その人物とは燕野だ。ちなみにメッセージはこうだ。


【今から練習を始まるのでよかったら来てください】


 単純なことだし、頻繁に届いているメッセージだが風波が目覚めて、SONを続けてもいいと言われので固まってしまう。


 数分間考えて、練習を見に行くことにした。それに無意識だったが、SMSをカバンに詰めていた。


 練習場所は前にも来たところと言っていたので行くと本当に練習していた。しかも、空での練習。訳して空練をしていた。この時期は低空ならいいのだが、普通に高いところで練習していた。


 すぐに家から持ってきた笛を吹くと全員の視線が俺を捉えた。そして案の定、全員が降りてきた。


「一つ言わせてもらうけど、この時期に普通に高いところでの練習と普通に深いところでの練習は自殺行為に等しいぞ」


「でも、そうしないと強く」

「強くなる云々(うんぬん)の前に生きていなきゃ意味がないだろ」


『…………』


 正しすぎる正論に誰も言い返せなくなる。


「コーチでも監督でもない人に口を出されたくないですよ」


「コーチと監督をすると言ったらどうする?」


「えっ? それってどういう風の吹き回しだ?」


「風波から許可を得た」


 その言葉に反応したのは()()だけだった。


「風波ちゃんが目を覚ましたの?」


 海奈の疑問に素直に答える。口ではなく頷くという行動で。すると、海奈はおじさんとおばさんと同じように涙を流す。だけど、海奈は我慢するということはしない。でも、すごく静かに涙を流している。何もわかっていないだろうが鶴如も海奈につられて泣いていた。


 わかっていない残りのメンバーは首をかしげることしかできない。だけど、そこで燕野は病院に行った時に見て聞いたことを思い出したのだろうか。目を見開いていた。


「植物人間状態だった妹さんが目を覚ましたのですね!」


 彼女はどういうわけかズイっと寄ってきて、俺の目を真っ直ぐ見ながら言った。おかげで部長とグリュグルーも理解したようだ。


「うん。さっきも言ったが俺の被害者である風波にSONをもう一度やっていいかと聞くと承諾してくれた。だから、コーチ兼監督を受けさせてもらう」


「海空。もう、逃げられないからな」


「はい? 突然どうしました?」


 部長がよくわからないことを言っていたのでどういうことかと聞くと彼の右手にボイスレコーダーが握られていた。


 なるほどね。ボイスレコーダーに録音したから、途中でやめることはできないということか。まぁ、正しい反応だよな。でも、俺は犯罪者なんだし脅迫して捨てさせることもできるんだけどな。


「わかってますよ。なら、早速練習を始めますよ」


『はい!』


 全員が俺の指示に元気よく頷いた。


「まずは服をSMSから運動着に着替えて来てくれ」


「えっ? どうしてだ?」


「基礎体力と基礎筋力が足りないから」


「そんなのSONには入らないと思うけど」


「はっ? バカなの? 死ぬの? SONは自分の体を捻ったりしてする競技だぞ。そのために体力の消費も早いし、筋力がなければバランスを崩すぞ」


「まぁ、今回は初日だしまだ楽だ。次回からはスパルタでいくぞ」


「えぇー」


「文句があるのなら降りますよ」


「わかった。わかったから、降りないでくれ。ちゃんと指示にも従う。コーチ兼監督の指示に従わなければ俺たちは誰の指示に従えばいいかわからなくなる」


「一つ言わせてもらいますけど、あなただけですからね部長。俺の指示に従わないのは。ほら、女子たちは普通に着替えに行きましたよ」


 談笑しながら更衣室に向かっている女子の方を指差すと部長は諦めて、自分も更衣室に向かった。ちなみに男子更衣室の向かい側にはこの砂浜を挟んで女子更衣室がある。


「はぁ。まだ指示しただけなのに妙に疲れたな。まぁ、今日は起きてから八時間程度でかなり色々なことがあったからな。仕方ないか」


 陽が頭上にある時には運動していないのに、それを全く考慮せずに言ってしまう。


「あれ? 流谷? こんなところに一人でいるなんて珍しいな。確か今は海雲高校SON部の連中が練習している時間なんだけどな」


「更衣室に着替えに行きましたよ」


「なんだ? もう終わるのか?」


「いえ、SMSから運動着に着替えさせに行かせましたよ」


「ん?」


「どうかしましたか?」


「着替えさせに行かせましたよ? ということは流谷が指示したのか?」


「はい」


「どうしてまた?」


「コーチ兼監督ですから」


「えっ?」


 ()()さんに話していないので当たり前だが、目を見開いている。それも知っている限りの中では一番大きく。


「……SONに戻るの?」


「サポートの人としてですけどね。ですから、これからは俺と吹雪さんは敵同士ですね」


「ウソ……」


「嘘じゃありません。というか嘘つく理由がありません」


「もしかして、何かヤバいものでも体に含んだ?」


「いいえ。ただ、被害者から許可を得られただけです」


「綾海ちゃんに許可を得たの?」


「違います」


「なら、誰から?」


「風波です」


「っ!? 風波ちゃんが目を覚ましたの!? 今、あたしが行っても大丈夫?」


「俺の実の両親たちがいると思いますが、大丈夫ですよ。別に面会謝絶というわけではないですからね」


「ちょっと行ってくる!」


「いってらっしゃい」


 吹雪さんは慌てて学校の校舎がある方へと戻っていった。すると、入れ替わりで部長が帰って来た。


「おかえりなさい。まだ女子たちが戻ってきていないので少し待っていてください」


「なぁ、海空。一つ頼みがある」


「俺にできることでしたら」


「俺に対して敬語を使わないでくれ。俺だけが使われているから仲間はずれにされているという気持ちが収まらないんだよ」


「わかりました。……いや、わかった。それなら部長の方も気楽に流谷と呼んでくれ。どういうわけか部長からはそう呼ばれた方がしっくりくる」


「わかった。なら、流谷の方も俺のことを部長と呼ばないでくれ」


「それは無理。そもそも部長の名前を知らないからな」


 事実を言うと、どういうわけか動きが止まっている。そして、十分という長考(ちょうこう)の果てに手のひらを拳の側面でポンと軽く叩いた。


「そういえば教えてなかったな。俺の名前は鶏島海生(けいじま うみお)だ。以後よろしく頼む」


「よかった。合っていたんだ」


「えっ? どういうことだ? 知らないのじゃなかったのか?」


「実際には前の試合の時に進出者名で見た。でも、記憶違いかもしれないから念のために聞いたのさ」


「そうか。なら、別にいいや」


 海生とそんな会話を交わしていると女子たちが帰ってきた。


「よし! 陸連を始めるぞ」


『はい!』


 全員が元気よく返事をした。そうして陸連……つまり、陸上での練習が始まった。

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