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空と海へのハウミーンズ   作者: 紙本臨夢
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第23話:思いがけない遭遇

 案の定、あの後に保健室に行ったら山本先生に何があったか一瞬で見抜かれた。しかし、そのあとは何も言わずに無言で治療してくれた。


 あれから数日経ち、金曜日になった。そして相変わらず今もなお、部長が毎日うちのクラスに来ては勧誘してくる。ウザいと思い、いつも昼食を食べているところに隠れていても練習用のスュ(シュ)ールマンススーツ身を包んでいた部長に見つかるという日常を送っていた。


 でも、明日は土曜日。休みだ。朝から逃げていたら会うことはないな。まぁ、明日は第一土曜日だから両親がいるかもしれないけど、喧嘩でも吹っかけに行くか。そのついでに定期検診に行こう。よし、明日の朝からの予定決まり。


 終礼中だというのに明日のことを考えていた。


「みなさん。残念なことに明日は学校があります。理由は授業日数が足りてません」


「えっ?」


『ええええええええ!?』


 クラスメイトの全員が文句を言う前に俺はふて寝した。といってもフリだけだが。


 クソッ! 明日も追われる羽目になっちまったな。きっつ。何か逃げるためのいい方法がないかな?


 とりあえず終礼が終わったので、そそくさと教室を出る。でも、帰りはしない。SON部の部活を見に行くつもりもない。犯罪者の俺に話しかけてくる奴もいない。何をするかと言うと図書室で本を読むのだ。勉強のためではない。落ち着くためだ。金曜日の放課後は大体は図書室が開いているためにそこで色々と読んでから帰るのだ。


 俺は図書室の扉を開けた。すると、そこには予想外の人物がいた。


「あれ? 稜菜(りょうな)さんがどうしてここに?」


「久しぶり流谷くん。わたしがここにいる理由は簡単だよ。ここで司書を今年からするようになったから」


稜海(りょうか)のところではないんですね」


「うん。妹がいるところに行くのは少し抵抗があったからね。それに流谷くんのことが気になってね」


 彼女は可愛らしくウインクをする。不覚にもドキリとしてしまった。


 それにしても、イメージ全然違うな。昔は髪と瞳の色がエメラルドグリーンで長さも目の形も妹の百舌稜海(もず りょうか)と全く同じだったから、一卵性の双子じゃないかと思っていた。でも、髪をポニーテールにして軽く化粧をするだけでこんなにも変わるんだな。


「そ、そんなにジロジロ見られるとお姉さん困るなぁ」


「えっ? お姉さんという歳ですか?」


「今なんて?」


「冗談ですよ。そもそも実年齢よりも若いという意味で二十四歳に見えませんから」


「何歳に見える」


「十七ですね」


「まぁ、お世辞でも嬉しいよ」


「お世辞じゃないですよ。まぁ、そもそも坂島民は歳を取れば取るほどみんな若く見えますけどね」


「そうだよね。あれって一体どういうことなんだろうね?」


「一説によると坂島のみに伝わるおとぎ話のおかげだと言っていましたね」


「おとぎ話? 何かあったっけ?」


「『壊れた世界での生き残り』ですよ」


「なんだっけ?」


「ボケているんですか?」


「まだそんな歳じゃないです」


「知ってます。なら、冒頭の部分と世界設定だけ話しましょうか?」


「うん。お願い」


「まずは世界設定から話しますね。この世界とは平行線ある壊れて、水平線と地平線しかない世界です」


「その世界設定は確か聞いたことがあるよ」


「なら、冒頭の部分を読み上げますね」


『こことは違う別の世界で当時は名もない島の島民が二人迷い込んでしまいました。彼と彼女は元の世界に戻りたいと願いました。しかし、その世界は大きすぎる一つの海と空によって生まれる水平線と大きすぎる一つの大陸と空によって生まれる地平線しかない不思議な世界でした。その世界には人は一切いません』


「これでわかりましたか?」


「聞いたことある気がする」


「なら、全文暗唱しましょうか?」


「いらない」


「そうですか」


「それにしてもよく暗唱できるね」


「子供の頃に毎日のように読んでましたからね。まぁ、そのせいで本に出てくる不思議な世界を探したいがためだけに、スカイオーシャンなんてスポーツに手を出してしまったんですけどね」


「そうなの。なんだかんだで初めて聞いた気がするんだけど」


「そうですか? そんなはずはないと思いますけど」


「どうして?」


「確か毎回のように『俺はあの物語に出てくる不思議な世界を探す』と言ってた思うんですが」


 ちょっと自信がなかったので声が最後の方は少し小さくなった。しかし、どうやら稜菜さんは全て聞こえたらしく考え込む。


 数秒後に目を開ける。


「確かに言ってたよ」

「ほら」


「突然だけど、もうスカイオーシャンに戻る気はない?」


「はい。と言っても今の所はですけどね」


 自虐的な笑みと苦笑が混じり、よくわからない表情をしながらも言う。


「そう。ちなみに稜海は『戻ってきて』と言っているけどわたしはやめといた方がいいと思うよ」


「どうしてですか?」


「もう、あんな思いをさせたくないし、罪を背負わせたくないから」


「とか言いながらも稜菜さんは続けているんでしょう?」


「よくおわかりで」


「稜海が続けている時点でそうだろうと思ってましたよ」


「言っちゃ悪いけど、あの事件以来スカイオーシャンをやめたのは流谷くん。君だけだと思うよ」


「やはりそうですか。そうだろうと思ってました」


「軽蔑した?」


「どうして軽蔑するんですか?」


「だって、君に罪を押し付けたというのに今も楽しくスカイオーシャンをやっているからね」


「いえ、問題ないです。元々はみんながスカイオーシャンを楽しくできて、なおかつ命と隣り合わせと知っていただきたくてあの事件を起こしましたから」


「違」

「全く違いませんよ。全ては俺が起こして、俺が罪を負っただけですから。自己処理ですよ」


 笑顔で言う。いや、笑顔のつもりで言う。実際にどんな笑顔なのかもわからない。そもそも笑顔なんて出ていないのかもしれない。だけど、気持ち的には笑顔で言った。


「そんなこと言わないで」


 彼女の声が涙声だったためにちゃんと稜菜さんを見ると外からの夕陽も備わってか、彼女の両目から一筋の光が流れていた。


「…………君にはわたしたちを責める権利がある。…………なのにどうして。……どうして責めないの?」


「権利はあったとしても資格なんてないですから。俺が全て悪い。それが事実です。唯一の事実です」


 できる限り優しく言う。その権利くらいは活用する。


「そんなの……ただの捻じ曲げられた事実よ! 五年前の真実を……っ!?」


 気がつけば俺は彼女を抱きしめていた。それには恋愛感情なんて一切ない。ただ、八歳上の女性が自分よりも年齢が下の少女みたいだったからだ。そして、俺は彼女を抱きしめたまま司書室に向かう。誰かが来たら誤解を招くような状況だと知っているからだ。彼女もそのことがわかっているようで素直に動いてくれる。


 司書室に入った。ここの司書室はどうやら完全防音らしいので、外の声は聞こえても中の声は聞こえないようだ。


「稜菜さん。五年前の真実は口にしてはいけないと教わりましたよね。それは禁句だと」


 俺の言葉に稜菜さんはコクリと頷く。


「俺が全て巻き起こした犯人。それが常識です。ですから、それをねじ曲げようとしないでください」


 最後の方は少し冷たい言い方になったのは自分でもわかる。


「それと最後に一つだけ言わせてもらいます。まぁ、さっきまでの話と全く関係ないですけどね」


 例え完全防音だとしても、見ようと思ったら外からでも中の光景が見えるので、できる限り早く終わるためにまだまだ言いたいことがあるが最後にする。


「大人の女性がそんな簡単に泣いたらダメですよ。泣いていいのは好きな人や親戚。大事にしていたペットが亡くなった時と恋愛が上手くいかない時だけですよ。あなたの泣き方は全く脈がない俺ですらこんなことをしてしまうほど保護欲に駆られるのですから、下手したら襲われますよ。普通に美人ですからね」


 最後の方は笑顔で言う。


「…………もん」


「えっ?」


「わたし…………もん」


「はい?」


「わたしがこんなにも泣くのは流谷くんの前だからだもん」


「いやいや、どうして俺の前でですか?」


「だって古い仲だからね」


「いやいやいや、一番古いのは家族でしょう。なのにどうして家族を押しのけて俺の前だからなんですか?」


「だって家族の場合は最初から守られているか守っているもん」


「はい。それで?」


「でも、君……いや、あなたの場合は最初は守っていたのに気がつけば守られていたから。特に五年前のあの事件とか。本当はわたしたちがあなたを守らないといけなかったのにあなたに守られたんだから。おかげで今も平和にスカイオーシャンができているんだから」


「そう思っていただけているんでしたら素直に嬉しいです。でも、やっぱり五年前の事件は自業自得ですから、守られたなんて思わないでください」


「くっ。わかったよ」


「それじゃあ俺はどこかに座って本を読んでいますね」


「うん」


 ふぅ。ようやく来た理由が実行できる。さてと何を読もっかな?


 新着本の欄を見てみるとラノベが過半数を占めていた。


 まぁ、ラノベは娯楽としてはいいけどリアリティはないんだよな。まぁ、ファンタジーと言えば大体そうか。でも、恋愛ものだとしてもあんな恋愛できるわけない。現実はそこまで甘くないしな。


 色々なことを思いつつもラノベを二、三冊取り読むことにする。なんとなく他の新着本を見ると『スカイオーシャンの今!』という名前の本があった。著者を見てみると亜尾伊勢(あび いせ)と書いてあった。


 へぇーあの人はそんなにもスカイオーシャンをごり押ししたいんだ。まぁ、金儲けにはちょうどいいしな。とりあえずどんな綺麗事が書いてあるか一度読んでみるか。


 手に取ったラノベを戻し、『スカイオーシャンの今!』を持っていき読むことにした。


 数分後。


 ヤバい。頭痛い。なんだよこの本。綺麗事しか書いてないじゃないか。そのせいで頭が痛くなった。なんだよスカイオーシャンは潔白のスポーツって。絶対にスカイオーシャンでの賭け事とかあるから。スポーツに賭け事がなければ大体は成り立たないだろ。


 気がつくと五時になっていた。


「稜菜さん。もう帰りますね」


「うん。わかったよ。さようなら」


「さようなら」


 稜菜さんに挨拶をしてから廊下に出るとちょうどSON部の部長に遭遇した。明らかに最悪だ。


「待ってください! これを受け取ってください!」


「ゲッ!」


 背後から女の人の声がしたかと思うと明らかにラブレターを渡そうとしていたが、部長は慌てて窓を開ける。


「飛べ!」


 部長が言うと窓から飛び降りたが、すぐに飛び上がる。どうやらSMSを使ったようだ。そして、逃げ去った。


 おっ! この方法いいかも。


 部長から逃げる方法が思いついた。

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