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空と海へのハウミーンズ   作者: 紙本臨夢
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第19話:試合の終わり

 俺の部屋でワイワイと騒いでいると気づかぬ間に時間が経っていて、試合の時間の二十分前だ。


「ヤバいぞ!! 二十分前だぞ。間に合うかな?」


「間に合いはするだろ」


「多分だけど、部長の言っている間に合うと俺の言っている間に合うは同じ間に合うでも違うと思いますよ」


「そこまで言うなら答え合わせをしようか。俺の言っていた間に合うは試合に間に合うという意味だ」


「その時点で違いますね。俺の間に合うはアップも含めてです」


 俺達は走りながらそんな会話を交わす。俺達の後ろで息切れをしている連中がいる。


「よ、余裕があるね」


 鷺縄は走りながらもそんなことを言ってくる。


「「日頃から鍛えているからな」」


 俺達のセリフは見事に一言一句、(たが)わずに重なった。


 それから二十分後に間に合った。俺が言う間に合うだ。


『これより二回戦改め準決勝を開始します!!』


 谷村先輩の合図で俺を除く観客全員が「うおおおおおおおお!!」と叫ぶ。


『準決勝は共にタイムアタックです! そして、決勝はバトルロワイアルです!』


 ランダムとか言っておきながら勝手に決まってるのかよ! でも、それが妥当だろうな。


『それでは早速、準決勝一試合目を開始します! 先に鷲木選手VSグリュグルー選手です! 両者位置についてください』


 谷村先輩の指示に従い二人は空まで上がる。


『構え! ゴー!』


 審判の指示で二人はスタートした。全くスタート前に会話を交わさなかったようだ。


「「なっ!?」」


 俺は画面の向こうの鷲木と全く同じ反応をしてしまう。正直言って俺と鷲木以外の人間は何があったか見えていないだろう。それほど早い動きでグリュグルーはソニックブームと言われるものを出しながら空を駆けて、海へとたどり着いたのだ。そんなの相手に鷲木は当たり前のようになす術なく準決勝一試合目が終わった。あまりにあっけなく終わったので、放心状態になっている。


『はっ! これより準決勝二試合目を開始いたします。鶏島選手と百舌選手は位置についてください』


 この放心状態を破るかのように谷村先輩は放送する。


 完全にさっきまで谷村先輩も放心状態だったな。でも、他の人よりも正常状態に戻るの早いし、こういうことに慣れているのかもな。俺は慣れすぎて放心状態にすらなっていなかったし。けど、鷲木は放心状態になっていたな。こういうのに慣れていないのか? SONをやっていたらよくあることなのに。


『よろしくお願いします』


『こちらこそよろしく。海空の知り合いだからと言って手は抜かないからな。むしろ、本気でやる』


『望むところです』


 二人の会話が終わったのを確認した審判は手を上げて『構え!』という。いつものようにすぐにではなく、少しだけ間を空けてから『ゴー!』と言いながら手を振り下ろす。


 部長の動きは早かった。しかし、グリュグルーよりは断然遅い。そのため誰一人驚きもしない。それには百舌も含まれている。しかし、その余裕が仇となり動きを甘く見ていた。


 部長は徐々に速度を上げていっているのだ。そして今、その速度が最高点まで達した。

 さっきのグリュグルー同様動きが見えない。しかも、グリュグルーよりも大きなソニックブームが出ている。そこからわかる通りグリュグルーよりも早いということだ。


 なので、やはりこの試合もあっけなく終わった。今回は幸い放心状態になっているものはいない。


『試合終了! 勝者は鶏島選手。タイムは5.8秒! 歴代二位の記録です! その差はなんと一秒もある!』


 あっぶねぇ! 現役時代の俺の最高記録を抜かされるところだった。


『クッソ! 誰だよ四秒台とかいうバカみたいなタイム出したやつは』


 ごめんなさい。俺です。


 かなり怒っているので、心の中だけで謝っておく。絶対に口に出したら、あの怒り具合から殺される気しかしないので、口が裂けても言えない。


「お二人さん。お疲れ。ほれ、これでも飲んでおけ」


 なぜか、二人同時に降りてきたのでスポーツドリンクを投げるとタイミングよくキャッチして、ゴクゴクと飲みだす。

 一気飲みだったので、すでになくなっている。


 まぁ、当たり前か。あんな速度で飛んだら喉なんてすぐ乾くし、さらに海水を少しでも飲んだら、これまたすぐ乾くしな。


『さぁ、これより決勝戦を開始します。お二人共スタート位置で構えてください』


 谷村先輩がそう言うと二人同時に空へと飛んでいった。


 お互いに空からスタートか。当たり前だな。


『構え!』


 審判が言うと二人は今大会で初めて披露した構えをする。

 部長はしゃがんで右手を下に左手を横にしている。

 グリュグルーはまるで武器でも抜くかのような構え方をしている。


『ファイト!』


 審判の合図を受けた瞬間にグリュグルーが一瞬で部長の横に行き、空気の武器を横に薙ぐ。しかし、まるでそうくることがわかっていたかのような無茶な避け方をする。避けてから無理に体勢を真逆に変えて、空を蹴りグリュグルーに近づく。


 バチン!! そんな音が鳴ったかと思うと二人の間に青白い雷が生まれて、お互いにそれぞれ別の場所に吹き飛ばされる。


 部長は空にグリュグルーは陸に吹き飛ばされる。


『この程度で終わると思うな!』


 部長は叫んでから、追い打ちを仕掛けるためにグリュグルーに近づく。しかし、急に速度が上がりグリュグルーの姿が部長の視界から消えたが、下から見ている俺達にとったら、全くそのように見えない。


『うわああああ!!』


 そんなことを叫びながら部長はまるで子供のようにジタバタする。部長の隙はそれでなくなり、そもそもしていないが、グリュグルーは攻撃をできなくなったと俺も思った。しかし、臨機応変に対応してグリュグルーは下からじゃ全く見えない高さまで上がる。ちなみにその高さは雲の上。


 カメラでは追いかけているが、あんまり追いついていない。そもそも空中に浮いているカメラはそんな高さまで行くことを想定していないので、いつ壊れてもおかしくない。


 グリュグルーは体勢を変えて、一気に部長に上から突っ込んでいく。そんなことを知ってか知らずか部長は静かに目を閉じる。


 部長に突っ込み手を横一線に薙ぐが、その手は空を切る。目を閉じながら避けたのだ。速度が凄まじいグリュグルーを。


 グリュグルーはそのままの勢いのまま海へと盛大な水しぶきを上げて落ちるが、ありえないことに一瞬で空に上がる。次にこれもあり得ないが部長の足をつかむ。


 SMS同士が触れ合ったら、反射で両者共に吹き飛ばされるが、それすら起きていない。ただし、反射で生まれる青白い雷はある。


 まるでバグったかのようにバチバチ鳴っているが、吹き飛ばされない。そして、グリュグルーはそのまま部長の足を引っ張り海の方へと投げる。


 あり得ないことが目の前で起きたので、今度は俺すら放心状態になってしまっている。つまり、部長もなっているということだ。そのため海へと落ちていくが、すぐに放心状態が解けて空に上がってくる。


『中々やるな』


『…………』


 集中していて部長の言葉が聞こえてないのか反応がない。その代わりに先手必勝とでも言わんばかりに攻撃する。しかし、部長はさっきと同じように無茶な避け方でそれを避ける。そして、攻撃に移行するが、さっきとは違いグリュグルーもそれを無茶な避け方で避ける。


 なんだこれは? まるで技をほんの一瞬でコピーしたようじゃないか。


 俺のその考えは(あなが)ち間違いではないことを証明するかのように部長が今の試合で見せた技を次々とグリュグルーが見せる。その光景はまるでグリュグルーが部長のみならず、SON全体を支配しているように見える。


 どれだけ挑んできても同じ技で叩きのめすとでも言いたげた。


 はは。まるで、支配者だな。どうしてそんな支配者が俺にSONを教えてくれと言ってきているんだ? 俺なんかよりも随分と強そうだし。といってもここまできたら俺は教えない。監督にもコーチにもならない。


 そんなことを思っていると試合終了の合図があった。バトルロワイアルは二人とも最後まで健在だったら、得点での勝負になる。今日のバトルロワイアルの試合はこの決勝戦以外は全て片方が途中で離脱していた。形式上は棄権ではなく試合放棄になっている。


 そして、決勝戦でようやく得点での試合になった。ちなみに得点は相手に肉体的ダメージの量による。ちまちました攻撃を何発も当てるよりも大技を一発当てる方が得点は多くなる。そして、今回の試合は五十五点対三十二点で五十五点を取ったグリュグルーの勝ちになった。


『続いて三位決定戦を開始します。鷲木選手。百舌選手。位置についてください。ジャンルはタイムアタックです』


 谷村先輩を指示を受けて、二人は空へと飛んで位置についた。


『構え! ゴー!』


 会話は交わされないまま、タイムアタックが開始された。今回のタイムアタックは純粋なスピード勝負となりそうだ。


 少し進んでから、案の定純粋なスピード勝負になることがわかった。部長とグリュグルーほどではないが、二人とも断然早い。しかも、いい勝負をしている。


 これこそがSONだ。さっきの部長とグリュグルーの試合はSONの領域を超えている。そう思うほど二人の試合は異常だった。その反動ですごい試合なのだがさっきのとは劣って見えるため、かなり安心して見ることができる。


 二人は同時に空を駆け終えて、舞台は海になる。今の海は妙に波が高い。そんな中を進んでいるので、かなり危ない。


 無事に帰ってこいよ。二人とも。


 心の中で言うと二人は出てきた。そして、同着だったように見える。


 少し待つと液晶画面に二人のタイムが映し出された。


「すげぇ、勝負だな」


 二人はほぼ同着だった。その差は0.01秒。それで、鷲木の勝利で終わった。ちなみに鷲木のタイムは6.58秒。これでも十分プロで通用するほどのタイムだ。部長とグリュグルーが異常すぎるだけで、鷲木のタイムでも坂島の試合でなかったら、余裕で一位になれるタイムだ。


 相変わらず坂島はレベルが高いな。どうしてこんなに高いかは知らないけど。

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