第18話:お昼休憩
部長が空から降りてきて、グリュグルーは海から出てきた。
「お疲れ様。二人とも。そして、悪い。試合をちゃんと見てなかった」
「いや、いいんだ。お前の顔から察するに心変わりがあったんだろ? 俺たちの試合なんかよりもそっちの方が大事だしな。なっ? グリュグルー」
「タシカニソウデスネ〜」
「そう言ってくれると助かる」
そんな会話をしていると海雲高校SON部の部員が全員集まってくる。そして皆、俺を見て安心した顔をしている。
まぁ、当たり前か。あんなに辛そうな顔をずっとしていたんだから、そりゃあ安心できるわ。
「みんな。迷惑をかけてすまない。そして、今まで気を使ってくれてありがとう」
そう言い頭を下げると妙に静かになる。その静かさは鶴如の言葉で破られた。
「突然、どうしたんですか? もしかして、頭でも打ちました? いや、もしかしなくても打ちましたよね?」
「ヒドい言われようだな!?」
「だって、先輩がお礼や謝罪なんてするわけないじゃないですか」
「どんだけ失礼な奴だと思われているんだ!?」
「かなり失礼な人間だと思っていますよ」
「ま、マジかよ」
「だって、わたしと海奈先輩との間を邪魔するんですから」
「あっ、それでか。なら、まだ大丈夫だな。一瞬そんなにも社会的にダメな態度を取っていたのかと驚いたぞ」
「犯罪者の時点で社会的にダメですよね」
「ぐっ!? 何も言い返せねぇ」
「それでいつまで頭を下げているつもりなんですか?」
言われて初めて頭を下げながら、話していることに気づいた。
どうりで相手の顔が見えないわけだ。もう、上げよう。
「それで次はいつから試合だ?」
「その前にさっきのパフォーマンスの結果発表だよ」
「あっ、そっか。素で忘れてた」
「抜けてるな」
「初めて言われたぞ。まぁ、それはさておき見に行くか」
「そうだな」
部員が返事を返したので、俺達は結果を見に行く。後ろから部員以外の全員が付いてきている。
「本当に先輩って性格が怖いくらい変わりましたね」
「あれが流谷の本当の性格よ」
「やっぱり、あの理不尽な事件が原因でですか?」
「その言い方だと、あの試合を海風は見に行っていたのね」
「はい。親に誘われて見ました。あの事件は海空先輩がひたすらに可哀想な事件でしたよ」
「そうなの? そんなに?」
「はい。正直あの時、海空先輩があの対応をしていなかったら、あの人を恨んでSONには関わらないようにしていました」
「そう。やっぱり、流谷は何一つ悪くないのね」
背後からそんな会話が聞こえてくる。
本人が目の前にいるのに普通は本人に聞こえるほどの大きさの声で話すか? 絶対に話さないだろう。あいつらはやっぱり、度胸があるな。俺は小心者だし、絶対にこんなことできないな。
そんなことを思っていると結果発表が貼り出されているところに着いた。そして、結果発表を見た瞬間に「はっ?」という声を漏らしてしまう。
見間違いかと思い目をこすり再び見る。しかし、結果は変わらない。
「あんなにもいたのに進出者は四人かよ。しかも、全員知り合いだし」
進出者に名前があったのは、鶏島海生。つまり、部長。ユズメール・グリュグルー。鷲木海斗。百舌綾海。以上の四名だけだ。二十人ほどいた人は皆、落とされた。パフォーマンスにより落とされることを報告されていなかったので、異議の申し立てがあると思ったが、全員が自分の力不足のせいで落ちたと思っているのか、そんな気配は微塵もない。
まぁ、審査されていると察せなかった人達が落ちているんだし、仕方ないか。本人達も納得しているようです。
『それではお昼休憩に入ります。進出者はくれぐれも食べすぎ飲みすぎをしないように気をつけてください』
谷村先輩がそう言うと昼休憩に入った。ちなみに今の時刻は午後十二時ちょうど。そして、試合再開は午後二時から。要するに休憩時間が二時間もある。
まぁ、でも坂島民は時間を守らないだろうな。さすがに選手は守るだろうけど。
「ねぇ、流谷。一緒に食べよう」
「いや、俺は帰って食う遠慮しておく」
「あぁ、そっか。今の流谷の家はここから徒歩で二分程度だもんね」
「なら、みんなで行けばいいじゃないですか?」
「いや、さすがにそれは聞いてみないとわからない。無理言ってあの人達に迷惑かけるのも気が引けるし。ちょっと聞いてみるわ」
そうとだけ言い返事を待たずに俺はお世話になっている家に向かう。
走って向かったので、一分程度で着いた。
「おじさん。おばさん。SON部の連中を連れてくるけどいい?」
入って早々に奥にも聞こえるほどの大きな声で聞く。
「いつなの?」
「今すぐに」
「いいよ。その方があの子も喜ぶし」
「ありがとう! じゃあ、また後で」
「わかったわ。昼食を用意して待っているね」
おばさんのその返事が聞こえたので、俺は走って元の砂浜に向かう。やはり、走ったので一分程度で着く。
「いいってさ」
「なら、行こうか」
部長の合図で俺達は今、俺がお世話になっている家へと向かった。
着いてすぐにリビングに行くと驚くことに五分程度しか経ってないのに豪華で多種多様な料理が並んでいた。
「この量をどうやって?」
「手品よ」
「レンジでチンと出来合いものを寄せ集めた」
「なんかすみません。無理させた感がありますね」
「気にするな。流谷がこの家に来て初めて、自分の意思でしかも、プラスの理由でここに連れてきたんだからパーティーさ。海音も喜ぶ」
おじさんがそう言うと横でおばさんもコクコクと頷いている。
ここにはいなくて墓にいるが、なんとなくここにいるような気がするので手を合わせて真剣に仏壇の前で拝む。本気で俺はここには海音がいる思っている。いや、いてくれている。いないとただでさえ、罪深い俺の罪がさらに深くなる。つまり、海音がここにいてくれるからこそ俺は普通に日常生活を送れている。
気がつくと随分と長い時間をかけて、拝んでいたようだ。違和感があったので、目を開けて前後左右を見ると海雲高校SON部の部員の全員が拝んでいる。それも俺に負けないほど深く。長く。
時間的に俺を追い抜かすというところまでくると、全員は目を開ける。
「海音に会えたか?」
俺の質問に全員が頷く。
「同時にこんな数の人に会い、きっと驚いているだろうな」
「海音ちゃんはそういう人だからね」
鷺縄の目を見ると両目が青色のことに今日初めて気づいた。
やっぱり、大体は青色のカラコンを入れているな。まぁ、そうしないと俺よりもひどい目に遭う確率が断然上がるもんな。それに鷺縄は自分がオッドアイということを隠しているしな。まぁ、なぜか俺と二人っきりの時だけはオッドアイのままだけどな。まぁ、別にその程度のこと俺は気にしないから別にいいんだけどな。
「ねぇ、流谷。このままだと冷めるし早く食べようよ」
おばさんにそう言われてようやく昼飯を用意してくれていたことを思い出した。
「そうですね。そろそろ食べましょう」
俺が言うと全員が動き始める。そして、全員がリビングで座布団を敷きながら同じテーブルを囲んでいる。
この家はなんだかんだ言って大きい方なので八人いても全然狭くない。
あっ、そういえば鷹山はあの後どうなったんだろうな? まぁ、委員長のことだし俺から大分と離れたら解放したんだろうな。あの人がなんとなくだが、そういう人だということは大分と前からわかっていたし。
俺という犯罪者からクラスメイトを守るために俺から離れさせているのがバレバレだからな。でも、それが一番正しい行動なんだもんな。学級委員長としては優秀だしな。そもそも俺という存在が異常なんだし。
「ねぇ、流谷ったら!」
気がつくと鷺縄に体を揺すられていた。
「それ以上揺するな! 酔うから!」
「よかった。生きてたみたい」
「勝手に殺すな」
「だって、仕方ないじゃない。いくら声かけても反応がなかったんだから」
「マジ? どれくらいの間、反応がなかった?」
「五分ほど。ねぇ、みんな」
鷺縄のその声に全員がコクリと頷く。
どうやら考え込んでいたようだな。普段は誰も関わってこないから考え込んでいても問題がないんだけどな。そう考えると誰も関わってこないって楽だな。
「海空先輩……」
「どうした? そんなに心配そうに」
「また、元に戻ってましたよ」
「仕方ないだろ。それが癖なんだから」
「変な癖が付いてますね」
燕野に少し笑われながらそんなことを言われた。
「一応言うけど、今は食事中だからね」
「あっ、そうでした。申し訳ありません」
謝ってから昼食を食べ始める。
その後、昼食を食べている間は考え事をせずに本当に別に重要でもない他愛な会話をした。
「さて、まだまだ時間あるけど、どうする?」
「俺は流谷の部屋に行きたいな」
「はっ?」
「私モソレニ賛成デス」
「おぉ!! グリュグルーが日本語の発音がよくなっている!」
謎に部長がオーバーなくらい喜んでいる。
てかっ、自分の意見に賛同してくれたことに対しての喜びじゃないんだな。そもそも、俺にしたらグリュグルーが日本語の発音がよくても、よく聞いているから驚きすらしないんだけどな。
そんなことを思っていると流れで、俺の部屋に行くことになっていた。
「お前ら! ちょっと待てよ!」
そんな俺の制止の声を聞かずに勝手に部屋を開けられた。
なんで知ってんだよとツッコミを入れようとしたが、燕野を一度部屋に入れたことを思い出した。
「うわぁ。怖いくらい殺風景だな」
「部屋にあるのが、本棚、机、ベットってつまらなすぎでしょ」
「お前らを楽しませるつもりなんて、全くないから当たり前だろ」
そんな会話をしていると俺と鷺縄と部長以外の全員が部屋の隙間という隙間を探し始めた。
「コラ! お前らやめろ!」
注意するために軽くチョップしようと近づくと、鷺縄と部長に前後で捕まれて動けなくなる。
「離せ!!」
「さぁ、早くエロ本を見つけて!」
「はぁ!? そんなのねぇよ!」
「なら、これはなんですか?」
そう言う鶴如の手には確かにエロ本があった。それはちゃんと俺も見覚えがある。
「それはエロ本にカモフラージュしたやつだ。中身を見てみろ」
「っ!? まさかの逆パターン」
鶴如は中身を見て息を飲む。
鶴如が持っている本の中身はスカイオーシャンの現在という本だ。
あまり見つけてほしくなかったんだけどな。




