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空と海へのハウミーンズ   作者: 紙本臨夢
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第16話:様々な会話

 鶴如が鷺縄と話していると海雲高校SON部の部員たちが集まってきた。


「あれ? 部長とグリュグルーの試合は?」


「俺達は二人してシードなんだ」


「へぇー。そんなに強いんですか?」


「まぁ、そこそこは。といっても俺の場合は世界に通用しないけどな」


「まぁ、とりあえず強いんですね」


「そう面と向かって言われると少し恥ずかしいな」


「まぁ、いいじゃないですか」


「ワタシノ場合ハ坂島ノ島民ナラ一部除イテ全員ニ勝テル自信ガアリマス」


「スゴイ自信だな。でも、それで負けたら恥ずかしいけどな」


「グッ!」


 なんか、グリュグルーって無理してキャラを作っている感があるよな。まだ試合まで時間があるようだし、少し事情を聞いてみることにするか。


「グリュグルー。少しついて来い」


 口で言いながらも指で呼ぶとなぜか、他の部員までついて来ようとした。


「いや、お前らはついて来なくていい。むしろついて来るな」


「どうして?」


 みんなを代表して、なぜか燕野が聞いてきた。


「大事な話なんだ。しかも、その話は周りに知人がいたら話しにくい話題なんだ」


「そう……ですか」


「なんか言いたそうだな」


「はい。グリュグルーさんを襲わないでくださいね」


「どういう意味で言ってる?」


「もちろん、野獣と化してエッチな意味で襲わないでくださいという意味です」


「そろそろ、俺をそういう気持ちで見るのやめてくれる?」


「だって、男の人はいくら普段が穏やかでもいきなり凶暴化して襲うということを知っていますから」


 なぜか、そう言うとまるで経験したことがあるような辛い表情をしている。


 まさか、本当に経験したわけではないよな? もし、経験したなら俺は最低なことを言ったな。まぁ、自分で知っているが元々から俺は最低な人間だからな。


「ま、まぁ、とりあえずはグリュグルーと二人っきりにしてやろう」


 部長が慌てた風に言うと全員が渋々といった感じに頷き、この場を去っていった。


「さて、大事な話と言ってもそこまで大事じゃないけどな」


「それでも構わない。話して」


 グリュグルーの言葉に「了解」と答えてから、本当に言うほど大事ではないことを話すことにする。


「無理してないか?」


「えっ?」


「あぁ、悪りぃ。言葉が足りてなかった。あのキャラを無理してやってないか?」


「あぁ、アレのことね。正直に言うと少しだけ無理している」


「やっぱりか」


「やっぱり? どういうこと?」


「なんとなくだが、無理しているように感じたか……ら……」


「どうした最後だけ言葉が詰まった?」


「いや、いつも淡々と話しているのに今はしっかりと感情がこもってたからさ」


 伝えるが、やはり首を傾げられる。


「まぁ、要するに感嘆符と疑問符が付いていたからさ」


「前までついてなかった?」


 コクコクと頷くと微妙だが、驚いた顔をしていた。


 やっぱり、感情を表現するのが苦手そうだな。まぁ、俺があの事件を起こした時の立ち振る舞いを見て憧れを抱いたらしいから、もしかしたら、SONしかやってこなかったのかもな。まぁ、そんなわけないだろうけどな。


 SONはできたまだ、十年程度だし。できた時にはすでにグリュグルーは六歳から七歳なんだし、人形遊びくらいはしているだろうからな。


「話しは終わり?」


「あぁ、時間を取って悪かったな」


「別にいい。その代わりSONに戻ってきてくれるなら」


「はは。多分ないな」


「そう。なら、またいつか聞く」


 そうとだけ言い残してグリュグルーはその場を去っていった。


 やっぱり、少し変わったな。グリュグルーも俺も。


 少し散歩していると面倒くさい人と目があったので、逃げるようにその場所から離れることにするが、歩き出した時にはすでに腕を掴まれていた。


「キャー! 痴漢よ! とでも叫びましょうか? 北野さん」


 振り向いた先にいるのは茶髪で少しパーマがかかっていて、かなりの猫背の緑の瞳の少し目つきが鋭い男性がいた。彼の名前は北野金剛(きたの こんごう)。坂島で唯一のSON専門店の店長だ。今年で確か二十三歳になる。ちなみに幼少中高でずっと吹雪さんと同じクラスの幼馴染。


「北野さんじゃなくて、金剛さんだろ?」


「いえ、北野さんです」


「ここに来ているということはSONに戻る気になったのかい?」


「わかりません」


「わからない? どういうことだい? 自分のことだろ?」


「はい。自分のことですけど、自分で自分のことがわからなくなっているんです」


「相談してみればいいだろ? 僕でよければ話を聞くけど」


「ありがとうございます。ならば、一応は話してみますね」


「そうかい。話しが終わるまで口は挟まないからな」


 北野さんの言葉にお礼も含めて少しだけ頷き、今の俺の内心を話し始める。


「俺は脳ではスカイオーシャンになんて戻りたくないと思っているんです。しかし、なぜかスカイオーシャンをやっているのを見ると心が戻りたいと叫ぶのです。でも、自分は選手になんて二度と戻れないのは自分でわかっているんです。そして、今の自分はどうしたいのかわからないのです。これって一体どういうことでしょう?」


「それは恋だね」


「はっ?」


「ごめん。一度このセリフを言ってみたかっただけだよ」


「こちらは真面目なんですよ」


「わかったよ。なら、こちらも真面目になろうか」


「そうしてくれると助かります」


「今、流谷は選手に戻れないということは理解しているのに戻りたいと思っているんだろう。つまり、監督やコーチやグルームをやりたいということだね」


「いえ、やりたくないです」


「よく考えてみて。流谷も確実に知っている当たり前の常識を今から教えるよ」


「はい? いきなりどういうことですか?」


 俺の疑問に全く答える気配がない。まぁ、いっか。


「人間の全身を司るのは脳。つまり、考えていることと思っていることが違うということは絶対にあり得ないんだ。全て脳が指示を出しているからね。それで、今回の話に戻るけど、きっと流谷は自分が本当にしたいことを絶対に違うと自ら否定しているんだ。それが、今回の事実」


「つまり、北野さんが言いたいのは本当はスカイオーシャンをしたいと俺が思っているということですね。それは北野さん達に都合がよすぎませんか? 北野さん達は俺にスカイオーシャンに戻ってきて欲しいと思っているということは確実に北野さん達が望んでいることが俺の考えとして使われてますよね」


「いや、僕が言ったことはじじ」

「つじゃないです。完全に北野さんによって歪められている」


 俺の言葉を聞いてまるで、子供を見るかのような目を向けてくる。そして、まるで呆れているかのように頭を押さえながら首を横に振る。


「流谷。一体に何に怯えているんだい? 二度とあんな理不尽な事件は起きないさ。だから、三人のことは忘れて戻って来い」


「黙れよ」


「はっ? 今なんて言った?」


「黙れよ!! あいつらのことを忘れろだと? ふざけるなよ!! あいつらのことを忘れるくらいなら俺は死んだほうがマシさ!! あんたの言い方だもあいつらとの思い出も忘れろということだろ! 俺は忘れない。 何十年経っても、何百年経っても!!」


 怒りに任せて北野さんに怒鳴りつけてから、その場を去る。


 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


 流谷は僕の言葉を聞いて怒りながら去っていく。当たり前だ。僕はわざと彼の触れてほしくない過去に触れたのだから。嫌われても仕方のない。


 そんなことを思っているとカツカツという音がアスファルトの方から聞こえてきた。


「悪いな。金剛」


 声に振り返り、そこにいた者の服装を見て苦笑が溢れてくる。


 吹雪はジャージを着ていたのだ。しかも、かなり目立つ赤。


「体育の教師じゃないんだし、そんな格好はしない方がいいと僕は思うな」


「気にするな。運動するんだしこの格好の方がいいだろ」


「運動するなら、ハイヒールは履かない方が絶対にいいよ」


「うっ! そこを突かれるとイタイ」


「ワザと」


「金剛はワザとイタイところを突くの本当に上手いよな」


「だから、僕にさっきの役目を課したのかい?」


 またイタイところを突くと申し訳なさそうな顔で頷かれる。それにまた苦笑で返す。


「仕方ないよ。吹雪の気持ちもわかるし」


「だからと言って流谷と金剛に辛い思いをさせたのに変わりはない」


「そう言えば流谷は吹雪にもSONに戻れと思っているらしいよ。本当は逆なのにね。二度とあんや辛い思いさせたくないからSONとは距離を取って欲しいんだよね?」


「あたしがいくら流谷にSONから距離を取らせようとしても周りがそれを許さないからな。唯一、お前だけが流谷をSONから距離を取るようにするための作戦に手伝ってくれている。いつもありがとう」


「突然、お礼を言わないでよ。恐ろしいから。それに僕だって、吹雪と同じ理由で流谷にはSONに関わって欲しくないだけだし」


「それでも、助かっている。さっきの言葉はその中でも効果的だ」


「あれは言うのは辛かったよ。それに見合う対価をちょうだい」


「わかった。空蘭女学院のSON部の部員達にもSON用具を買うならお前の店がオススメだと言っておく」


「毎度ありー!」


 こういうことがあるからウチの経営はうなぎのぼりなんだよね。やっぱり、恩は買っとくものじゃなくて売っとくものだね。


「ところで金剛。本当に今さらなんだけど一つ聞いていいか?」


「僕は相変わらず独り身だよ。ちなみに妹も今は元気だよ」


「妹さんも元気か。なら、よかった。だけど、今回の質問はそれではない」


「ん? じゃあ何?」


「お前はここで何をしているんだ?」


「SON用具の露店だけど。それが?」


「今回の試合規約を見たか?」


「面倒くさいから見てないよ」


「そうかそうか。見てないのか」


 穏やかな声で言っている吹雪の表情が少し引きつっている。


 多分、慣れないことをやって疲れが出ているんだろうな。大変だな。


「ちなみに今回の試合規約にはこんなことが書いてあった。『今回に限り全ての露店の出店を禁ずる』とな」


「…………えっ? なんだって、聞き間違えかな? もう一度言ってみて」


「今回の試合規約には『露店の出店を禁ずる』と書いてあった」


 ヤバい。冷や汗が垂れてきた。


「今回は露店が禁止なんだよ!!」


「あっ!? お、おま! それはないだろ!」


「問答無用!! 教師として違反をしている輩は見過ごせないんだよ!!」


「だからって、ヒールの(かかと)で思いっきり踏むな!! ギャー!! 誰か助けてー!!」


 その後、僕は吹雪から追いつかれるまでひたすら逃げていた。

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