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空と海へのハウミーンズ   作者: 紙本臨夢
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第15話:第一回戦第四試合鶴如VS河野

『四試合目を開始します。海雲高校鶴如海風(つるも うみか)VS私立深星学園河野美甘(こうの みかも)のタイムアタックです』


 四分の三はタイムアタックとか、確率高いな。まぁ、でも実力がわかりやすく安全な方といったらバトルロワイアルよりもタイムアタックだけどな。


 二人は空へと上がっていく。


「鶴如さん。よろしくお願いしますね」


 河野さんが笑顔でしかも、いちいちお辞儀も混ぜて丁寧に挨拶する。


「よ、よよよろしくお願いしみゃす!」


 河野さんとは違い、全然笑顔でもないし、お辞儀もできない。そのうえ噛んだ。


 あぁ、もうダメだ。緊張しまくっている。例え強くても、あそこまで緊張したらまともに力すら出せないはずだ。大体の人はそうだ。


『構え!』


 しかし、審判の指示を受けるとさっきまで緊張していたとは思えないほど、集中していた。それは隣にいる河野さんが一番感じているだろう。


『ゴー!』


 審判の指示を受けると河野さんは鶴如に集中力を乱されてスタートダッシュが失敗する。しかし、鶴如はスタートダッシュが成功する。

 これだけなのに二人の距離は大分と離れている。


 鶴如の集中力恐るべしだな。でも、まだまだ色々と甘いな。


 そう思うとスタートダッシュに失敗して出遅れた河野さんが、すごい速度で追いつき、そして追い越した。


 まさかのスピード系か。これはオールラウンダー系だろう鶴如にしたら厳しい試合だな。


 俺が思ったのと同時に鶴如は空中で静止した。


『おおっと! 鶴如選手立ち止まったー!! 一体何があったのでしょう?』


 今、かなりの集中モードに入っているだろう鶴如はその実況の言葉すら聞こえていないようだ。鶴如は目を閉じながら、空中で靴を奥まで入れるかのようにコツコツとつま先で空中を軽く蹴る。すぐに目を開けた鶴如はスタートの時と同じ構えをする。そして、かなりの速度で進んだ。


 何だよあれは? どうしてオールラウンダー系のSMSなのにそこまでのスピードが出るんだ?


 疑問に思ったので近くにまだ、恥ずかしさで涙目になりながら身悶(みもだ)えている鷺縄に聞いてみることにする。


「なぁ、鷺縄」


「えぐっ……えぐっ…………うぅぅぅ……」


 申し訳ないが、正直に今の鷺縄を見てガキかと思ってしまった。


「海奈ちゃん」


 思いっきり馴れ馴れしく呼ぶとバッ! という効果音がなっているかと勘違いするほど勢いよく振り向かれる。


「なぁに? りゅう君」


 どうやらもう、諦めたようだ。長い間お疲れ様でした。


「鶴如のSMSってオールラウンダー系だよな?」


「そうだと思うけど、あの速度はおかしいよね」


「やっぱり、お前も思うか?」


「当たり前じゃない。逆に思わない人の方がおかしいよ」


 そんな会話をしているとついに河野さんに追いつき、追い越す。それを見た河野さんはオーバースピードという反則ギリギリの技をしようとし、鶴如に追いついて、少し追い越してから鶴如の肩を思いっきり押す。その反動で青白い雷も生まれる。その青白い雷を利用して、河野さんは速度を上げた。その代わりに鶴如は後ろに飛ばされている。いや、俺達が飛ばされていると勘違いをしてしまった。


 よく見ると鶴如のみが空を五百メートル飛んでいたみたいだ。そのためそのまま海中に落ちて、海中で五百メートルを泳ぐみたいだ。でも、その技はやめた方がいい。空から落ちる速度が尋常じゃないので、いくらSMSと言っても痛みを強烈に感じてしまう。


「やめろ! 鶴如!」


 しかし、全く聞こえていないようだ。


「やめて! 海風!」


 俺よりも小さい声で鷺縄が言うと「わかりました」と返事をしているのが、画面越しからわかる。


「鷺縄。君がグルームやった方がいいと思うから今から、部長のところまで行きグルームのやり方を見てこい」


「いや、と言ったらどうするの?」


「学生と教師も含めてお前の本性をばら撒く」


「やめて! あたしのライフはもうゼロよ!」


「じゃあ、マイナスにしてやる」


「ごめんなさい。許してください。何でも従いますから」


「なら、部長のところに行ってこい」


「はい! 流谷さん!」


「よーし。ばら撒こう」


「ごめんなさい! ごめんなさい! 調子に乗りました! いますぐにでも行ってきます」


 少しからかうと急いで、部長のところに向かっていった。


 もう一度試合を見ると水面ギリギリのところで、鷺縄の指示通りに減速してゆっくりと海に浸かる。その間に河野さんは追い付こうとさらにスピードを上げる。しかし、その前に鶴如が水中に入った。そして、五百メートルを泳ぎ始めた。


 しかし、さっきの速度が何だったのかと疑問に思うくらい、ゆっくりとしている。余裕でその間に追いつかれる。


「わたし、水が苦手なんです〜」


 水中に潜ったが、すぐに水面に出てきてそう言う。


 水が苦手って猫かよ。てかっ、技がうんぬんというよりも泳げないとか論外だな。そもそも試合に出る資格なんてないものじゃないか。


 そうして、水中に入れないので当然のごとく河野さんの勝利で試合が終わった。


 試合を終えた鶴如はなぜか、鷺縄のところではなく俺のところに来た。


「泳げないとか論外だから。ゴールデンウイーク中に温水プールで鍛えないといけないな。それ以外はよかった。強豪校候補の私立深星学園の生徒に勝てそうだったんだから、上出来だ。だからと言って泳げないは論外だ」


「泳げなくて何が悪いんですか!? 人間は陸上で生きる者ですよ! なのにどうして泳げないといけないんですか!?」


「簡単だ。もし、水難事故などにあったら、泳げなかったら助かる見込みは皆無に等しい。つまり、これからの人生を生き抜くために泳げないといけないんだ。そういえば、まず自体が無理なのか? それとも顔がつけるのが無理なのか?」


「自分でもわからないです」


「なら、これならどうだ!」


 バレないように汲んでいた海水をかける。


「ふしゃー!!」


 牙をむき出しにしながら、キレられる。どうやら、水自体が無理なようだ。


「うぅーベトベトするー」


「ははは」


「ドロップキック!」


「うわっち!?」


 突然、横から誰かに蹴られたのでそんな声を出してしまう。


「そんなことここでしてはダメ!」


「何でだよ! 百舌!」


「TPOを(わきま)えようよ!」


「別にいいだろ? 指導なんだし」


「まさかのペット扱い?」


「はっ?」

「へっ?」


 俺と鶴如は二人同時にそんな反応をしてしまう。


「えっ? だって、ベトベトするって子供を作るための男性器から出てくる白い液体が原因でしょ?」


「「断じて違う!」」


「なら、何が原因なの?」


「水が苦手らしいからどの程度苦手か確認するために海水をかけたんだ」


「マジっすか!?」


「そもそも、百舌さんよ。鶴如の顔または体に白い液体がついているように見えるか?」


「見えません。ごめんなさい! 早とちりでした! お詫びをさせていただきます!」


 そう言うと鶴如の額にキスをした。された鶴如は顔を真っ赤にして倒れそうになっている。


「おい、大丈夫か!!」


 話している最中なのになぜか唇にキスをしてこようとしてきたので、片手で止めるために「か」の部分だけ強く言ってしまった。


「お前の謝罪はキス以外にないのかよ」


「いいや、他にたくさんあるよ」


「なら、なぜ、それを実行しようとしない?」


「一般的すぎるから」


「一般的すぎた方が俺は喜ぶぞ」


「なら、そっちにするね」


 そう言うと頭を下げて「ごめんなさい」と謝ってきた。


 やっぱり、俺はこっちの方が好きだわ。


「あっ、そういえばさ鶴如」


「なんでしょうか?」


「お前のSMSってオールラウンダーだよな?」


「はい」


「なら、どうしてあんな速度が出たんだ?」


「天才だから」


「あっ、はい。で、事実は?」


「わからないです。試合の時はかなり集中しているので、周りがどういう状況で自分がどういう状態かわかっていないのです」


「あぁ、なるほどね。そういう系か。案外そういう系多いもんな」


 つまり、無意識にあの速度をオールラウンダー系のSMSで出したのか。やっぱり天才だな。でも、SMSはそんは万能なものじゃないし、何かしら不備なところがある。ちゃんと気をつけさせないとな。まぁ、まずは俺がコーチ兼監督をするかどうかの話だけどな。


「鶴如は負けて辛くないのか?」


「はい? 突然、どうしました? 頭でも打ちましたか?」


「凄い言いようだな! オイ!」


「いや、だっていきなり優しくされたら誰だってそんな反応になるじゃないですか」


「そうなのか?」


 近くにいる鷺縄に聞くが、首を振る。


「流谷が元々は優しいということをあたしは知っているから、そうは思わないよ」


「なら、わたしもそう思いません」


「スゴイな。鷺縄の意見で自分の思いすら帰るのかよ」


「さて、話を戻すけどどうしてあんな速度が出たの? 海風。あたしだけにでいいから教えて」


「わかりました。海奈先輩だけに教えます」


「ははははは」


 ひでぇな。まぁ、でも心を許してないやつに言うよりも心を許しているやつに言う方が気楽だもんな。そう思おう。そう思わないと俺の精神的ダメージがパンチ一回分くらい来るしな。


 少し長い髪を触りながらそう考えると、本当に離れていって、二人でコソコソと話し始めた。いや、正確に言うと鶴如が一方的に話している。


 絶対に余計なことも話しているだろう。地味に長いしな。もし、試合中にあの速度が出たのを説明するだけだったら、すでに終わっているだろうし。まぁ、それで気持ちが少しでも楽になるんだったらいいんだけどな。


 俺がそう思ったのにはちゃんとした理由がある。それは辛くないように装っていても、時々泣きそうな顔をしていたからだ。別に誰かに暴力が振るわれたり、暴言を吐かれたりしていないので、俺の考えだと泣きそうな顔になるのはやはり、試合に負けて辛いからだろう。


 だからと言って今ここで泣けとは言わないし、言えない。そのため鷺縄と話していて少しでも気持ちが楽になればいいと思う。しかし、どうやら持たなかったようだ。


 話しながら鶴如は涙を流す。しかし、その涙に気づいてか気づいてなくてか、鷺縄は反応しない。


 まぁ、それも一種の優しさだし仕方ないか。

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