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空と海へのハウミーンズ   作者: 紙本臨夢
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第14話:第一回戦第三試合鷺縄VS屋島

 燕野は泣いていた。理由は簡単だ。まともに試合ができずに負けたからだ。泣いているのは知っているが、俺には(なぐさ)める権利なんて持ち合わせていないので、見て見ぬフリをする。


 次の試合は都城(とじょう)学院の男子生徒と百舌だ。どうやらジャンルはタイムアタック。


 燕野達の試合みたいにならないことを祈っておこう。俺にはそれくらいしかできない。


 ある意味燕野達の試合と同じになった。しかし、燕野達のラウンド2と同じ試合だ。つまり、百舌の勝利であっけなく終わった。


 あの量産型で何一つ改良していないSMSであそこまでの速度が出るのか。すごいな。俺が知っている時とは格が違いすぎる。


 そう思っていると次の試合のコールをされるところだった。


『続きまして海雲高校鷺縄海奈(さぎなわ かな)VS(たい)空蘭女学院屋島紫穂梨(やじま しほり)のバトルロワイアルを開始致します!』


 ここにきてバトルロワイアルかよ。燕野達みたいなことが起きないといいんだけどな。


 思った瞬間に鷺縄と屋島さんが気がつくと空に上がっていた。


 スタートは空か。まぁ、正直空からの方が圧倒的に有利になれるし当たり前か。


『構え! ファイト!』


 審判がそう合図をすると二人同時に動いた。鷺縄は上昇し、そんな鷺縄を挑発するかのように屋島さんは下降する。その挑発に乗るつもりはないので鷺縄は上空という優位はポジションをキープしながら、見下ろす。屋島さんは背面飛行をしながら、鷺縄を見上げている。


 へぇー、背面飛行ができるのか。珍しいな。


 そう思っている間もどちらも動かない。まさしく均衡(きんこう)状態というやつだ。


『おおっと! 両選手動きがないぞ! 一体どうしたんだ?』


 素直にその谷村先輩の実況はうまいと思った。なぜなら、このままだとヤジを飛ばしそうな輩が現れるかもしれないので、何か動きがあったと脳に勘違いさせるために実況の言葉を入れたのだ。


『屋島さん。スタートよ』


 液晶画面の中から吹雪さんの声が聞こえてきた。その指示からは何かをしようとしているのはわかったが、何をしたいのかわからない。


『わかりました』


 屋島さんはその指示だけで何をすればいいのか理解したようだ。


「てかっ、まさか吹雪さんがグルームだったとはな」


「グルームって何ですか?」


「うおっ!? びっくりしたー。脅かすなよ。というかもう大丈夫か?」


「何のことですか?」


「それはだな……」


 口ごもってしまう。


 果たしてこれは本人に言っていいのか? いや、多分ダメだろう。わざわざ隠れて泣いていたくらいなんだから、誰にもバレたくなかったんだろう。残念なことに俺にはバレてしまったけどな。まぁ、言わないと気づかないだろうな。


「そんなことよりも燕野。グルームの説明をしてやろうか?」


「はい、お願いします」


「グルームとは、試合中にプレイヤー……要するに選手にアドバイスや作戦を教える人のことだ。お前の試合の時もそんな人いただろ?」


「はい。部長がやってくれました」


「だろうな。今の海雲高校SON部にはグルームをできるのは部長くらいしかいないだろうからな。大体は予想していた」


 そんな会話をし終えると屋島さんが動き始めた。それにつられて鷺縄は突っ込んだ。しかし、屋島さんはピクリと動いただけでそれ以外は動いていなかった。


 SMSはすぐに最高速度を出す代わりに、急に止まれないのだ。そのため鷺縄は屋島さんに突っ込んでいくだけになっている。つまり、このままだと衝突する。きっと、それが相手の狙いだろう。


 もう、ダメだ。止まれない。これは負けだな。


 諦めるがまるでバカにするかのように鷺縄は屋島さんに衝突する前に無理矢理体をひねり、屋島さんの横に行き、横っ腹を思いっきり蹴り飛ばしたと思うと屋島さんが尋常じゃない距離を尋常じゃない速度で青白い光を出してから飛んでいった。


 避けれる確証はなかったくせに思いっ切り賭けに出たな。あの時のポジションキープは動かないんじゃなくて、動けなかったんだな。SMSをアタッカー系の最大値まで上げるとか、マジで滅多に見ないぞ。まぁ、でもそのおかげでバトルロワイアルでかなり有利になっているんだからな。


 砂浜に叩きつけられたのに、すぐに起き上がり鷺縄に向かい飛んでいく。それを待っているかのように鷺縄はジッとしている。


 ちなみに今のところ鷺縄の方が勝っている。このままいけば、勝利になる。しかし、そんな簡単にいくわけがなかった。


 屋島さんは鷺縄に突っ込んでいくと、もちろん鷺縄もやれられたくないので、避けたが、そのせいで微かにバランスを崩したのを見た、屋島さんは鷺縄の後ろに回り込み、上に打ち上げてから、地面に叩き落とした。


 SMSは結界的なものを張っているので、着ているものには滅多に衝撃が伝わらない。しかし、それにも限度がある。


 今回の屋島さんの攻撃はその限度を超えた威力があるため、背中から落とされた鷺縄は「カハッ!」と息を一気に吐き出された。そのため一応は傷を負っている。しかし、SMSは破れなかったようだ。だから、鷺縄は試合続行を選んだ。


「無理はするなよ」


 誰にも聞こえないほどの大きさの声でそう呟くと、まるで聞こえたかのように危険な賭けをしなくなった。


「それにしてもヤバいな」


「どうしてですか?」


「背面からの攻撃は中々難しいので、そっちの方が点が高いんだ。さらに屋島さんはハイロウという打ち上げてから叩き落とす技をしたから加点だ。要するに点で鷺縄が負けている。ちなみに点数は画面の端に見えるだろ」


「あっ、本当ですね」


「気づいてなかったのかよ。普通は気づくだろ。てかっ、点がなかったらどこでバトルロワイアルの勝敗を知るんだ?」


「うっ! それもそうですね。話を変えますけど、この種目はバトルロワイアルというよりデュエルの方が正しくないですか?」


「一部ではデュエルと呼ばれているぞ」


「マジっすか?」


「マジっすよ」


 そんな会話をしていると屋島さんが懐から何かを取り出した。屋島さんが懐から取り出したのは何かの機械。俺はそれだけで何を取り出したのか理解した。


『屋島さん。標準よ』


 吹雪さんのその指示に屋島さんはコクリと頷くと、腕に取り出した機械を当てる。


「あれはなんですか?」


「調整器だ。書いて字の通りSMSの調整をする機器だ」


「SMS?」


「あれ? もしかして、今はこの訳し方をしてないのか? まぁ、要するにスュ(シュ)ールマンススーツのことだ」


「知っていますよそれくらい。むしろ、それ以外の訳し方をを知りません」


「なら、どうしてSMSという単語が疑問に思った?」


「簡単ですよ。あなたが使ったところを初めて見ましたから」


「だろうな。日常ではできる限りSONの話に触れないことにしているからな」


「なるほど。つまり、今は非日常ということですね」


「まぁ、そうなるな」


 俺達がそんな会話をしている最中に調整器でSMSの調整をしている屋島さんに攻撃しようと鷺縄は必死だったが、かすりもしていない。全ての攻撃を屋島さんは華麗にまるで踊るように避けていたのだ。


 調整が終わったのか、調整器をSMSの中に入れた。しかも、胸のあたりに。


 へぇー。片胸だけが大きかったのはそういうことか。


「目がいやらしいですけど……」


「そんな目をしていたか?」


「それはもう、驚くほどバッチリに」


「…………」


 マジかよ。感情や表情を隠せなくなっているな。これも全てSONに関わっているせいか。


 気まずくなったので、試合に目を向けるとちょうど屋島さんが動き始めたところだ。


「なっ!?」


 あまりの早さに目を見開いているとすでに屋島さんの姿は消えていた。そして、次に現れたのは鷺縄の背後。鷺縄はまだ気づいていない。そんな鷺縄に対していきなり、猫だましをする。


 突然、誰もいないはずの場所から大きな音が聞こえてきたので、鷺縄は慌て始める。そのせいで動きが無茶苦茶になる。アタッカー系の数値を最大値まで上げているため、慌てている鷺縄はまともに飛べてすらいない。


 そしてそのまま試合終了のブザーが鳴り響く。それでもまだ、鷺縄は慌てている。


『21対4で勝者、空蘭女学院屋島紫穂梨』


 審判が結果を報告するとそれぞれの反応を示す。しかし、鷺縄は慌てているままだ。


「海奈! 降りてこい!」


 俺の声でようやく正気を取り戻した鷺縄は俺の方へと向かってくる。


「こっちくんな! 行くのは俺の方じゃなくて、部長達の方だ」


 伝えるが力を抜けた鷺縄は俺の方へとそのまま向かってくる。


 はぁ。仕方ないか。


 鷺縄の行動に諦めて、受け入れることにする。


「お疲れさん。盛大に負けたな。でも、今回は相手が悪かったし、戦法が悪かった。まずは相手は多分、今大会で上位五名に入る。そして、戦法は最初のポジションキープは良かった。でも、(おび)き寄せられたのが痛いところだな。あそこから相手にペースを持って行かれた。要するに相手の挑発に乗せられすぎだ。相手の思うツボだぞ。それと一番ダメだったのはアタッカー系の数値を最大値まで上げたところだ。あれのせいで随分と飛びにくくなっただろ? 大体SMSの数値をいじるのは上級者になってからだ。まぁ、でもまだ初心者なのによくやったよ。さっきの試合の反省点と他人のプレイスタイルを参考に明日からは練習した方がいいぞ」


 あっ。燕野を慰める権利がないと自分で言っておきながらも、鷺縄にアドバイスをしてしまった。まぁ、いっか。慰めるのではなくむしろ、ダメだしばっかりだったし。これで俺を嫌ってくれたら嬉しいしな。


「やっぱり、りゅう君はSONの話をしている時が一番生き生きしているワン」


「負けたのに余裕だな。辛くないのか?」


「今は大丈夫だワン。さっきまでは辛かったけどりゅう君と話していたら楽になったワン」


「そうか。なら、よかった。でも、鷺縄。周りを見てみろ」


 何が言いたいのかわからなくて首をかしげてから、周りを見回すと、面白いくらいに顔が青ざめていく。

 理由は簡単だ。今の俺達の周りにはSON部部員以外にも複数の海雲高校の生徒がいるからだ。


 ちなみに鷺縄は凛としていて完璧人間だと思われていた。鷺縄自身もそう周りに思わせていた。しかし、ついさっきの俺との会話でその人物像があっけなく木っ端微塵に砕け散ったのだ。


 そのせいで今、鷺縄は燕野とは別の意味で泣き始めた。

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