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空と海へのハウミーンズ   作者: 紙本臨夢
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第1話:朝の出来事

 朝の六時半頃に島の朝焼けに染まる景色を眺めながら歩いているとカモメの鳴き声が聞こえてきた。


 ここは坂島(ばんとう)という大きな一つの島。坂島は一応は関西区域に属されるが、関西区域から遠いので独立している。だからかなぜか、話す言葉は標準語だ。外国人の血がちょくちょく混ざっていて髪の色や目の色は多種多様。


 さらに、ここは日本なのに一時間までだったら約束の時間に遅れても別に許されるという時間にとてもルーズな島でもある。島の人口は約一万人。この島は急な坂や緩やかな坂がかなり多いため住んでいる人はみんな脚力がすごい。そして、どうでもいいが特産品は鶏肉っと。


 地理のノートから目を離して空を見るとため息が出てしまう。


 はぁ、本当にメンドクサイ。どうして、テストなんて人に優劣を付けるようなことをするんだよ。本当に意味わからん。そもそも、テストなんてなくても将来的にイケるしよ。それに高校にもなったら、大半がそういう専門系の進路に行く人しか役に立たないことだしよ。まぁでも、やるしかないんだよな。


 もう一度、嫌々だがノートに目を落とす。


 鶏肉は特産品というだけあり最高品質だが、この島の住人はほとんどが、かなり内気な性格なので、特産品なのにこの島だけで出回っている。


 この島の人の特徴は【来る者拒まずに優しく接する。去る者追わずに優しく接する】だ。要するにかなり優しいらしい。


「よし、地理の小テスト対策はこれくらいでいっか」


 誰にも聞こえないほどの大きさで、呟きながら家に向かう。


 地理のあの先生って怖いんだよ。いきなり明日に小テストをするぞと言っておきながら、実際はやったり、やらなかったり。まあ、今回はやりそうだから、予習しているけど。俺なんてテストで点を取らないと行きたい進路に進めないしな。


 今日の小テストに出そうな問題を何個か頭に浮かべ始めると自宅が見えてきた。すると、近所の人達が「おはよう」と挨拶をしてきたので敬語だが、全く同じ挨拶を返す。


 少し進んだところに家があるので、すぐに玄関の扉を開け「ただいま」と二人が完全に寝ていることを知っているが挨拶をして、玄関で靴を揃えて脱いでから、家の中に入る。


 俺は階段を上り、二階の自室に入ってからすぐに壁に掛けてある、海雲(かいうん)高校の制服を手に取る。


 学ランではなくブレザー。そんな制服を脱衣所まで持っていく。ちなみに今の俺の服装は側面に緑色の縦線が入っているだけの黒いランニングウェア。


 俺は脱衣所に着くとすぐにランニングウェアなどを脱いでから、風呂場に入り、シャワーを浴びる。


 約二分くらいで、勉強をしながらなので、汗が微量に流れる程度だが洗い流す。流してからすぐに風呂場を出て、海雲高校の制服に身を包む。海雲高校の制服は基本は白色だが、空と海を入れたいのか一部だけ灰色の部分と水色の部分がある。最初は抵抗があったが、今となっては全然気にならない。


 制服姿になってからキッチンに向かう。数歩後に着くとそこには既に二人の男女がいた。


「おはようございます。おじさん。おばさん」


 近所の人に挨拶をするようにすると、二人は声を揃えて笑顔で挨拶を返してくれた。


 なぜ、こんなに他人行儀かというとおじさんの名前は烏川利徳(からすかわ としのり)。おばさんの名前は烏川御子(からすかわ なみこ)。そして、俺の名前は海空流谷(うみぞら りゅうや)


 つまり、血の繋がりがない。名前ではなく外見で既に血の繋がりがないことがわかるだろう。


 おじさんの髪は桃色で目は赤色。おばさんの髪は藤色で目は青色。そして、俺の髪と目は共に黒色。さらに顔つきすら似ていない。


 この三人の関係を聞いて、血の繋がりがある家族と答える人がいるなら見てみたい。俺達が一緒に暮らしている理由もきちんとあるが、今はどうでもいいだろう。それよりもいくら時間に余裕があるとはいえ、ゆっくりし過ぎたら学校に遅刻するので、既に用意されている朝食を椅子に座り、食べ始める。


 時間にルーズとはいえ高校卒業後は大半が日本の本島の方に行くため、遅刻なんてしたらすぐに退学にされるかクビにされるため、高校生にもなったら遅刻指導がかなり厳しい。


 ちなみに話が変わるけど、今日の朝食のメニューはスクランブルエッグ単体とベーコンが上に乗っているだけのトースト一枚。


 まさか、これで間違えるということはないよな?


 朝食のメニューを前にして、少し不安になりながらもスクランブルエッグをお箸で掴み、口に入れる。


 即、下水道に流れていった。つまり、吐いた。それはもう作った本人が目の前にいるのに遠慮なく吐いた。吐かずにはいられないほどマズかった。


「おばさん! 絶対これ、牛乳と白いジュースを間違えていますよ! 一体どうやって間違えれるんですか!」


「そうだったかしら? まあ、でも食べれるよね?」


「食べれないから吐いたんですけど」


「で、味は?」


 おばさんが興味深げに聞いてきた。おじさんは新聞を読んでいるフリをしながら耳を傾けているのが丸わかりなくらい、こちらに寄ってきている。逆にスクランブルエッグは自分の身体から離れさせる。


「バターが白いジュースに完全に負けていて、その他の後で加えた調味料などが混ざり合って思い出しただけで吐き気が催されます。これを食べろって言われたらその本人に投げ付けて食べさせて『美味いか?』とニヤニヤ顏で聞きたいくらいマズいです」


 説明は止めなかったがそんな本当に少しの間で二、三度吐いた。胃の中に何も入っていないのに、こんなものは体内に含んではいけないと脳が判断して体内から放出された。そのため口の中がすっぱい。


 俺はすっぱさを消すために用意されていたブラックのコーヒーを口に含む。


 うん。ブラックコーヒーは普通に美味い。さて、次はこいつか……。


 少し不安になりながらも、ベーコンが上に乗ってあるトーストを見つめる。


 まぁ、焼くだけの品を間違えるわけないか。


 楽観的に思うが、脳が忘れるなとでも言いたげにさっきのスクランブルエッグが思い出された。それだけでまた、吐きそうになったので抑えれるかはわからないが、ブラックコーヒーを口に含んだ。


 今のところは本当にコーヒーだけが救いだ。

 俺は意を決してトーストを手で掴み、恐る恐る口に含む。

 しばらくの間モグモグするが別にマズくない。むしろ美味い。


「トーストは普通に美味いですよ」


 出来る限りの優しい声でそう言うとおばさんは安堵したかのようにホッと胸をなでおろしている。

 おじさんはトーストを口に運び、食べ始める。


 俺は毒味係かよ。


 少し呆れ気味に思った後だが、俺はトーストを噛み締めて飲み込んでから、少しだけ冷めた、ブラックのコーヒーを胃に流し込んだ。


「ごちそうさまでした」


 食べ終わったので、一応はお礼をすると、おばさんが「お粗末様でした」と返答したので、立ち上がり食器を流し台に持っていく。

 いつも通りに食器を洗い始めようとすると、おばさんに「別に今日はいいよ」と言われてどういうわけか止められた。


 もしかして、気づかぬ間に時間ギリギリになっていたのか?


 不思議に思い、キッチンに設置されている掛け時計を見ると掛け時計は短針は7よりも少し進んだところを、長針は4のところを指して止まっていた。


 つまり、まだ七時二十分ということになる。俺が教室に入っておかないといけないのは八時三十五分まで。つまり、まだ一時間以上も時間がある。ちなみに家から高校までかかる時間は徒歩でも二十分程度。だというのに食器を洗わなくていいと言う。


「どうしてですか?」


「頼みたいことがあるの」


「頼みたいことですか?」


「今日、あの子の家に寄ってから学校に行って」


 普通なら通じないが、たまにこういうことがあるので、誰のところかはすぐにわかる。


「どうしてですか?」


 聞くと、おばさんは苦笑をしながらも、口を開いてくれる。


「今日はあの子を起こして連れて行けってあの子の親戚の方に言われたからね。確か、部活の朝練があるって」


「あいつ、何か部活入ってましたっけ?」


 そんな当たり前の質問なのにおばさんの表情が辛そうだ。ある予想が頭に浮かんだが違うと思い直して、首を左右に振る。


「……スカイオーシャン部だって」


「っ!?」


 予想していた通りの単語がおばさんの口から出てきてしまったので、すぐに息を飲む。


 スカイオーシャン。今となっては俺が一番嫌いなスポーツ。


 上空や海中でスュ(シュ)ールマンススーツ──通称SMSという特別な体に密着型の薄いスーツを着てするスポーツだ。SMSは薄いが、頑丈な膜が着るとすぐに生まれる。その生まれた膜に体が包まれて、外部からの衝撃を一切受け付けなくなる。しかし、膜が触れ合うと間に青白い雷が出現して、吹き飛ばされる危険なスポーツだ。


 そもそも危険ではないスポーツとか皆無なんだけどな。死にはしないとしても怪我をする可能性がある。おっと。話が脱線しまっていた。なら。元に戻すな。


 誰に言っているのかわからないが、心の中で言い、SONの話に戻す。


 着用時は当たり前だが素手だ。SMSは名前の通り、安全な薄いスーツだ。いや、正確に説明するとそう言われている。素手だが、人を殺めることができるほどの速度も出るので、俺が知っている限りは一番危険なスポーツだ。そんなスポーツを知り合いがしているので、おばさんも俺も顔しかめるが別におかしくない。


「それでは、いってきますね」


 足取りを重くしながらも、言うと俺はすぐにキッチンに置いてあった、今日の授業の準備が全部入っている学生鞄を手に持ち、玄関で靴を履き外に出る。


 出た瞬間にいつもの学校に行く時に使っている道とは真逆の知り合いの家へと繋がっている道を徒歩で徒歩で進む。


 知り合いの家にたったの五分で着いた。いつもなら徒歩なら十分くらいかかる。しかし、いつもよりも早かったので、自分で自分が焦っていることに気づく。


 仕方ないよな。危険なスポーツを知り合いがやり始めたんだから、心配になるわ。


 自分の心に言い聞かせて、焦る心を落ち着かせる。


「すー……はー……すー……はー……」


 自分に言い聞かせただけでは心が落ち着かなかったので深呼吸をする。


 そして、改めて知り合いの家を見る。


 知り合いの家は古い造りの日本家屋。つまり、完全なる『和』ということだ。


 出入り口には少し大きめの門があり、その門をくぐると広い庭があり、そのまま真っ直ぐに進んでいくと和風の家があるという造りだ。


 まあ、仕方ないか。この家は坂島の支配者みたいなものだからな。だから、坂を登り一番高いところに家が建っているんだしな。


 少し大きめの門には普通の一般家庭でも、たまにだが見る木で作られた表札のサイズに名字が書かれている。表札に書かれている名字は鷺縄(さぎなわ)


 俺の赤ちゃん以来からの幼馴染だ。いや、正確に言うと元幼馴染、みたいなものだ。今は……いや、小学六年生くらいからは完全に関わっていない。もっと正確に言うと俺だけから一方的に関係を絶っている。例え、話しかけられても無視が当たり前。


 そんな俺が起こしていいのか?


「そんな俺が起こしていいのか?」


 心の中だけで言うつもりだったが、つい口にも出てしまったので、慌てて周りを確認するが誰もいなかった。


 ふぅ。誰かいたら恥ずかしさで身悶(みもだ)えるところだった。さて、家に入って起こしに行くか。


 意を決して、鷺縄の家の敷地内に入ろうとすると足音が聞こえてきた。

 足音が聞こえてきた方向に振り向くとそこには華奢な体で、髪が赤色で、目が桃色の小柄な少女が近づいてきていた。


 少女は歩いている途中で見つけた俺の目の前で立ち止まる。少女の服装は俺と同じような海雲高校のブレザーを着ていて、その下から白と赤の横縞模様のリボンが付けられているのがわかる。そして、制服のミニスカートは水色と白のチェック。つまり、一年生か。


「どうしてあなたがここにいるんですか!? 仕返しですか!? それとも寝込みを襲おうとしているんですか!?」


 朝から騒がしい奴に会ってしまったな。あれ? そういえばこいつは……。


「誰だっけ?」


鶴如海風(つるも うみか)です!!」


「聞いたことない名前ですね」


「でしょうね! あなたには初めて言いましたから!」


「あ、そう。なら、任せた」


 名前を教えてもらってなかったら、そりゃあ誰かわからないのは当たり前だな。てか、よく考えたら話したのは初めてだな。見たことは何度もあるけど。


 少しだけ珍しいなと思いながら、頼まれていたことを後輩に押し付けてその場を離れる。


「一つだけ聞かせてください! あなたと海奈(かな)先輩はどういう関係ですか!?」


 この場から立ち去ろうとすると、背後から騒がしい声で叫ばれた。

 海奈とは鷺縄の名前で、元幼馴染のことだ。いつもならそんなことを聞かれても無視をするが、今は時間が余っているので、答えてやることにする。


「鷺縄はただのクラスメイトというだけだ。それ以上でもそれ以下でもない」


 今の俺と鷺縄の関係は実際にそれだけの話。


 一応の事実を言ってから、俺は来た道を引き返して、学校に向かった。自宅から少しだけ、学校側に進むと遠くだが、砂浜が見えてきた。すると、浜辺に少し大きめなカニが打ち上げられていた。


 もう、死んでるな。


 死という言葉に連想されてか、家で仏壇に拝んでくることを忘れていたことに気づいた。


 申し訳ないけど、家に帰ってから拝めばいいか。


 効果が無いだろうと思いながらも、浜辺を眺め続けて学校の方にへと向かおうとすると、浜辺に何かが流れてきた。


 本当にこの島は漂着物が多いよな。


 少し呆れながらも、流れてきたものを見ているとそれは人だということがわかった。


「えっ? 死体?」


 大きめの声で漏らしてしまったが、聞こえていないと思い込み、その流れてきた人に近づくと死体だと思っていたものが急に立ち上がったので、ようやく流れてきた者が普通に生きている少女だということを理解した。


「ふぅ。やっぱり、水中に長時間潜ることはできませんね」


 常識を言っている少女は髪が空のような、水色で目が空を反射したような水色だったので、珍しい組み合わせだなと思う。


 どうしてか、寝巻きで着衣泳をしていたらしく、非常に目のやり場に困る。彼女の寝巻きは水でボトボトになっており、彼女のボディーラインに沿ってへばりついている。しかも、彼女は微かにだが、段差があるのに寝巻きの下には下着を着ない人らしい。さらに、寝巻きは生地が薄いようで透けている。


 数分間どうするか迷ったが、通報されてもいいから話しかけることにする。


「なあ、どうしてそんな格好で着衣泳しているんだ?」


 冷静を装ってそんな風に話しかけているつもりだが、多分俺の顔は真っ赤だろう。


「家どこだ?」


「すぐそこです」


 少女が指差したのは浜辺から道路を挟んだ、向こう側にある一つの家だ。俺は彼女の腕を無理矢理引き、その少女が指差した家に向かう。


 数十秒で辿り着いたので、家のインターホンを押すとすぐに「はーい」という間延びした返事が聞こえてきたかと思うと、女性が出てきたが、その出てきた女性を見て俺は驚く。


 なぜなら、おじさんやおばさん達もそうだが、この人も同級生に見えるほど若い。つまり、彼女も高校生くらいにしか見えない。


「あの? どちら様でしょうか?」


「あっ、通りすがりの者ですが、この子が寝巻きで着衣泳をしていたので連れてきました」


「それはすみません。これからもこういうことがあるかもしれませんが、娘をよろしくお願いしますね」


「わかりました。気がつき次第、連れてきます」


「ありがとうございます」


 他愛もない会話を交わしてから少女を母親に預けて、その場を去る。


 やっぱり、母親だったんだな。それにしてもこの島の人達は相変わらず実年齢からすれば肉体年齢が若いな。


 少し感心しながら、学校へと向かった。

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