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コンビニ書紀  作者: 田中芭蕉
2/2

煙草

小学生は大人の真似をしたがる.小学生に限らず,子どもとはそういった生き物なのであろう.坂本少年はそこまでは理解できていた.しかし,今回の出来事で痛感させられた.

――お客様とは想像以上に我がままである

と,そのことである

「ココシガのソフトを1カート」

 小学生の男の子がレジの前でそういった.度々店に顔を出しては,1個108円のトレーディングカードゲームのパックを購入し,店をあとにするのが常であった.

 坂本少年自身は未だにかれを相手にレジを打ったことがなかった.

 それどころか.坂本少年がレジを打つのはこれで5日目である.大よそレジの使い方は理解したが,経験が浅いことはどうにもならない.特に煙草の名前に疎いことは新人の特徴として知られているが,坂本少年もその例外ではなかった.それにしても,呑み込みの遅い坂本少年にしてはよくレジの操作を覚えられたものだ,と褒めるべきであろう.

「申し訳ございませんお客様.もう一度おっしゃっていただいてもよろしいですか?」

 坂本少年は懇切丁寧な態度を心がけて聞き直しをした.ココシガなどという名前の煙草は聞いたことがなかったためである.小学生は

「ココシガ」

 と,やはりわけのわからない名称をいった.

 コンビニの店員は煙草で苦労させられる.煙草は各種番号をふって棚に陳列しているため,購入のさいにはその番号を告げれば円滑に事が進む.ところが,棚の位置や店の込み具合から,はたまた拘りからか,番号ではなく,商品の名称をそのまま言ってくる客がいる.

 トレーニング中の新人店員である坂本少年ではすばやく指定された煙草をとりだすことも叶わない.

 また,極度の動揺から小学生が煙草を買おうとする異常さに気が付いたのは,二度目に名称を言われてから五秒後であった.

「お客様.当店未成年のかたへのお煙草の販売をいたしておりません」

 小学生はいぶかしげな顔で坂本少年を見つめていたが,やがて店長はいるか,と聞いてきた.

(これは大器だな)

 と,坂本少年はおもった.客といえども,この尊大な態度は一般人にはできない.

 店長が事務所から出てきた.

「あら結城.どうしたの?」

「この店員がつかえなくてよぉ」

 小学生の名は結城と言うらしい.坂本少年はいい気はしなかった.

「こら.生意気言わないの!アンタなんて注文したの?」

 結城はれいの呪文を唱えた.

 途端,結城の頬に,店長の平手がとんだ.

「ココアシガレットなら駄菓子コーナーにおいてあるって何度言ったらわかるの!」

 結城は閉口した.

 店長の説教はさらにつづいた.ココアシガレットはボックスタイプしかないことや,カート単位では売っていないことを説いてみせた.

 坂本少年はこのとき初めて知った.それがたとえ小学生であっても,客は本来わがままであるということを.

 後日わかったことだが,やはり,結城という少年は店長の息子だったらしい.次男だという.

 長男は前述のとおり,坂本少年と同年齢である.



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