神官長
目覚めは最悪だった。
多忙な上に色々考えることがあって、夢の中で代々の神官長の記憶をさまよっていた。
俺は第256代の神官長。
代々の神官長の任期は5~32年。ほぼ神官長になってから亡くなるまでの期間だ。
それだけ長い間、この国は安定していたと言うことだ。
256代までの間に途中で辞めたのは二人だけ。
第41代と第165代。
第41代は優秀な弟が大きな怪我をして生死が危ぶまれたために実家を継ぐ為に引退した。無事弟の怪我が治り、跡継ぎの問題が再燃した頃にちょうど第42代が老衰で亡くなったために再度43代神官長として戻った強者だ。再任された時には生家と完全に決別して何があっても戻らない旨の誓約をしている。初回は5年、二回目は最期まで神官長を勤めた。
職を辞するとその間の記憶を失うと言うのを初めて体感した神官長でもある。
第165代は…祈りを捧げに来た乙女に一目惚れして、相手の意向を確認する前に辞した。神官は結婚できない。守るべきは女神様のみ。清廉潔白であるために弱点となりうる家族は持たないのが通例である。そういう意味ではまだ41代の頃は生家とのつながりがあったんだな。
しかし、第165代!
もし相手に受け入れられなかったら、年齢だけいってて使えない奴だったのに、思い切ったなぁ…。
一番うなされたのは『隻腕の神官長』の記憶かな。痛みの記憶とかマジ要らねー。
しかも腕切断されて、もの凄く痛いのに、腕輪を取り戻すことしか考えてないとか。スゴ過ぎます。
スゴいって言えば『豪腕の神官長』。この人神官長なのに闘っちゃうんだよ。魔物と!女神様から頂いた神剣使ってバッタバッタと切り倒す。勇者なの?勇者なんだよね!神官長なのに!
ああ、神官長の記憶をさまよってたせいで、過去と現在がごちゃごちゃになってる。どれが自分の記憶でどれが過去の神官長の記憶なんだか起床時間までに整理しなきゃ。
新しすぎるのか今日は爺さんの記憶は拾えなかったな。ま、いたずらして叱られた時を爺さんの方から見るのはちょっとキツいかもしれない。
とにかく250人以上いると濃いのもいるわけで、ってか清廉潔白ってだけで変人の集まりかもしれない。俺を除いて。
そうだよな。堅苦しい神殿で結婚もできずにただただいつ目覚めるかわからない女神様に仕える生活。起きたら起きたで、女神様だし…。
はぁ、マジそろそろ動いてくんないかな。