女神が目覚めた
『女神様がお目覚めになりました!』
女神の間付きの神官が慌ただしく入って来たのは、夕方の祈りのための更衣中だった。
いつも通りの無表情ですぐに向かうことを伝え、神官長の最正装に変更する。
ってか、マジでぇっ!
ここ50年ほど目覚めなかったのに、なんで俺が神官長の今っ!
いや、確かに国の危機だから今しかねぇけどっ!
慌てふためく心中とは裏腹に、あくまで落ち着いた動作で女神様の元に向かう。
女神様と会話して良いのは、神官長のみ。国王ですら、直接のやりとりはできない。
だから、俺が行かなきゃ女神様の要望はわからない。もし、機嫌を損ねたら………俺の人生はお終いだぁ。
女神の間に向かう途中で、部屋の家具の手配をする。女神様が目覚めたら家具は一式、最新のそして最高のものに交換するのが慣わしだ。
国守りの女神、豊穣の女神、至福の女神、慈愛の女神…一般的にはそのように呼ばれ、広く国民に敬愛されている。
だがしかしっ
神官長にのみ女神様の実態が伝えられている。女神様に接した代々の神官長の記憶として。
気まぐれ、面倒くさがり、わがまま……だが、愛すべき存在として。そして、この国と王家を守り、繁栄を約束する存在として。