三日目
三日目の昼、天頂にかかる太陽が砂粒まで熱して肌を焦がすようだった。そろそろ昼食、砂漠で食事をするときは水分が大事だ。消化をするときに体内の水を使うので、もしも水が手に入らないなら食事を控えて干からびないようにする。
砂漠の旅で蜃気楼に見るのは当然だけど、蜃気楼だと思ったものが本物だと驚いてしまう。
ドーム型の建物が砂漠にポツンと建っていた。
近づいてみると本物で、砂虫と一緒に建物の中に入り日陰で身体を冷やした。
「こら!」
「わっ! 誰?」
「ここの管理者だ」
一・二階吹抜けのホールには階段があった。二階からピョンピョンと跳んでくると、ジョゼの目の前で止まって、ワンと吼えた。
「ぎゃあ! 砂虫じゃねぇか! でけー」
砂虫はジョゼの数倍大きく、犬の十倍大きかった。
ワンワン、と二度吼えた。
「ここは神聖な図書館である。すぐに立ち去るがいい!」
「なによ。少し涼んでもいいじゃん」
「この場所は王国のものである」
「王国なんて昔々の御伽噺の中の話じゃない」
「ここは数十年前まで王国であった。私はその生き残りである。証拠もある」犬は本棚へ駆けていって本を取り出して、ジョゼの前に本を広げた。「この絵は国王と犬が遊んでいる場面だ。どうだ! この犬はわたしのひいぃぃぃぃぃ爺さんだ。よって、ここは私の王国である」
「おかしいよ。王様はこの人なのに、なんで飼い犬の、しかもひい孫が王国ってすごむのよ」
「ひいではない、ひいぃぃぃぃぃぃだ!」
砂虫が『ぃ』が一個多いと、ぼえーと言ってツッコンダ。
「ちゃんと本を見るがいい。発行年月日も数十年前だ。外国語で出版もされている。よって、この場所はこの国にいた者の物だ。出て行けー!」
ジョゼはプンプンしながら図書館から出てきて、飾り柱の影で食事の準備をした。
鍋に水を入れ、人参を輪切り、玉ねぎを半分、香辛料のカルダモンと、パセリ・タイム・ローリエ・エストラゴンを束ねたブーケガルニを入れた。塩胡椒を加えて、火でしばらく沸騰をさせた。火を消して、薔薇の花と檸檬の皮を加えた。
「あとは二時間待つ……」
ジョゼは時間をもてあますのが嫌だったのでこっそり図書館へ入った。
「けしからん!」
「うわっ。すぐ見つかった」
「なんのようだ」
「本を貸して。暇つぶしするから」
「駄目だ。図書館は国民のためにある。よって、見る資格なし」
「へー、だったら誰も読むことが出来ないじゃない。可哀想な本。読まれるために生まれたのに、ただ風化して、虫に食われるままにされるなんて。本に対する冒涜よ」
「なにをー」
「さっきは本の発行年度とか翻訳されたどうこう言っていたけど、何よそれ。ただ自分の正しさを証明するために本を利用しているだけじゃないの。愛がないのよ。愛が! 本は読むためにあるのよ。なんで読んだら駄目なのよ。みなさーん、現代の焚書坑儒がこの王国ではまかり通っています。子どもですら分かる酷いことをしていまーす。この王国は子ども以下でーす」
「こ、この」
「このじゃない、私はジョゼだ」
とりあえず、言い争いに勝ったジョゼだった。
絵本を読んで二時間が経ったので、スープからカルダモン、ブーケガルニ、玉ねぎを取り出して、檸檬の汁を絞って味を調えた。 砂虫のご飯を用意して食べさせた。麺麭を生人参のブルーテスープにつけながら食べた。なかなか美味しくできたようだ。
はっ……。
後ろに気配がする。
犬が座っていた。
ジョゼはスープをご馳走すると、犬はがつがつ食べた。
「この場所も随分と小さくなってしまったんだ」
「この図書館だけじゃなかったんだ」
「うん。滅びた都市はね……そのまま使われることが多いが、この都市のように放棄される場所もある」
「もったいないね」
「理由は色々あるんだろうけど、ここの場合は砂漠の真ん中にあったのが理由だろうね」犬は口を大きくあけて空気を入れた。「この建物以外は全て建材に使われたんだ」
ジョゼが辺りを見渡してみると、建物は殆どないが舗装はされてあった。
「あの水道橋の材料の一部として使われてね。今では見る影も無い」
「水は必要だよ。誰にとってもね。ここで風化するに任せるより水道橋になるほうが役に立っていると思うよ」
「これ持っていっていいの?」
「返してくれよ。好きな小説なんだ」
「なるほどね。ありがとう。旅の途中で読むわ」
ジョゼは犬に手にして図書館を後にした。