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山田すくらんぶる!


「ひぃぃびぃぃきせぇ~んぱぁっはぁ~いっ!!」

「ぐあっ」


―――昼休み。

修一と駄弁りながら購買で調達したパンを頬張っていると例の如く“ヤツ”が奇声を上げて現れた。

背後からタックルを受けて口から卵焼きが出かける。


「もぉ~。タックルじゃなくて愛の抱・擁♪ですっ。ってゆーか奇声ってなんですか。奇声って。失礼しちゃいますね」

「……人の心中を勝手に悟った気になってんじゃねえ」


ダメージを受けた首をさすりながら悪態交じりに言ってやる。


「ふっふ~ん、わざわざ声に出さなくったって私には響先輩の事ならなんだってお見通しですよ。何といっても私と響先輩を繋ぐ三つの穴から響先輩情報を日夜収集してますから」

「一度たりともつながったことも無ければつながる予定も無いから。てか気持ち悪いからやめろ」


エイリアンみたいなヤツだ。


「なんなら昨日の響先輩の自己発電の回数だって」

「よしわかった今すぐ死なせてやる」

「響先輩に殺されるならいっそ本望ですが!」

「引くわー……超引くわー」


相変わらず女を捨てた発言だった。女が公衆の面前で自己発電とか、もはや羞恥心はゼロである。


「ははは……相変わらず賑やかだね」

「あれ? 宮瀬先輩いつからいました?」

「いや、あの、最初からいたけど」

「すいません。影が極薄で気付きませんでした」

「………………」


修一は、めちゃくちゃ凹んでいた。


「これくらいで泣かないでください。年上のくせに情けない人ですね……男泣きとかキモ」

「いやいや、泣いてないから。泣いてないからね?」

「真実とは時に残酷なものですよ」

「いや、あのだから――」

「存在感皆無の宮瀬先輩はいないものとして話を進めます」

「えぇ……」

「おまえ酷いな………」


さすがにこれは可哀想じゃなかろうか。

修一は抵抗を諦めて薄い存在感を更に薄めてパンを食べていた。きっとあのパンはしょっぱい。


「んで? 何か用か?」


十中八九、用なんざあるわけないのだが一応確認する。放っておくとドンドコ変態ね暴走トークが始まってしまうからだ。


「ふふふ。私と響先輩の仲じゃないですか。用なんかなくっても会いに来ますよぅ」

「マジで来んな、超来んな。ぶっちゃけドレッドノート級に迷惑だ」

「やだぁ。響先輩ったらツンデレさん♪」

「――マジで誰かコイツという魔の手から俺を救ってくれないものか、マジで……」


個人的にこいつの存在は迷惑防止条例違反で取り締まって良いと思うんだが皆の意見を聞いてみたい。

それが無理なら、せめてしばき倒したいと感じるのは俺だけじゃないはずだ。


「つか用がないなら帰れよ。自分の星に」

「はい? 生まれも育ちも地球ですけど?」

「あはははは、んな馬鹿な」

「いやいや嘘じゃないですよ?」

「だったらお前が動物界後生動物亜界脊索動物門羊膜亜門哺乳綱真獣亜綱正獣下綱霊長目真猿亜目狭鼻猿下目ヒト上科ヒト科ヒト下科ホモ属サピエンス種サピエンス亜種であることを証明して見せろ」

「いやぁん、先輩ったら……こんな場所で脱げだなんて、相変わらず、ダ・イ・タ・ン」

「もういいわかった、今のは俺の言葉が悪い。お前の頭の中身を測り損ねた俺が悪い……」


自分でも言った後に地雷だって気付いたさ。だけどまさかこうも予想通りの返しをするとは思わなかったけどな!


「生物学的に私はれっきとした地球人の雌です。だから雄である響先輩との交尾を本能的に求めてしまうのは極めて自然な事です。致し方ない事なのです。だから、ぜひ響先輩の子を孕みたいっ!!」

「交尾とか言うな。ってか人間なら理性持て理性」


あと拳握りしめて孕むとか力説するな。周りの目が痛すぎる。


「あ。ハッハァ~ン? 私、わかっちゃいましたよ?」

「何が」


すげえムカつく顔だった。


「それはあれですね? 実は響先輩、暗に私に異星人プレイを要求してるんですね?」

「してねえよっ。ってか、異星人プレイってどんなだよ!」

「それはもちろん、こうたくさんの手足でニュルニュルと穴という穴にズッコンバッコングチュグチュドッピュンと」

「………………うわぁ」


言葉も無い。しかもやたら擬音が凝ってるというか。

女子としてあり得ない身ぶり手振りで説明されて周囲から痛い目で見られてダメージ食らうのが俺だけってこれ如何に。いや、別にやらせてるわけじゃないですからね、皆さん?


「もういいからマジで帰れよ、おまえ………」

「ヤです」

「……じゃあ殴る」

「出来ればムチでお願いします……ポッ」


口でポッとか言って頬を赤らめて尻を差し出されても反応に困る。

仮に本当に殴ったとしても…………喜ばせるだけなんだろうな、絶対。


「さて、響先輩の悪ふざけに付き合うのはこれくらいにしまして」

「――いやいやいやいや、俺じゃねぇから?! ふざけてんのお前だから!?」

「それでですね、肝心の用件なんですが」

「いや、だから……はぁ、いいや、もうなんでも。てか用があったんなら最初から言えよ………」


俺のライフはもうゼロだよ。


「響先輩、私に勉強教えてください!!」

「な、に………?」


何か意外にまともな用件だった、が。


「……なんかの罠か?」

「違いますよっ」

「いや、だって、なあ?」

「私はいつだってまっすぐ意思を貫きます!」

「出来れば時と場合で止まってくれ」

「この想いはノンストップオーライなのです」

「道路標識は遵守しろよ。一時停止は大事だぞ」

「知ったこっちゃねえです。思い込んだら一直線処女膜貫通! アクセルは常に全開! それが私のジャスティス!」

「わかった。とりあえずお前は金輪際乗り物の類には乗るな」


思想が危険すぎる。


「うえぇぇん、嘘偽りなくピンチなんです! このままだと補習間違いなしだと担任のお墨付きも頂いてます」

「そんなお墨付き貰うなよ……」

「だってだってぇ!」

「しかしそうか……もうじき試験か」

「そうなんです!」

「それで俺に試験勉強に付き合って欲しいと?」

「はい! ついでに男と女として付き合ってください!」

「生まれなおそうが来世になろうがそれは断る」

「お願いじまずう゛ぅ~………」

「いや泣くなよ……」

「だってえ~……」

「ったく……」


小さく息をつく。


「とりあえずいいか?」

「?? はい……?」


俺はビシッと言い放った。


「俺がおまえの試験勉強に付き合ってやる義理も道理も無い」

「酷いっ!? 義理、あるじゃないですか。ギリ! カワウィー後輩の頼みだと思って~!」

「俺に痴女の後輩はいない」

「そ、そんな……バナナ」

「頼み事してる分際で、ちょいちょいふざける余裕があるのが異様にムカつくんだが。殴っていいか?」


こいつ絶対困ってないよな?


「どぉうかっ! どぉうか響先輩の学年トップクラスの頭脳をわたくしめにお貸しくださいぃ~!」

「嫌だ。絶対嫌な予感しかしない」

「そう言わずに! なにとぞ。なにとぞぉ~」

「なにとぞ、じゃねぇよ……」


珍しく真面目な様子で頭を下げてくるが今までが今までなので全然信用ならない。


「はあ……」


だがそれでこいつがあっさり退くなら苦労はないわけで。


「まぁそこまで言うなら試験勉強、付き合ってやらなくもないが……」

「ほ、本当ですか?」

「真剣にやると約束できるか」

「もちろん! 私が真剣じゃなかった事が今までありましたか?」

「お前という存在自体が全力でふざけてるだろ」


多分誰に聞いても同じようなことを言う。


「まあ……珍しくマジで困ってるみたいだしな。今回だけ特別に受けてやる」

「――イエッス!!」


ガッと男らしいガッツポーズ。

それだけ切羽詰まっていたのか………もしくは他意があるのかどちらかだな。後者は出来れば考えたくないが警戒は怠らずにいよう。


「いやー、本当に断られたらどうしようかと思ってました。響先輩以外に頼れる人がいないので」

「大袈裟なヤツだな。他に一緒に勉強するヤツくらいいるだろ」

「いません! 自慢じゃないですが私に一緒に勉強するような友達はいないですから」

「………すっげぇ納得」


まあ、こいつと普通の友人関係を築けるような強者はなかなかいるまい。いたらそいつは相当な大物かバカかどちらかだろう。


「それで、今日の放課後からでいいのか?」

「えっ、今日でもいいんですか?」

「ま、どうせ予定もないし。それにその様子じゃ相当切羽詰まってんだろ?」

「は、はい………助かります」


せっかくなら早い方がいいだろうと提案すると潤んだ瞳で見つめてくる。


「響先輩の愛、感じます………」

「いや、それはない。錯覚だから早く目を覚ませ」

「お礼に私の処女を差し上げますぅ………」

「あははは、まずは初歩として死んでみるか。馬鹿はなんちゃらって言うし」

「先輩に殺されるなら本望です!!」


……本当にお礼するつもりなら金輪際関わらないでいてくれる方が嬉しい……。






「ねぇ……やっぱ僕、影薄いのかな……」






――わ、忘れてた!


















そして放課後。修一と別れ、皆帰った後の人がいない教室に集合し俺たちの勉強会は始まった。


「よろしくお願いします」

「あいよ」


向かい合わせに座り頭を下げ合う。親しい仲でもこういうケジメは大切だ。

いや、別に親しくはないんだが。


「で? 何の教科をやるんだ?」

「えーっと………」


ガサガサとカバンから教科書を取り出して行く。

一冊、二冊、三冊、四冊…………。


「待て待て待て待て。何科目やる気だ、おまえは!?」

「え? えー……いち、に、さん、しー、ごー、……六科目?」

「俺に聞くな」

「前のテスト、保険体育と家庭科と音楽以外、赤点だったんですよねー。てへり」


こいつ………どんだけバカなんだよ………。


「笑い事じゃねえから……主要五科目全滅じゃねえか」

「赤点科目のバーゲンセールやー」

「ちっともうれしくねぇセールだな、おい。あと、そのネタ古いし、ネタっぽく言っても現実変わらんから」

「………で、ですよねー」


打ちひしがれている場合ではないが、さすがにこれは。


「でも保健体育は満点だったんですよ?」

「そんな『褒めて?』みたいに言われても。むしろおまえが保体苦手だったらおまえのキャラの方向性を疑うわ」

「ブレない女ですから」

「一見カッコよさげに言ってみても実際の内容知ったら絶望しかねえ」


もう気を取り直して、一からやるしかない。腹をくくろう。


「まあ、とりあえず数学から行くか」

「私、数式見ると昏睡状態になるんですけど」

「ペンを突き刺してでも叩き起こす」

「…………先輩が……響先輩が突っ込んでくれない……」

「おまえ、状況わかってるか?」

「うう」

「厳しく行くからな。居眠り、放棄は絶対許さん」

「……出来れば叱責はムチでお願いします」

「もし寝たら目と鼻の下にわさびな」

「地味にひどい?! っていうかツッコんでくださいよ~!」

「黙れ、いいから集中。今日中に数学と物理の公式全部頭に叩き込ませるから覚悟しとけ」

「う、うえぇぇぇん、こんなはずじゃー!」




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