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俺の場合

俺の連れは面倒な女だ

 世の中に俺の連れほど面倒くさい女はそうは居ないだろう。

 本当にあいつは面倒くさい。

 何で俺こんなに苦労しているんだろと、偶に自分の生き方に疑問を覚える程面倒くさい。


 例えば、連れが俺の肝臓めがけて掌打してきた場合(良い子の皆は真似するなよ?)、どうするか。

 正解はそのまま無抵抗で受ける、だ。

 避けても防いでも連れが怪我をする可能性が98%くらいだからな。


 例えば避けた場合。

 反射神経やら運動神経やらを何処かに置き忘れて来たらしい連れは、おそらくそのまま転ぶ。

 何でそこで転ぶんだとつっこみたくなるが、まぁ……あれだ、一種の得意技だな。きっと。

 普通の人間は自分の足につまづかない。

 段差も溝も無い所でひっかかるかることもない。

 だが、俺の連れはそれをごく自然にやってのける。

 ……と、こうやって話すと冗談みたいな話だが、昔実際にあったんだよ。

 確かその時はそのまま積んであったダンボールめがけてスライディングを決めていたな。

 しかもそのままその衝撃で崩れた荷物に埋まって、額から流血してた。流血については荷物のせいじゃなくて、あいつがバンザイの姿勢で倒れたからなんだけどな。何でそこで手を着かないんだお前は……てかコントかよ。今時コントでもそんなネタやらねぇだろ。

 荷物の下からぴょこんと2本飛び出した状態でじたばたしている細っこい足を見て、思わず半笑いになった俺の気持ちをどうか察して欲しい。

 ちなみに転ばなかった場合は、大抵その後よろけてどこかにぶつかる。

 何でそこでよろけるんだと訊きたくなるが、まぁ……あれだ、これも一種の特技なんだと思うしかないんだろうな。ふぅ。


 さて、次に防いだ場合だが……まぁ、これも例によって連れが怪我をするエンドだ。

 簡単に言えば、力負けするってことだ。

 ちゃちな木の枝でビルの壁を思いっきり叩けば枝の方が折れる。つまりはそういうことだ。

 うっかり防御なんてしてみろ。

 いくらあいつが手首や指を傷めにくい方法で俺を狙ってくるとは言え(何でそんな技術を身につけているんだ……いや、あまり考えるまい)、まず間違いなくあいつの手足が傷つく。

 だって、あんなにちっこくて細いんだぜ?

 手なんか俺の掌より一回りと言わず二回り以上小さいんだぜ?

 手首とか親指と人差し指の輪の中に入るんじゃないかと思うぐらい細いし、腕も細いし、肩も薄いし、ついでに言うと胸も薄……あ、これは関係ないか。

 まぁ自業自得とは言え、俺が防御したせいであいつのちっこい手に擦り傷だの、アザだの、下手をすれば骨折だのされて包帯が巻かれることを想像したらとてもじゃないが防御なんて出来ない。

 どうも俺はあいつに怪我されるのに弱いんだよなぁ。

 自覚はしている。

 本人は普段からああ言うボケっぷりで小さい傷を量産しているせいか、大抵のケガにはケロッとしているがこっちが無理だ。

 連れは傷の治りが遅い性質だから余計にそう思うのかもしれない。


 ま、そんなわけで俺は連れからの掌打なり蹴りなりは基本身構えずに受けている。

 元々俺達の体はSO繊維優位だから、弛緩状態の時はかなり柔らかい。

 ちなみに俺達の見た目がさほどごつくないのもこれが理由だ。スピードや瞬発力は技術や道具で補えるが、体力ばかりは自前で賄うしかないからな。脂肪を一定量にキープしているのもそれが理由だ。

 その為、俺達の体は世間が想像している程いわゆる「マッスル」では無い。

 見た目の派手さではなく、柔軟性と持久力に重点を置いて鍛えられているのが俺達だ……いや、けっして前に連れに「思ったより腹筋割れてないな。すげぇがっかり」と言われたのを気にしている訳じゃないぞ? これは純然たる事実だ。俺はあの件に関してはまったく、少しも気にしていない。これっぽっちもだ。


 いや、まぁとにかく。

 受け止めるだけにしておけば、骨でも叩かない限りあいつが怪我する心配はないってことだ。

 俺の方もまぁ、多少当たる感じはするが別に痛いとは思わない。

 だってなぁ……あのちっこさだぞ?

 ウェイトが軽いうえに手足もちっこくて短いからリーチが短い。溜めてから撃つってこともしないから一撃が軽い。そんなの受けたところで大して痛みがあるはずもない。

 気が済むまで好きにさせておけば、そのうち落ちつく。

 だいたい、連れも本気で怒ったり暴れていたりすることは殆ど無いしな。

 ちょっと機嫌が悪いか、逆に機嫌が良いかだ。

 普通の機嫌でも「イケメン退散」とか言いながら出会いがしらに蹴って来るけどな……。


 正直な話、連れのそういう行動にムッとすることもある。

 元々俺はそう辛抱強い性質たちでもないしな。

 女相手で俺の方からここまで譲歩したことなんざほぼゼロだし、こういう先の見えない今の関係に苛立ちを覚えたことだって数十回じゃあ済まないぐらいある。

 苛立ちに任せて怒鳴りつけてやろうかと思ったこともある。

 けど、そのたびに連れのこっちを探るような目を見て、ぎりぎりで思いとどまっている。

 我ながらこんなに自分が我慢が利くとは予想して無かったよ、まったく。


 ……と、この辺で俺がわざわざ「受けている」理由のもう1つに気付いた奴も居るんじゃあないだろうか。


 お察しの通り、さっき言った避けたり防御すると連れが怪我するというのは根本の理由じゃあない。

 避けて、こける前にフォローするぐらい俺にとっては簡単だからだ。

 ただ、連れが俺に蹴りを入れて来るのが……ああ、あんまり言うとノロケになりそうだな。やめておこう。所詮俺の想像でしかないしな。とにかく、そういうことで正面から受けて立ってる訳だ。


 まったく、面倒くさい女だ。

 ゲームならとっくに攻略対象外認定されてるだろうな、あいつは。

 本当に、面倒だ。

 でも、まぁ……試されるような真似をされるってのは、ある意味じゃあ期待されているってことだ。

 期待されているなら、応えない訳にはいかないだろう。

 非常に面倒くさく、かつ分かりにくく、回りくどい形だが……可愛い俺の女のおねだりだ。

 聞かない理由が無いだろう?


 そんなわけで、今日も俺は上機嫌で蹴りかかって来る連れの相手をしている。

 まったく……やれやれだ。


 

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