☆+8 休日の顔
残業に残業、激務で激務な仕事をやり遂げた週末、私は一人で、買い物の為に街に出てきていた。
用事は日用品や食料品の買い足し。その帰りにちょっとしたカフェによるのが、私の昔の唯一の楽しみで生き抜きだった。でも今は。
「なぜ、こんな処に・・・」
アイスコーヒーを啜りながら、雑誌で顔を隠す。
休日であるのなら、有名なカフェにいれば、知り合いに遭遇する事は想像できてはいた。しかし、あの人だけは、社長だけは想像外で、予想外だった。
内心で戸惑う私の視線の先では、そんな私を嘲笑うかのように、社長は家族と笑顔で楽しそうに笑っている。
社長の隣には美しい女性と、その向かいには、女性に良く似た可愛い女の子。
見るからに美男美女のカップルで、夫婦で、理想の家族だった。
なのに、私は見てしまった。と言うか、見えてしまった。
一瞬、ほんの一瞬だけ社長が、その切れ長で鋭い瞳に仄暗い光を宿し、自分の横に座る美しい女性を嘲笑ったのを。
それは本当に一瞬の事で、信じられなくて、私が瞬きをして、もう一度確かめようと目を開けた時には、その仄暗い笑みはもう消えていた。
あまりのその変わりように、私は驚き、また恐怖に怯え、震えた。
だから私はそれからまるで逃げる様に、カフェから飛び出し、家に急いで帰った。
まさかその姿を、私の行動の全てを、本人に見られているとも知らずに。