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日陰の恋花  作者: 篠宮 梢
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☆+38 お泊まりは隠れ宿で

 半日以上じっくり時間をかけて美術館を踏破した私と歌音ちゃんは、途中で仕事やら弁護士さん達から色々と電話が掛ってきて途中退場するしかなかった弌葉さんが待っていた、美術館に併設されている喫茶室で待ち合わせ、帰る前に迷惑をかけた美術館関係者の人達にお礼と謝罪をした。


「すみません、私どものせいで此方にご迷惑をおかけしてしまったようで、本当に申し訳ございません。」


 本当は彼らは私達が他のお客様の迷惑になると言う正当な理由で追い返す事もできたはずなのに、彼らは追い返すのではなく、護ると言った形にでてくれた。

 それがどれだけ嬉しいことなのか、それはきっと私達にしか理解できない。


 世間の人達は許されない関係に酔っているとか、ふしだらな関係だと白い目で見るだろう。


 けど、それって逆に言わせて貰えれば、健全って何?許される恋って何?って、問い詰めたくなる。


 たまたま好きになった人が妻子持ちだったからって、それで嫌いになったり、冷めたりする程度の感情なら、それは恋とは言わないと思うの。


 世の中には純愛と言う言葉があるようだけど、そもそも本来の恋は綺麗なモノじゃない。

 恋は傷付けあったり、騙し合ったり、奪いあうモノだと思う。その欲に塗れた感情や関係が昇華し、進化を遂げた関係が愛であって、初めて恋愛になるのだと、私は思っている。


 まぁ、私の意見はかなり捻くれてるから、加減を少し間違えれば、それはストーカーを擁護する理由になっちゃう可能性もある。


 そうなるかならないかは、あくまで本人次第ではあるけれど。


「いいえ、お客様は何も悪い事はしてらっしゃいません。お気になさらずに。どうかまたお越し下さいませ。職員ともども心からお待ち申し上げております。」


「そうか、ではまた寄らせて貰う。娘も彼女も美術関係は特に好んでいるからな」


「はい。お待ちしております、御鹿倉様」


 うん、彼らはどんな職人たちよりもプロだ。

 明かに迷惑を被ったのに、それは迷惑ではないと否定し、更に再びの来館を促す。


 昨今、行楽が溢れているこの国の美術館事情は、実はかなり際どい所に立たされているらしく、如何にして集客数を伸ばすかで頭を悩ませているらしい。


 それから推測すると、ここの美術館員さんは揃いも揃って仕事に打ち込んでいる事が判る。それが伝わってきたから弌葉さんもまた来ると約束したのだろう。

 その後、美術館を後にした私達は、真直ぐ家に帰るのかと思いきや、弌葉さんの提案で、と言うか御鹿倉親子の初めからの計画で、旅行雑誌にも紹介されていない、会員制の隠れ宿に泊る事になった。


 当然、何も聞かされていなった私は二人に抗議した。

 それに対し返ってきた二人の反応と言えば。


「...今日は、今日だけはどうしても帰したくないんだ。ユキ」


「ママぁ~、かのんいい子にするからお泊まりしよう?」


「・・・。」


「ママぁ~」


「柚妃・・・、」


 立派な日本家屋建築の豪勢な宿の前で口説かれた私は、黙って二人に両手を差し出す事で私の考えを伝えた。初めこそ、それを疑問視していたような二人だったけれど、旅館の女将に答えを教えられた事で、酷く嬉しそうに笑みを浮かべた。 


「奥様は仲間外れが寂しかっただけの事でしょう。本日はごゆっくりお過ごしくださいませ。当宿は完全紹介会員制なので、静に過ごせる事をお約束いたします」


 そう言ってにっこりと素敵な笑みを、皺が刻まれていても年齢を感じさせない綺麗な顔に浮かべた女将さんは、仲居さん達に案内させるのではなく、進んで私達を部屋に案内してくれて、更には美味しいお茶まで淹れてくれた。


「おいしいね、ママ。」


「そうだね、美味しいね、歌音ちゃん」


 にこにこご満悦な歌音ちゃんに流され、私は歌音ちゃんがいつの間にか私を名前を付けずに「ママ」と呼んでいる事を気にも止めていなかった。

 だからその日の夜遅く、私は弌葉さんに抱かれながら、「もうすぐだから待っていてくれ」と言われても、何がとしか返せなくて、それで不機嫌にさせてしまった弌葉さんに、結局朝が明けるまで抱かれてしまったのは、自業自得としか言えないけれど。


「ママ、かのん、弟と妹、どっちも欲しいな♡」


 くふふふ、と、悪戯っ子な笑顔を浮かべた歌音ちゃんの発言に、声にもならない悲鳴をあげるコトになったのは、絶対弌葉さんのせいだと思う。



 こうして私達の初めての旅行と言う名のお出掛けは、無事?終了したのだった。  



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