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日陰の恋花  作者: 篠宮 梢
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☆+2 目覚めはホテル。

 人生には「まさか」と言う坂が、幾つもあると言う事は、常識の知識としては知ってはいた。

 でも、いざ自分がそういう状況になってみると、私はそれこそ「まさか」と思った。


(えーっと、これは、どういう状況なのかな?)


 ズキズキと痛む米神を指で揉み解しながら、今の状況を整理する。


 羽根の様な軽さの布団の温かさに、ふと目を覚ませば、見た事もない天井が目に入った。

 そして次に感じたのは、シーツの感触。


 サラリとした肌触りは、家のモノじゃあり得ない。


 悶々と考えていると、隣からヒトが動く気配がして、そちらの方へ何気なく視線を向ければ、上半身裸の男がいた。


 暫く言葉もなくガン見していると、そんな私の視線に気付いたのか、男は眉間に皺をよせ、低い声を漏らした。


「起きたのか・・・?」


「あ~、ハイ。なんとか・・・」


「なら、着替えろ。自宅まで送る」


 その言葉に、目眩がした。


 どうして私がここにいるのだ、とか、貴方は誰なんだ、とか、聞きたい事、言いたい事は沢山あるけれど。


(知らない人と寝てしまった・・・。)


 それが私の最初に思い、感じた事。


 でも、一言寝てしまったと言っても、致した形跡や感覚はない。

 それでも後悔は募るし、感じる。


 そんな様子の私を特に気に掛ける訳でもなく、上半身裸の男は、そのしなやかで筋肉質な身体を起こし、シャワールームの中へと颯爽と消えていった。 

 

 そして、間もなく聞こえてきたシャワーの音。


 で、現在に至る。


「うーーん、とりあえず着替えが先だよねっ、て、えぇーーーっ!?」


 現状に悩みつつ、何気なく視界に入ってきた時計を見て、私は思わず叫んでしまっていた。


 時計は午前の10時をとうに過ぎており、間もなく11時を指そうとしている。

 

「お弁当~、タイムセール、集金、銀行~」


 やる事があるから、今日は事前に休みを取っていたのに。 

 特に今日は下の子の授業参観の日。

 寂しがり屋のあの子の事だから、泣いただろう。


 ならば、こうしてはいられない、と、思い立った私は、椅子に掛けてあった服を見つけると、秒速で身につけ、転がっていた鞄から財布を取り出し、一万円札を何枚か抜き取り、ベッドのサイドテーブルに置き、部屋から飛び出し、ホテルを出るなり、ひたすら走り、バスに飛び乗った。


 運が良かったのは、ホテルから普段通勤で使っているバス停が近かった事。


(と言う事は、あそこは≪AYAHASHI≫ヴィランテ・ホテル?)


 あのホテルは一泊ウン十万もするというバカ高いホテル。

 ただ高いだけのホテルなら潰れるだろうが、あのホテルは違う。


 料理からサービス、接客までの全てにまで教育が行き届いている。

 

 特に料理の方は、社長が自ら企画・提案・調理の段階まで力を入れていて、月に何度か極秘で視察やチェックを入れているらしい。


 どうせなら、朝ご飯かお昼ごはんを食べたかったなと思いつつ、私は降りるべきバス停でバスから降り、主婦になるべくして、ひたすら家まで走った。


 この時の私は、一緒にいた相手が誰だったとか、自分が相手にした失礼な行為を、正しく理解していなかった。


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